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南北の憎しみを乗り越えて/『ヘイトフル・エイト』★★★

映画 感想

 クエンティン・タランティーノ8本目の新作『ヘイトフル・エイト』*1を昨年末にヒューストンにて70mmプリント版を、年が明けてから地元の劇場でデジタル版を鑑賞。サミュエル・L・ジャクソンカート・ラッセルジェニファー・ジェイソン・リーらが出演、巨匠エンニオ・モリコーネが作曲を務める。

 

※多くの映画ファンが期待している作品のため、映画の内容はやんわりとボカして書いてますが、情報を遮断したい人はご注意ください。

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 70mmで写し取られた雄大な雪山の情景が終わると、磔刑にされたキリストの木像の近写に変わり、オープニングクレジットが始まる。この印象的なキリスト像はインターミッションを挟んだ物語後半にも再登場する。「Jesus Christ!」というセリフも何度か登場する。ずっとこの映画におけるキリストの意味は何だろうと考えているが、自分のキリスト教に関する教養のなさがもどかしい。

 

 本作にはエンニオ・モリコーネが『遊星からの物体X』のために作曲した未使用曲が採用されているという。タランティーノモリコーネを起用した*2のは、ただ単に彼がモリコーネがよく起用されたマカロニ・ウエスタン映画を敬愛しているからだけではなく、本作の基本プロットが『遊星からの物体X』になっているからだろう。

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 雪山の小屋で憎むべき8人(The Hateful Eight)がお互いに睨みを利かせている。誰も彼もが「気持ちのいいくらい」嫌な奴で、互いを憎み合っている。緊迫感とユーモアが交差する様子は、『レザボア・ドッグス』を思い出させる。『レザボア』にも出演したティム・ロスマイケル・マドセンが久しぶりに登板しているのもまた『レザボア』感を強くする。

 

 この8人は南北戦争を生き延びた8人でもある。南北戦争はこの作品において一つのテーマとなっており、前作『ジャンゴ 繋がれざる者』とは精神的な続編となっている。戦争が終結しても南部の生き残りにとってまだ黒人は下に見られる存在であり、「黒人が唯一安全な時は白人が武器を持っていない時だけ」とウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は語る。タランティーノは警察の黒人に対する暴力するBlack Lives Matters(黒人の命だって大切だ)運動に参加したことが話題になったが、ウォーレンが語ることは実は2016年現在のアメリカ社会を反映してもいる。だからウォーレンは白人は非武装化するための「ある物」を持ち歩いている。

 

(※最後の段落は映画のラストシーンについてです) 

 

 そういったアメリカにおける社会背景を考えると、タランティーノは『ヘイトフル・エイト』のラストに、人類への希望を託したかったのかもしれない。南北で立場が異なった者が運命を共にする。そこから冒頭を振り返ってみるとキリスト像を使って「人間は神の前において平等」と、きっとタランティーノはいつものように映画への愛と暴力で、70mmだからこその大スクリーンを通して世の中に示したかったのだ。

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「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

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*1:8本目にこのタイトルを思いつくセンスがもう痺れる。

*2:一応モリコーネは『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ』でも作曲している。