アクションスター不在の時代/『大脱出』★★☆

 現在のアクションスターって誰だろう?

 ジェイソン・ステイサムヴィン・ディーゼルチャニング・テイタム?確かに彼らの作品はアクション映画が多いけど、スターかと聞かれると「うーん?」って感じだ。

 
 じゃあ自分にとってのアクションスターは誰だろう?

 僕が映画館通いを始めた高校から現在までに観たアクション映画を振り返ってみる。ジャック・スパロウジョニー・デップバットマンクリスチャン・ベールブラッド・ピットユアン・マクレガー

 うーん、どれも「アクション」スターとは言えないなぁ。ヒュー・ジャックマンダニエル・クレイグトム・クルーズ辺りはそう言えるかもしれないけど、アクションスターって言えるほどのカリスマ性はない気がする。ひょっとして今はアクションスター不在の時代と呼べるんじゃないか?
 
 でも、ちょっと前の時代は違ったらしい。シルベスター・スタローンアーノルド・シュワルツェネッガーがいた。

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 80年代から90年代初頭の冷戦時代、「強い国アメリカ」のイメージを作り出すためハリウッド映画は筋骨隆々のアクション大作を量産したらしい。その多くの中心にいたのがスライとシュワだったそうな。二人が1980年から1991年にかけて出演した映画はなんと合計30本!しかもそのほとんどが大ヒット、二人は時代のアイコンだったらしい。
 

 さっきから伝聞ばかり使っているが、だって僕は彼らの全盛期を全く知らない。酷いけど、シュワ=T-800、スライ=ロッキーくらいの印象しかなかったし、さらに言ってしまえば僕が思春期を過ごした2000年代のシュワは俳優というより政治家だし、スライはステロイドの人だ。かつてのカリスマ性はもはや二人にないことは明白であった。

 
 2000年代はアクション映画も変わった。マッチョで屈強な男よりも細身なイケメンがウケるようなり、スタントよりもVFXが物を言うようになった。ヒーローたちは911を経て絶対的な正義を信じるより、本当の正義や悪について悩むようになった。つまりキャラよりも内容が重視された。結果、先に述べたようにアクションスター不在の時代が訪れた。
 
 そんなナヨナヨした時代に物申すべく、2010年代になってスライとシュワが再び立ち上がった。スライは『エクスペンダブルズ』を撮り、自らを消耗品と自嘲しながらも新旧のスターを集めて「俺はまだまだイケるぜ!」ということを体現した。シュワも政治活動をやめてスライに誘われ消耗品軍団に加入、そして『エクスペンダブルズ2』と『ラストスタンド』で戦場に完全復帰。やはり彼にはインテリなど似合わない。

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 かつてのスターの元、時代に逆行した80年代チックな映画が次々に公開されたが、それらの作品群を見て僕は感激した。だって、ハッキリ言って馬鹿にしていたじーさん達が老体にムチを打ち、「若造に負けんぞ!」と大暴れしているんだもの。『ラストスタンド』予告でシュワが「歳だ…」なんてボヤいて心配になったけど、屋上から飛び降りるシーンはノースタントでやってるからね。本来ならシニア割引で映画館も安く入れる年齢だろうに。尊敬する他ない。

 そしてかつてのアクションスター2人が遂に『大脱出』でW主演を果たした。往年のファンにとってはデタント並みに待ち遠しい出来事だったんじゃなかろうか。(何度も言うけど、僕は知らないからね)他のキャストの平均年齢は若く、2人を苦しめる看守なんで30代くらいの見た目。これは多分意図的。若い虎に挑む生きた化石シュワの口元には伸びきった白髭が生えている。

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 正直に言うと、中盤ダレるし、シナリオは完璧ではなく、2人の動きもDVDで見る旧作より鈍い。監督の演出も平凡で、積極的に褒めようとは思わない。*1
 
 それでも体を酷使するスライ、スローモーションの中で重火器をぶっ放すシュワ、現代を生き抜こうとするかつてのアクションスターの姿に、若造の僕は快哉を叫ばざるを得ないのだ。
 
 ……ただ、興行的に見ると『エクスペンダブルズ2』以降の『バレット』『ラストスタンド』といった二人の単独主演作、そしてこの『大脱出』はコケ続けているので、ひょっとしたらそもそも今の観客はアクションスターを求めていないのかもね。寂しいけれど。

ESCAPE PLAN - Official Trailer (HD) 2013 - YouTube
日本版予告は思いっきりネタバレしてやがるので貼りません。

*1:まあ、二人が主演してた数多くの作品だってそんな出来なのが多いよね。