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それは、美しく伝播する。/『イット・フォローズ』★★★

 渡航時期の関係で去年観れなかった『イット・フォローズ』をNetflixで鑑賞。監督・脚本はこれが長編映画2本目のデヴィッド・ロバート・ミッチェル。マイカ・モンロー、キーア・ギリクリストらが出演。

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 ジェイ(マイカ・モンロー)は好意を寄せる男の子ヒュー(ジェイク・ウィアリー)とデートをし、映画館の行列で暇つぶしに「誰になり替わりたいかゲーム」をしている。お互い周囲にいる人の誰になり替わりたいかを当てる他愛のないゲームだ。ヒューが当てる番になり、劇場の入り口に立っている黄色い服の女性を指さしていると言うのだが、ジェイにはそこに誰がいるのか全く見えなかった。途端にヒューは具合が悪くなったと映画館から出てしまう。ジェイはそんなヒューを不思議に思うも、遂に一夜をともにすることに。しかし、事が終わるとヒューが突然、睡眠薬を染み込ませた布でジェイを気絶させる。


 意識を取り戻したジェイは廃墟にいた。下着のまま、イスに手脚を縛り付けられた姿で。ヒューはそこでジェイに話し始める。「あるモノがつけてくる。俺が感染した“それ”をさっき車の中で君にうつした。“それ”は時には知人に、時にはまったく知らない人に姿を変える。いろんな人間に見えるが、実態は1つだ。今から起きることをよく見ているんだ。」その直後、遠くから裸の女性がゆっくりと近づいてくるのが見える。ジェイは“それ”に殺される前に誰かにうつせ、と命令され、家の前に置き去りにされる。(公式サイトより引用*1

 

 恐怖と笑いとは紙一重と言うが、実際思わず笑ってまうようなホラーは多い。本作の設定も一見するとバカバカしいものだが、鑑賞してみると笑うどころかいつまでも続く緊張に目が釘付けになる。

 

 「それ(It)」はどこからともなく現れる、という設定を見事にマイケル・ジオラキスの撮影は理解していて、ピントの外れた奥から、画面の隅から、果てはフレームの外から、普段映画を観る時は意識を向けないような場所から「それ」は襲ってくる。不気味なカメラワークはまた同時に美しさがあり、観ている者は畏敬の念すら覚える。

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 謎の多い映画ではあるが、僕はこの映画は大人になることを描いた映画だと思っている。ティーネイジャー映画であるこの映画には大人や親が出てこない。しかし大人や親を無視している訳ではないというのは、呪いにかかった少女が死の直前に父親に電話する冒頭からも見て取れる。

 

 映画を通して多用されるのは「水」のイメージだ。ヒロインは初登場シーンで自宅のプールで遊泳しているし、「それ」はビーチでも襲ってきたし、クライマックスの舞台もプールだ。ミッチェル監督はこの映画を読み解くヒントとして、「愛とセックスでのみ、死を追いやることができる*2」と語っている。セックスによって移される呪いは、しかしセックスによって生き長らえることができる。こうした性的な文脈を考えると、ヒロインが気持ちよさそうに入り浸っているプールは、羊水の暗示なのか?

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 つまり、本作は羊水の中で安眠していた少女が、セックスによって初めて外の世界と死の存在を知り、死を回避するために愛を見つけ、大人になる覚悟を決める物語なのではないだろうか。

 

 しかしミッチェル監督はまた正解を決して提示しない旨の発言をしているので、何通りの解釈もできそうで、それこそが本作が若者の間でバイラルに広まった一因にもなった。そしてそれは本作において若者たちが呪いを伝播していった経緯とどこか似たものを感じずにはいられない。

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 ちなみに、音楽や郊外を舞台とした内容にジョン・カーペンター作品を想起させたが、実際にミッチェル監督はカーペンターの大ファンだそうだ。

It Follows

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*1:

*2: