読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

宮昌太郎、田尻智著『田尻智 ポケモンを創った男』を読んだ。

 僕は滅多に読書をしないバカ人間なんですが、ブックオフで衝動買いして久しぶりに本を読みました。

 

田尻 智  ~ポケモンを創った男

田尻 智 ~ポケモンを創った男

 

 

 

 91年生まれの僕はまさにポケモンブーム直撃世代で、未だに卒業できずにシリーズをプレイし続けているほどポケモンシリーズは僕の人生に多大な影響を与えたゲームなんだけど、本書はその生みの親である田尻智へのインタビュー本となっています。『ルビー・サファイア』の頃だからもう10年以上前の本になるが、これがなかなかどうして面白かったです。

 

 インタビュアーの宮昌太朗があとがきにて
コンの本で語られているのは率直に言って、田尻智のごく個人的なアレコレではある。しかし、それをただの個人史に終えることなく、日本のテレビゲームの歴史ーー決して長くも短くもない25年と重ね合わせることができるんじゃないか。
と述べている通り、本書は再開発の真っ只中にあった町田で少年期を過ごした田尻智が、インベーダーゲームに熱中した中学生時代や伝説的同人誌「ゲームフリーク」を発刊して注目を浴びフリーライターとして活動し*1、『クインティ』や『ポケモン』といった業界に伝説となるヒット作を送り出すまでを振り返りつつ、田尻智が影響を受けた80年代のサブカルチャーにも触れ、最後には今後のゲーム*2がどうなっていくのかを展望する内容です。
 
 世界レベルでブームを巻き起こした*3メガヒットシリーズを生み出しただけあって、会話の節々から並々ならないカリスマ性が感じられます。ゲームフリークという会社は、そもそもゲーム攻略情報を載せた同人誌*4から端を発したわけだけども、田尻智は「自分で調べて考える」プロセスをに非常に大切にしている印象を受けました。例えば、少年時代の虫捕りに凝っていた頃のエピソード。
 
大抵の図鑑なんかには「木に蜜を塗って夜中に採りに行く」って書いてあるんだよね、虫は夜行性だから。でも、子供が夜中に出歩くこと自体難しいし(笑)、あとそういう虫がいるようなところって、大体お墓とかあったりするからさ、怖いし真っ暗だし、蚊には刺されるし(笑)。
(中略)だから、ちょうど漬物石くらいの大きさの石を木の根っこに置いておく。図鑑に「虫は夜行性で、昼間は土の中で寝てる」って書いてあるからさ、昼になりゃ、この下に入って寝るかも知れない、と。それで学校が終わる頃に寄って、石をのけるといるんだよね。蜜を塗るより、はるかに手軽で確かだし、理由もはっきりしてる。そういうテクニックを自分で考え出したというか、あまりに夜行性だって書いてあるから……(笑)。
 
 また、当時のインベーダーブームを体験してないので僕には実態が分かりませんが、ブームの時にはタイトーの『スペース・インベーダー』のパチモノが数多く設置されていて、それぞれにプログラムがや基板が微妙に違っているため微妙に各ゲームの仕様に違いがあったそうで、それを全て網羅したいという欲にかられて田尻少年はなんとか親をごまかしてゲーム代を捻出してプレイしまくったそうです。インベーダーマニアの田尻智が嬉々として説明する各社のインベーダーゲームの細かい差異は、ゲームライターの宮昌太郎に「うわあ、全然わかんないですね」と言わしめたほどだが、先の昆虫少年時代エピソードからも見えるこの「調べて」「考えて」「集める」という田尻智が重視している行為こそ、「ポケモン図鑑の完成を目指す」という『ポケモン』の根底にある面白さの元だと思いました。
 
 一方、僕は最近の『ポケモン』は対戦ゲームという側面を重視するあまり、冒険ゲームとしてはちょっとヌルい出来になってきてしまっている気がします。例えば、初代の『赤・緑』は一つの街からから次の街やダンジョンに進むまで色々な行き方や選択肢があり、下手したらジムバッジを獲得する順番も人に寄ってマチマチだったりして、それを友人や弟と「今どこら辺?」と比べて攻略情報を交換しあうのが楽しかった。
 
 ところが、『BW』以降のシリーズは選択肢の幅がとても狭くなっていたり、一つずつミッションをこなしていかないと次に進めなかったりして自由さが制限されてしまっていたり、ダンジョンが小さかったり、すぐにポケモンを回復してくれるキャラクターがいたりと、プレイヤーにとって優し過ぎる作りになっている気がします。もう田尻智があまり製作に関わっていないことも背景にあると思うが、やはりインターネットの発達で自分で「調べて」「考えて」「集める」プロセスの価値がプレイヤーの間で軽視されてしまい、増田順一=ゲームフリーク体制がそうしたプレイヤーに迎合した結果なんじゃないかな、って薄っすら思います。
 
 話が少し逸れましたが、本書は普段あまりメディアに顔を出さない田尻智という人物を掘り下げつつ、ポケモンを生み出した田尻智の考え方、影響を受けたもの*5や当時の時代背景に迫る、ファン必読書となっています。第4章では杉森建*6との対談もあったりして面白エピソードが満載ですが、中でも僕が衝撃を受けたのが、
 
「ゲームオタクの男ばかりの会社を成長するために女の子一人雇ったところ、その女の子が複数の男性社員と関係を持ってしまって人間関係が壊れ、ある日会社に出社したら10人いた社員のうち半分の机の上に辞表が置いてあった
 
というエピソード。それ、いわゆるサークルクラッシャーじゃないですか!その女性のせいで危うく国民的ゲームが誕生しなかった可能性も考えると中々感慨深いものがありますね。その女性は今何やってるんだろう、匿名でいいのでSNSとかで名乗り出てくれないかな!
ポケットモンスター オメガルビー

ポケットモンスター オメガルビー

 

 

ポケットモンスター アルファサファイア

ポケットモンスター アルファサファイア

 

 

*1:この時、当時宝島社に所属していた町山智浩とも知り合っていたそうだ。
津田大介公式サイト | 町山智浩、『宝島』ゴールデンエイジを大いに語る(津田大介の「メディアの現場」vol.44より)

d.hatena.ne.jp

*2:もちろん2004年から見て。

*3:ちなみにアメリカの興行史上、唯一週末興行収入1位をとった日本映画は『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』です。

*4:どうでもいいが、この流れにヌーベルヴァーグに通じるものを感じた。まあ、あっさい知識しか持ってませんけども…。

*5:ちなみに田尻智ジョン・ウォーターズ作品の大ファンだそうです!特に「郊外」という面で田尻智ジョン・ウォーターズの影響を受けていて、『ポケモン赤・緑』の舞台が関東地方をモデルにしていた理由も頷ける。

*6:同人誌時代からの田尻智の盟友で、『ポケットモンスター』シリーズのイラストレーター。現在はゲームフリークの取締役。