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負け犬たちのミクロの決死圏!/『アントマン』★★★

 マーベルの『アントマン』を公開週に3Dにて劇場で鑑賞。エドガー・ライト降板劇のいざこざを経て『イエスマン』のペイトン・リードが監督、脚本*1は『俺たちニュースキャスター』『アザーガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』のアダム・マッケイと本作主演のポール・ラッド

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 1989年。S.H.I.E.L.Dエージェントとして活躍していたハンク・ピムマイケル・ダグラス*2)は、自ら開発したピム粒子と呼ばれる短縮技術の危険性に気づき、S.H.I.E.L.Dに辞表を叩きつけた。それでもなおピム粒子の研究を推し進めようとするS.H.I.E.L.Dや世間の目に渡らないように、隠居したハンクはピム粒子に関するすべての資料も隠すのであった。

 

 時は流れ現代。優秀な電気技師スコット・ラングポール・ラッド)は自身が勤めていた大企業ヴィスタコープへの義賊行為による3年間の禁固刑から釈放されたが、ろくな職業にもつけず、娘の誕生日パーティに赴いても元嫁とその警察官の婚約者に「養育費を払えるようになるまで近寄るな!」と言われてしまう。仕事も金も希望もないスコットは足を洗ったはずの泥棒稼業に戻り、仲間たちと不在中のある大富豪の家に忍び入る計画を立てる。スコットの腕は衰えておらず手際よく侵入できたが、ただの老人の家にしては警備が異常に厳しいことに疑問を覚える。最後の金庫を開けると噂に聞いていたはずの金はなく、しかし謎のスーツだけが置いてあるのだった…。

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 今ハリウッドで最も勢いに乗ってるマーベルスタジオであるが、アントマン』はスタジオ初の大惨事になりえた可能性があった。約10年もの間プロジェクトに関わり続けたエドガー・ライトが去年クランクイン直前になって降板したニュースはファンに衝撃を与えた。そもそも作家性よりもスタジオの要求を優先させたマーベルに批判が集中したし、エドガー・ライト降板後も連日新監督が起用されては降板されるニュースが報道され、2週間後にイエスマン』のペイトン・リードが代打に起用。エドガー・ライトとその舎弟ジョー・コーニッシュが書いた脚本も俺たちニュースキャスター』シリーズのアダム・マッケイと本作の主演ポール・ラッドが急遽リライト。まるで突貫工事のような制作状況にファンは不安を募らせるばかりであった。

 

 しかし、蓋を開けてみると『アントマン』は見事な痛快ヒーロー誕生譚に仕上がっていた!ハッキリ言ってしまえば、ごちゃごちゃしていた『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』*3より本作の方がずっと好みである。

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 作家性と商業性の軋轢によりエドガー・ライトは降板したはずだったのに、本作のアクションや編集テンポの良さにはどこかエドガー・ライト作品の匂いを感じずにはいられない。そしてMCUとの関わりも押し付けがましくなく、かといってMCU作品を追っているとテンションが上がるサービスも盛りだくさん*4で、ヒーロー誕生譚としての一本とMCUを構成する一作品としてのバランスが絶妙である。その完成度の高さは『アイアンマン』1作目や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と並ぶ。

 

 また、エドガー・ライト降板後も後任監督候補として『ゾンビランド』のルーベン・フライシャー、『なんちゃって家族』のローソン・マーシャル・サーバなどが挙がっていたことや、そもそも主演がアパトー・ギャングのポール・ラッドであることからマーベルは本作をコメディ仕立てにしたかったことは明らかだが*5、なるほど確かに伸縮自由自在のアントマンの能力とコメディの相性は抜群だ。なんならアリと意思疎通を図るアントマンの姿には大好きな『ミクロ・キッズ』イズムを感じたし、予告編でも話題になったイエロー・ジャケットVSアントマンのクライマックスもユーモア満載で爆笑しつつハラハラさせエンタメとして申し分ない。そしてゲラゲラ笑っていると2001年宇宙の旅』的なセンス・オブ・ワンダーな瞬間もふと訪れてワクワクさせる。

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 しかし何より『アントマン』が作品としてグッとくるのは、本作が負け犬たちの再生物語となっているからだ。スコットとハンクの師弟は一人娘を持つ父親という点で共通しており、二人とも自分のミスで家族をバラバラにしてしまった父親失格の男でもある。人生を立て直すことと巨悪と対峙することが直結しているという動機設定が巧みで、そして人生をやり直すために奮闘しているのがダメ男ばかり演じてきたコメディ役者のポール・ラッドだからこそ共感しやすいのだ。

 

 クロスオーバー作品『アベンジャーズ』シリーズの魅力といえばそのお祭り感である。お祭りは楽しいものであるが、騒々しくもある。作られる度に規模が大きくなっていくそのお祭りにちょっとノリづらくなってきた…と小休止が欲しい人に、スケールがミニマルに落ち着きつつもハートはしっかりと熱い『アントマン』はピッタリだ。


映画『アントマン』予告編 - YouTube

 

アントマン:プレリュード(仮)

アントマン:プレリュード(仮)

 

 

*1:ちなみに元の脚本を書いたエドガー・ライトジョー・コーニッシュも同じく脚本や原案としてしっかりとクレジットされており、エドガー・ライトはスタン・リー御仁との連名で製作総指揮としてクレジットされていた。

*2:このシーンでデジタル技術を用いた若い頃のマイケル・ダグラスの完成度が高いのなんの!『ターミネーター:新起動』におけるシュワ並み。『ウォール街』の再現だ!

*3:とはいえ『アベンジャーズ2』も面白かったし好きですよ。

taiyaki.hatenadiary.com

*4:まあ、マーベル作品については言うまでもないとは思いますが、特に本作のエンドロールでは絶対に席を立ってはいけません!

*5:なお、メガホンを取りかけたアダム・マッケイが1日で降板した代わりに脚本のリライトを手がけたことで、本作には『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』のように、キャピタリズムに対するどこかリベラル的な思想が見え隠れする。