現代の世界の危機は中国の危機!/『インデペンデンス・デイ リサージェンス』★☆☆

 全世界で大ヒットしたSF大作の20年ぶりの続編『インデペンデンス・デイ リサージェンス(以下IDR)』を鑑賞。前作同様、監督はローランド・エメリッヒ、彼と共にとディーン・デヴリンが脚本を執筆。キャストは前作からジェフ・ゴールドブラムビル・プルマン、ジャド・ハーシュ、ヴィヴィカ・A・フォックス、ブレント・スピナーらが登場、更にリアム・ヘムスワース、ジェシー・アッシャー、マイカ・モンロー、アンジェラベイビーら若手役者が新規に登場。

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エイリアンの侵略を生き延びた人類は、共通の敵を前にひとつにまとまり、回収したエイリアンの技術を利用して防衛システムを構築。エイリアンの再来に備えていた。しかし、再び地球を目標に襲来したエイリアンの兵力は想像を絶するものへと進化しており、人類は為す術もなく、再度の絶滅の危機を迎える。

 

 直前に前作を十数年ぶりに鑑賞してから臨んだのだが、前作の何が世界中で受け入れられたかを一言で言えば、ずばり90年代らしいオプティミズムではなかろうか。前作が公開された96年は、冷戦もとっくに終結していて、アメリカではクリントンも再選して景気は安定していた。当然911テロやコロンバイン高校事件も起こってなくて、『ファイトクラブ』だって公開されていない。

 

 小さい頃初めて『ID4』を観たときはトラウマ級に怖かった記憶があるが、実際に久しぶりに観てみると『未知との遭遇』のパロディはあるは、ギャグみたいに人が死ぬは、ウィル・スミスは軽口叩くは、テーマ曲は明るいはで、地球の危機に反して思った以上にお気楽な映画だった。その楽観的なノリとエメ公印の徹底的な破壊描写の掛け算はまるでダブルクォーターパウンダーチーズバーガーLLセットのようなジャンキー感覚で、エンタメとしては満点な出来であった。「結局全てはアメリカが解決するんかい!」との批判もあるが、その傲慢さもむしろ気持ちがよく、今となっては懐かしい。


▲聞いていて超気持ちがいい『ID4』のテーマ。まるでジョン・ウィリアムズの曲のように明るい。

 

 しかしそんなこんなで20年が経ち、世界もだいぶ辛気くさくなった。そんな世相を反映してか、今回の『IDR』はやや真面目なトーンで続く。画面も白昼堂々とウィル・スミスが宇宙人をボコボコにしていた前作と比べ、今回は暗い場面が多い。その割には後半はエメ公らしいバカバカしさが満載で、前半とのギャップが悪目立ちしてしまう。

 

 エメ公といえば破壊描写である。前作でもCGが使われているとはいえ、破壊描写にはプラクティカル・エフェクトが重用された。このビデオを観れば分かるが、有名な都市爆破のシーンはミニチュアが制作されて実際に爆破しているし、宇宙人も実際に成功な着ぐるみを制作して撮影している。

 

 『ID4』は『ジュラシック・パーク』のように、当時開発されたてのVFXと伝統的なSFXの両方をうまく活用して迫力の映像を生み出していたが、『IDR』は最新のCGIをメインに使用している。確かにスケールはあがっているが、金は前作以上にかかってるくせに破壊描写にカタルシスをまるで感じない。前作と今作の破壊描写の質感の重さはトラックと自転車ほどに違う。

 

 このように、『IDR』は20年というギャップを埋めようと作風を現代的にアップデートしようとしたが、そもそもそのアップデート自体が元来の『ID4』の良さを殺してしまっているのである。90年代らしさ全開の『ID4』の続編を作ること自体が誤りだったのだ。ただ、僕が一番時代の変化を感じたのは、『IDR』における中国の大活躍である。

 

 そもそも中国のファッションモデル アンジェラベイビーがメインキャストの一人として登場していて、そのキャラの叔父(もちろん中国人)が地球防衛軍を率いている。極め付けは月面基地にいるリアム・ヘムズワースが地球にいる婚約者のマイカ・モンローに通話する場面、使ってるアプリがQQ*1なの!しかも見れば分かるのに、ご丁寧に「QQの通話が途切れました」って音声までかかる。その直後のカットに登場するのがあのシュワシュワミルク!!トランスフォーマー ロストエイジ』を全く同じ使われ方!突然登場するのがシュワシュワミルクのルールなのか!

 

 と、明らさまな中国商品のプロダクト・プレイスメントに思わず声を出して笑ってしまったが、一緒に見に行った中国人の友達にあとで聞くと、「観ていてめっちゃ恥ずかしかった」「気まずくてしょうがなかった」と皆恥ずかしそうにしていた。まあ、僕らが80年代のハリウッド映画を観て、唐突なヘンテコ日本描写が出てきて恥ずかしくなる気持ちと同じだよな!

 

 冒頭に述べたように、『ID4』は当時の世相を反映していたが、その続編の『IDR』もまた2016年の様々な世相を反映した作品となった。しかし今年だけで何本のハリウッド映画で中国の観客への目配せがあったことか。今や映画における世界の危機はアメリカだけでなく、中国の危機でもあるのだ。

 

 

*1:中国のメッセンジャーアプリ。中国ではインターネットが検閲されているので中国製アプリしか使用できない。