日曜に予定が17:00に終わり暇ができたんで、バルト9で評判がいい『プリデスティネーション』が17:45から上映だって言うから急いだけど満席で入れず、代わりに亀梨和也主演の『ジョーカー・ゲーム』を鑑賞。『ジョーカー・ゲーム』は19:50の回だったので2時間も予定が空き、こういうときに一人だと絶望するよね。原作は柳広司の同名小説、監督は『SR サイタマノラッパー』で高い評価を受けた入江悠だが、どちらも僕は未見。
軍部が主導権を握りつつあった第二次世界大戦前夜。大日本帝国陸軍の若き青年(亀梨和也)は、訓練中に病気の仲間をかばって上官を誤って殺してしまう。極刑を言い渡された青年は刑が執行されんとするまさにその時、謎の男・結城(伊勢谷友介)に身柄が引き渡され、軍部でも限られた人のみその存在を知る「D機関」という諜報組織の一員として参加することになる。厳しい訓練を通してスパイとしての素質を発揮させた青年は、いよいよ「嘉藤次郎」*1の偽名を与えられ、新型爆弾の製法を記した「ブラックノート」を手に入れるべく、国際都市「魔の都」への潜入作戦を命じられる。そして潜入先の米国大使館で青年はリン(深田恭子)という謎の美女と出会う…。
制作側がやりたいことは明白で、それはハリウッド製スパイ映画×『ルパン三世』である。冒頭のタイトルクレジットは『007』シリーズ恒例のオープニングだし、身近にある小物を使ってのアクション*2は『ボーン・アイデンティティー』から、クライマックスの音楽や導火線はどう考えても『ミッション:インポッシブル』シリーズからの引用だ。スパイ映画だけでなく、アジアが舞台ということでニワトリは狭い路地裏などを使ったジャッキー・チェン愛に溢れるアクションも展開。そしてマクガフィンであるブラックノートを巡る攻防での深田恭子は、色気を使って亀梨くんを騙して去り際に「ごめんね〜お先に失礼♪」ってそれ峰不二子かよ!
邦画だがインドネシアロケを敢行したスケール感のある作品で、しかも『ザ・レイド』のスタッフも関わっているだけありアクションのキレもある。亀梨和也も思いの外スタントを頑張ってて観ててハラハラさせる。何よりもスパイ、D機関、ジョーカー・ゲームといった単語や漫画のような外連味あふれる演出*3、そして自殺にしろ他殺にしろ人の死というものは最も目立つ事象であるためD機関で教えられる「死ぬな、殺すな」という鉄の掟に心の中の中学二年生が大暴れ!すごいぞ!こういう本格アクション映画を日本で観たかったんだ!
と、心から楽しめれば良かったのだが、それにしたってツッコミどころが目立つ。
まず冒頭から亀梨和也はとんでもなく記憶力が良かったり、武道訓練でも滅法強かったり、すぐに金庫を破ることができたりとスパイとしての才能を見せつけるのだが、何故亀梨くんがここまで抜きん出て優秀なのかが全く分からない。だって彼はこの機関にたまたま拾われるまで一介の兵士だったのに!しかも拾われた理由だって亀梨くんには家族がいないからスパイとして好都合くらいだったはずだが、そのたまたま拾った男が何故かとてつもなく有用なのである。
もちろん、ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントも映画初登場時から優秀だったが、それは初登場の時点ですでにある程度経験を積んだベテランだった訳で、ボンドの新人時代を描いた『カジノ・ロワイヤル』だって一応未熟な姿が描かれる。『ボーン・アイデンティティー』は記憶喪失だった元工作員が「あれ、なんで俺こんなに強いの?」って疑問に思うところが映画の肝であった。この点、『ジョーカー・ゲーム』の亀梨くんの強さは都合がいいだけにしか見えない。
都合がいいといえば、特に「は?」と思ったのが後半のスリーパーの存在で、これはネタバレになるから反転で書くけども、[後半で亀梨くんは英国諜報部に捕まってしまい、殺されそうになるところを亀梨くんは「二重スパイとして雇ってくれ」と言い出す。しかしこれもD機関の「死ぬな、殺すな」の教えの一つであり、有事の際は二重スパイとして働くことを提案すれば、各組織に予め潜んでいるスリーパーが脱出の手ほどきをしてくれる…という一種の二重スパイ]なんだけども、そんな便利な奴らが最初からいるんだったら亀梨くんが頑張る意味が全く無いじゃん!!
そして何よりもズッコけそうになったのがクライマックスで、僕は「死ぬな、殺すな」の教え自体はかっちょいいと思いながら観てたんだけども、クライマックスでは何を血迷ったのか亀梨くんは[火薬を巻きながら敵のアジトを走り回り]、最後にそれを[爆破]させる*4んだけど…それって殺しより目立ってんじゃねーか!!
他にも、まあスパイ映画なので秘密道具の存在は許すとして、第二次世界大戦前夜という設定にもかかわらず中二心をくすぐるとはいえ「スパイ」や「ジョーカー」などの横文字が平気で使われていること、嘉藤の仲間が何故かいつも嘉藤の場所を知っていて急に現れ、そのくせなんの役にも立たないこと、せっかくの海外ロケを行った作品なのに後半はほぼ狭いアジト内で展開されスケール感が急速に縮こまることなど、脚本の粗を挙げればキリがない。しかしエンドロールで「脚本:渡辺雄介」を見て納得した。代表作は『ガッチャマン』や『GANTZ』などがあるが、当ブログ的には何と言っても『ドラゴンボールZ:神と神』*5の脚本を書いた男!そういえば今夏公開される実写版『進撃の巨人』は町山智浩初脚本作品として注目を浴びてるが、その前に渡辺雄介が共同脚本を手がけていることも我々は忘れてはならない!
とまあ、ここまで辛口に書いてきたけれど、やっぱり僕は嫌いになれない作品だったりする。去年北村龍平監督の『ルパン三世』が叩かれまくったけど、もし『ジョーカー・ゲーム』の製作陣が『ルパン三世』を作ってればもっと評価は高かったにちがいない。そう思わせるくらい『ジョーカー・ゲーム』は『ルパン三世』していた。
なにより、中学時代の自分が見ていたらどうだろう。映画にハマりつつあったあの頃、一緒に映画監督を志していた親友Mくんと観ていたら「邦画も捨てたもんじゃねー!」と鑑賞後のマクドナルドで2時間くらい熱く語り合っていたに違いない。『ジョーカー・ゲーム』が悪いんじゃなく、「ツッコミどころが〜」とか「脚本の粗が〜」とか思いながら観てしまう、大人になってしまった僕が悪いのだ!