元々映画関係以外の本を全く読まない人間だったが、留学してからその機会が更に滅法減った。最近は特に語彙力の衰えを感じ危機感を覚えてきたので、去年Amazonのプライムセールで無料で販売されていた伊坂幸太郎の『アイネクライネナハトムジーク』をKindleアプリで読んだ。以下読書録として雑感などを。
- 伊坂幸太郎の本は高校時代に友人にオススメされた『アヒルと鴨のコインロッカー』だけ読んだことがあった。小説ならではの叙述トリックに驚かされ、厚めの文庫本だったのにも拘らずスラスラ読めた記憶がある。以降その本の印象だけでなんとなく伊坂幸太郎=どんでん返しという勝手な図式が出来ていた。
- さて、『アイネクライネナハトムジーク』、題名を読むだけで噛んでしまいそうで、「覚えづらいわ!」と思っていたら、誰もが聞いたことのあるモーツァルトの曲のタイトルから取られていて無知を勝手に晒すことになった。恥ずかしい…。
- さてこの小説はそれぞれが緩やかな線で繋がっている6本の短編から構成されている。『アヒルと鴨のコインロッカー』と似たようなトリックは第2話の『ライトヘビー』で使われていただけで、全体としては大掛かりな仕掛けよりも各話の登場人物間のつながりを発見してニヤニヤ楽しむような作品となっている。タランティーノの『パルプ・フィクション』のようだ。
- そしてモーツァルトの曲が大概明るく軽快なように、この小説のノリも軽やかで読みやすく、登場人物全員が細やかな幸福に向かっていて読後感が大変心地いい。あとがきによると『アイネクライネナハトムジーク』は伊坂幸太郎作品にしては珍しく恋愛を取り扱った作品であるようで、これまでの伊坂作品には必ず「泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定」が出ていたという。僕好みの作家ではないか!
- ちなみに同あとがきによると、本作の元々の出発点は作者が大ファンである斉藤和義から「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会いに』当たる曲の歌詞を書いてくれないか」と依頼されたことだったという。ああ、なるほど、劇中にたびたび登場する歌詞は斉藤和義の曲から取られていて、そしてその歌を売っている謎の男の名前は斉藤さんなのか。そしてその歌詞に「意味はわからないけれど」とか書いてしまっていいのだろうか!なお、本作を元に斉藤和義は「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」を発表している。
- というわけで、企画の始まりも特異な『アイネクライネナハトムジーク』であったが、こうした背景を知ってから読むとまた違った見方で読めて面白いんだろうな、と思いながらも多分読めないほど活字に弱いんですね僕は…精進します。