311後を救うのは/『ガメラ 大怪獣空中決戦』★★★

 ようやく怪獣映画の最高峰と名高い金子修介監督『ガメラ 大怪獣空中決戦』を観た。北米Aamazonでアメリカ版Blu-rayを購入。日本版も出てるけど僕が買った時は円高で安かった(3部作合わせて1500円くらい。日本版は現在9000円近い)し、海外版でもばっちり日本語音声収録なので、特にこだわりがなければ購入をお勧めします。リージョンコードも一緒だし。ただ、特典映像が無いのが玉にキズ…。*1

 

 プルトニウム輸送船「海竜丸」の警護にあたっていた海上保安庁の巡視船に、「海竜丸」が座礁したとの連絡が入った。その環礁はまもなくまるで生き物のように「海竜丸」から離れていった。その頃、福岡市の動物園に勤める鳥類学者・真弓(中山忍は、五島列島姫神島で消息を絶った恩師・平田を心配して県警の大迫とともに島に飛んでいた。彼女がそこで見たものは、巨大な鳥によって破壊しつくされた島の変わり果てた姿だった。一方、「海竜丸」の座礁事件の謎を追う保安庁の米森(伊原剛志は、海上保険会社の草薙を頼って調査船に乗り込む。太平洋上で環礁を発見し上陸した米森たちは、そこで不思議な金属片と、碑文の書かれた大きな石碑を見つける。ところがその瞬間、環礁は再び生き物のように動き出した…。(goo映画より引用)

 

 今更語るまでもない大傑作。樋口真嗣が担当した特撮は昔ながらのミニチュアがメインで、公開年の1995年といえば2年前に史上初めて本格的にCGを用いてリアルな怪獣(恐竜)描写に成功した『ジュラシック・パーク』が世界的大ヒットを飛ばしていたが、ILMやティペットスタジオが作ったT-REXにも樋口ガメラの迫力は劣らない。「怪獣大好き!」と公言していた金子修介の演出は冴え渡り、有名な「人の目から見た視点」が臨場感を増し、報道映像を織り交ぜる事で「実際に日本に怪獣という災害が現れたら」というシミュレーション映像を作る事に成功している。斬新な手法を用いつつも、赤字のゴシック体によるオープニングロールやエンディングの「終」の文字など先人たちへの敬愛も忘れない。

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 さて、僕は一昨日この作品を観るに辺り、一応昭和ガメラシリーズのうち『大怪獣ガメラ』(1965)『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967)の二本を予習しておいた。特撮映画としては充分面白いシリーズではあるものの、昭和ガメラシリーズは子ども向けに作られており、ガメラが背中に子どもを乗せて飛ぶ描写などちょっと観るに耐えかねないシーンが多い。しかしそれ以上に僕が思う昭和ガメラシリーズの問題点は、ガメラ何を象徴しているのかが不明な点だ。

 

 怪獣映画の「怪獣」というのは大抵何がしかの象徴だ。有名な例が『ゴジラ』で、ゴジラは水爆実験で目覚めた怪獣であり、これは公開前年の第五福竜丸事件を受けての設定で、またご存知の通り日本は唯一の被爆国であるのでゴジラが日本を襲う様は日本人の核への怒りを表している。先に挙げた『ジュラシック・パーク』で人を襲うT-Rex現代科学の暴走を表し、POVの傑作『クローバーフィールド/HAKAISHA』でNYを破壊する怪獣も当然911の再現。評判は悪いけど、『SUPER8』でのどかな田舎町を襲う宇宙生物も母を失った少年の怒りの象徴だ。しかし、『ゴジラ』の二番煎じとして作られたガメラただの子どもたちのヒーローであって、現実の具象を特に背負っている怪獣ではない。

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 しかし、ガメラシリーズを復活させるにあたって、脚本の伊藤和典はリブートをかけ、本作でフィーチャーされるガメラとギャオスに超古代文明が産み出した二大生物という新たな設定を加えた。光森は謎の環礁でルーン文字で書かれた碑文を発見し、文字を解読すると次のように書かれていた。

 

最後の希望<ガメラ>、時の揺りかごに託す。災いの影<ギャオス>と共に目覚めん。

 

 ギャオスは目的は不明ながら、超古代文明の遺伝工学により産まれたという。無駄の無いDNA構造で、単為生殖が可能であり、成長速度が恐ろしく早い究極の生物だ。遂にギャオスが自分たちの手に負えなくなった古代文明は、慌てて対抗兵器としてガメラを産み出す。しかし、それも間に合わなかったため結局文明は滅んだが、次の文明に託す為ガメラを完成させたのだった。二体は長い間休眠していたものの、激変した日本の環境が二体にとって適していたため、現代の日本に蘇ったという。

 

 この説を聞いた光森は怒りを顕にする。
古代文明迷惑なものを残してくれたよ!
 それに対して真弓は光森を諭す。
「私たちもとんでもないものを残そうとしてるわ。例えば、プルトニウム
 そして絶望的に光森がプルトニウム半減期「2万4千年」と答える。何万年も前に産まれたギャオスはプルトニウム、更に言ってしまえば原発そのものだ。文明の産み出した科学が手に負えなくなり、結果的に未来の世代まで大きな負債を残す。

 

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 1995年当時、金子修介はもちろん2013年現在の事などを考えて作品を作ってはいなかっただろう。プルトニウムを持ち出したのも、怪獣映画としての一要素としてしか捉えていなかっただけに違いない。しかし、さっきこの作品を「一昨日観た」と答えたけど、いま鑑賞すると本作が311以後の日本の事を表象しているので背筋が凍る思いをした。作中、無能な政府により被害が拡大していく様も民主党政権みたいで笑えない。この期に及んで「ギャオスを捕獲する」なんてアホか!「今更語るまでもない」なんて書いたけど、あれから2年経った今日、今こそ見返しておくべき奇跡的な映画だ。

 

 だけど、映画の中の人たちはまだいいよ。古代文明ガメラを作ってくれたから。ラストで海に帰るガメラをみて光森が「ギャオスがまた現れたとき、次にガメラが来てくれるとは限らない」と不安そうに呟く。だがガメラと心を通わせた少女、浅黄(藤谷文子)は強く答える「来るよ、ガメラはきっと来るよ!」でも僕らの世界に「ガメラ」はまだいない。


Gamera: Guardian of the Universe (1995) - Trailer

*1:追記 2013/1/12 普通に二枚目のディスクについてました!ごめんなさい!