『ジョーカー』観てきたっす。

 今日は話題の『ジョーカー』観てきました。未見の人も多いので詳しい感想は週明けに書きたいと思いますが、この作品はマーティン・スコセッシ作品のオマージュということもあって、ほとんどNY市でロケしているんです。なんなら、背景にブルックリン橋を写したりしてて、作り手が意図的に架空のゴッサムティー感を排しているので、もう地下鉄のサインとか街の作りがあからさまにNYなんです。

 

 そうするとですね、ちょっと前まで暮らしていた街に対する切なさに殺されそうになる、という作り手も予期していなかった副作用に襲われました。今日も大家に家賃の取り立て連絡があったので、早く帰って荷物引き払わねば……。

 

 あ、ちなみにNYのニックネームはゴッサムと呼ばれていて、もちろん『バットマン』のゴッサムはNYをモデルにして命名されたんですが、結果『ジョーカー』では逆転現象が起きていました。もう一つ余談を加えると『ダークナイト』シリーズのゴッサムのロケ地はシカゴ。

 

taiyaki.hatenadiary.com

 

 

映画秘宝 2019年 11 月号 [雑誌]

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『マッドマックス/怒りのデス・ロード』と編集

  • 今日は新宿ピカデリーの爆音上映で『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を観てきました。何回観ても言わずもがな相変わらず最高なんですけど、僕は人生この先一体後何回『マッドマックス/怒りのデス・ロード(以下MMFR)』を鑑賞して感想を書くのか分かりません。V8!V8!V8!

     

  • 正直毎回最高だった以外の感想はなく、もうそれでいいんじゃないかって気がしますが、まあせっかく今日も記事にするなら今まであまり書いてない事を書きますと編集も最高ですね。『MMFR』の編集を担当したのはマーガレット・シクセルというで、シクセルは『MMFR』で第88回アカデミー賞編集賞を受賞しています。ちなみにシクセルはジョージ・ミラー監督の実の妻でもあり、『ベイブ 都会へ行く』『ハッピーフィート』などの作品を手が掛けています。
    ベイブ都会へ行く (吹替版)

    ベイブ都会へ行く (吹替版)

     
    ハッピー フィート (字幕版)

    ハッピー フィート (字幕版)

     

     

  • 全編アクションで構成されている『MMFR』はそのスピード感を高める為に、随所で様々な工夫が見られます。例えば町山智浩氏が指摘しているように『MMFR』はコマ落としという技法が使われています。冒頭でマックスがウォーボーイズから逃れる為にシタデル内を疾走するシーンでがカクカクして見えるのはコマ落としの為です。



  • あと僕がいつも観ていて感嘆させられるのはとてもスムーズなジャンプカットです。映画史に残るジャンプカットと言えば『2001年宇宙の旅』の超有名なアレ*1ですが、ジャンプカットは前後のアクションの繋がりが飛ぶので、こう言う意表を突いた演出以外では不自然に思えます。昨今のジャンプカットを多用するYouTuberにイライラするのも生理的にムカつくからですが、『MMFR』のジャンプカットは不自然に見えるどころかアクションを円滑かつ素早く見せるのに効果を発揮しています。一例として、誰もがテンション上がるドーフウォーリアーがドラムを叩くシーンを観てもらえればジャンプカットの役割が分かりやすいかと思います。(下記動画の0:37〜あたりから)



  • 『MMFR』は複雑で壮大なカーアクションを存分なく押さえる為に、常時20台ものカメラが回されていました。ナミビアで撮られた素材は毎日シクセルがいるシドニーの編集スタジオに送られたのですが、毎日10〜20時間ほどの素材が送られました。主要撮影が終わった頃、合計で470時間もの素材がシクセルの手元にありましたが、全てに目を通すのに3ヶ月かかったと言います。シクセルと彼女の編集チームは1日10時間、週6日働きましたが、最終的に2時間の上映時間に収めるのに2年かかりました。主要撮影が2012年に開始され年内に終わったにも拘らず、公開が2015年になったのはこの膨大な編集作業も一因です。
  • 完成した『MMFR』は2700以上ものカットで構成されています。ちなみに、通常の映画のカット数は1250カットくらいなので、『MMFR』は倍以上のカットで構成されていることになります。単純計算で、1カットにつき平均約2秒ほどです。確かに『ボーン・スプレマシー』以降のアクション映画の流行はドキュメンタリー的にわざと大きく手ブレを加えた撮影と、極端に短いカット割りになってきていますが、凡百の『ボーン〜』フォロワー映画はガチャガチャした手法の扱いに失敗して何が何だか分からない内に終わってしまうアクションがほとんどです。
    ボーン・スプレマシー (字幕版)
     

     

  • しかし、『MMFR』は1カットにつき約2秒と言うとても短い編集ながら何が起きているかとても分かりやすく、混乱することはほとんどありません。その理由は編集と連動した撮影にあり、ジョージ・ミラーは現場で常に「人物の鼻をセンターに!」「銃をセンターに!」とモニター越しのトランシーバーで撮影監督のジョン・シールに口酸っぱく毎日指示を出していたそうですが、『MMFR』の画面上重要な要素は常に画面構成のど真ん中に配置されています。撮影中から短い編集テンポのことを考えていたミラーは、このセンターフレーミングこそ観客を置いてけぼりにしない手法だと考えていたのでしょう。その目論見は大正解でした。もちろん、この撮影がシクセルが編集作業を行う上で大きな助けになったことも言うまでもありません。



  • なお、ミラーがシクセルを編集に起用とした理由は「彼女がこれまでにアクション映画を編集したことが無かったから」と語っています。誰も観たことが無いアクション映画を作り上げたかったからこその起用でしたが、ミラーのビジョンは見事シクセルの編集によって再現されました。ちなみに、ハリウッドの優秀な編集者には女性が多いのですが、その歴史を辿ると興味深く、ハリウッド創世記には編集者はほとんど女性が雇われていました。
  • 理由としてフィルムの編集作業とミシンを縫う作業が似ていたので、女性が適役だと思われていたそうです。プロダクション内での編集の重要度が増すと編集室から女性が追いやられ、男性が仕事を奪ってしまいましたが、今日でも男性に負けじと業績を残す女性は数多くいます。スコセッシなんかは50年近く自作品の編集はほとんどセルマ・スクーンメイカーに任せていますし、『スター・ウォーズ/新たなる希望』でジョン・ジンプソンの編集が気に食わなかったジョージ・ルーカスは当時の奥さんであったマーシア・ルーカスを起用し、伝説のヤヴィンの戦いの素晴らしい編集が生まれました。

     

  • 最後の方は話が逸れましたが、爆音だろうが何だろうがとにかく『MMFR』は何度観ても最高でした。あ、ただ今回日本公開版を初めて観ましたが、エンドクレジットで無理やりMAN WITH A MISSIONのオリジナルタイアップ曲が流れて絶句しました。それも今日は編集の話ばかりしましたが、サントラへの組み込み方も超雑な編集で、これで一体誰が得したっつうんだよ。マジで興が削がれましたが、万が一これを読んでる配給会社だとか広告代理店の偉い人がいましたら、テキトーな思いつきのタイアップはこのように後世まで残るのでよく考えてから企画してくださいね。

 

 

以下参考文献

www.provideocoalition.com

vashivisuals.com

kottke.org

*1:

2001年宇宙の旅 (字幕版)

2001年宇宙の旅 (字幕版)

 

レト版ジョーカーに救いを!

 僕は2016年の『スーサイド・スクワッド』が大好きでその年のベスト10に選んだほどですが、『スースク』に登場したマーゴット・ロビー扮するハーレイ・クインに焦点を当てた『Birds of Prey』の予告編が公開されまして朝からテンション爆上がりングでございます。

 

 

 どうやら『Birds of Prey』においてハーレイ・クインちゃんはジョーカーと別れてしまったそうで、これまでジョーカーに依存してきたハーレイ・クインの自立を描いた作品としてテーマ的には注目に値しますが、『スーサイド・スクワッド』のファンとしてはジャレッド・レトのジョーカーを今後DCEUで観れることができるのかがいまいち不明瞭で心配でなりません。

 

 だって、ジェームズ・ガンがメガホンを握ることになった『スーサイド・スクワッド』の続編『The Suicide Squad』*1ではジャレッド・レトは今の所キャスティングすらされていませんし、今週末に公開を控える『ジョーカー』だって(滅っっっっっっっ茶苦茶期待はしているものの)一体ワーナーがどう言う意図でDCEUと切り離した単独スピンオフを作っているのか分かりません。レト自身も『スースク』の劇場公開版編集の出来について不満をインタビュー等で公言しているのもハラハラさせます。僕はジャレッド・レトのジョーカーのDQNっぽい雰囲気が超好きなのですが、世間では何故か『スースク』が駄作と評されてしまっていてその煽りを受けて大概「歴代ジョーカーベスト」企画なんかでは下位の方で固定化されてきているのは憤りを感じます。

 

 まあ、そうでなくてもベン・アフレックが『The Batman』から降板したり、『シャザム!』にスケジュールのいざこざでヘンリー・カヴィルのカメオが実現しなかったりで、昨今のDCEUは雲行きがずっと怪しくて不安なのですが、その『シャザム!』だってウルトラ超傑作で『アクアマン』も楽しい作品でしたので、ワーナーには世間の声には負けずになんとかDCEUの舵を切りなおしてほしいですね。Wikipediaには『Harley Quinn and Joker』が『Birds of Prey』のプロダクション終了次第制作開始と書いてあったのですが、今ばかしはWikipedia情報のきな臭さを全力で無視して応援したいと思います。

 

I can't wait you show me your toys!!

 

 

*1:あと、『The Suicide Squad』は『スーサイド・スクワッド』の軽いリブート、みたいな公式の言い方も気になります。

メタ化する社会

 僕はアメリカだと今年公開されたデヴィッド・ロバート・ミッチェルの『アンダー・ザ・シルバーレイク』が大好きだ。『アンダー・ザ・シルバーレイク』はボンクラな主人公サムがLAに隠された秘密を知っていくミステリだが、僕は陰謀論にハマる人の欲望をよく表したサタイアだと思っている。何もすることもやりたいこともなくダラダラとしているサムは、行方不明となった謎の美女を追っていくうちにハリウッドの成功者達やセレブ内で蔓延る謀略そのものにいつしかのめり込んでしまう。

 

 人は世間や世界のことを理解していたい欲を持っているし、あるいは世界を他人よりも理解していると錯覚を起こす。しかし世界や社会は考え得るよりもずっと複雑なシステムでできており、そのシステム全てを理解するのは凡そ不可能であるが、陰謀論によって人は世界を単純化して理解しようとする。一部例を挙げれば、日本共産党は中国が支配している、マスコミは反日である、NHKは政府のプロパガンダである、バラエティは全てヤラセである、ヒットチャートは大手エンタメ企業が操っている、売れている小説にはゴーストライターがいる、芸能界には枕営業がある。実際にはA=Bで数式化できるほど物事は単純ではないが、間にある複雑なプロセスをすっ飛ばすことで、自分が気に入らない社会や事象を納得してみようとする。

 

 SNS社会においては特にそれが顕著で、言い換えると人は物事を「メタ化」して俯瞰するのが偉いと思っている。昨今日韓関係は冷え切っていて左右どちらでも数多の人がそれぞれ意見を述べているのを見かけるが、韓国がGSOMIAを破棄した際GSOMIAがツイッターのトレンドに載り、例に漏れず色んなアカウントがGSOMIAについて論じていたのに驚いた。だって、僕はGSOMIAなんてそれまで人生において一回も聞いたことがなかったのに、まるで一般常識のように語られていたからだ。意地悪い言い方をすれば、慌ててググって論争に参加した人も少なくないんじゃないか。メタ化する社会においては誰もが全ての事象について理解していることが求められるが、その知識がWikipediaに記載されている事を超えることはない。

 

 なんでこんなことを急に書き始めたかというと、山梨のキャンプ場で女児が行方不明になったニュースに対し、親を責める書き込みがあまりに多くて腹が立ったからだ。母親のSNSアカウントを特定し、何気ない投稿を探し出してあたかも母親が娘に手をかけたかのような批判をする人を少なくない数を見かけた。しかし彼らは薄っぺらい正義感を通勤途中の電車の中や休憩中に披露して日々のストレスを発散し、メタな視点な立場で事件を俯瞰できている優越感に浸っているだけだ。もちろん、事件の当該者たちの気持ちなんてこれっぽちも考えてなんかいない。

 

 SNSにより発展してしまったメタ化する社会に対抗する手段は、ソクラテス的な「無知の知」という姿勢だ。自分は物知りである、というエゴなんかよりも、何も知らないからこそ学ぶ姿勢こそ崇高で、事情を知らないからこそ相手を思いやる気持ちの方がよほど敬意に値する。物知りマウント取りゲームなんてファックオフだ。

 

 

 

あと20分で増税

 失職中の身には辛いぜ、全く…。ちなみに僕は退職金も失業保険ももらっていないのでとんだブラック企業だな〜とプンプンしていましたところ、調べてみたらほとんどのアメリカの企業は退職金はなく、失業保険もレイオフ以外は支払われないと聞いてビックラこきました。流石個人主義の国ですが、なおのこと金がなくて辛いぜ…。あ、ちなみに10月中にESTAアメリカに戻って自分の全ての資産や所有物を引き払って来る予定で、最後のアメリカ堪能したら日本に本格的に動き出す予定です。以上業務連絡です。