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親愛なるアメリカへ、さようなら

 今日はずっと気分がふさぎ込んでいる。自分でもここまで影響を及ぼすとは思っていなかったので意外だが、明らかに昨晩の大統領選のせいだ。

 

 『宇宙人ポール』というコメディ映画がある。SF映画オタクのイギリス人グレアムととクライヴは満を辞してのSFの聖地アメリカ西部横断旅行を決行する。そんな最中二人は政府機関から脱走してきた宇宙人ポールと出会い、故郷の宇宙へ返す手伝いをする羽目になる珍道中を描く。

 

宇宙人ポール [Blu-ray]

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 数々の爆笑のSF映画オマージュやパロディの陰に隠れて『宇宙人ポール』は二つの「エイリアン(Alien)」を描く。一つ目は当然宇宙人であるポール、そしてもう一つは「外国人」という意味での「エイリアン」グレアムとクライヴである。グレアムとクライヴはアメリカ映画に憧れてRVカーに乗って旅をするが、先々の田舎町で出会う偏狭なキリスト教原理主義者や差別主義者のアメリカ人達に出会って困惑する。『宇宙人ポール』は単なるSF映画ではなくて外国人の視点からアメリカの暗部を描いたカルチャーショック・コメディでもある。

 

 浅草のしたまちコメディ映画祭で腹を抱えて笑ったあの日、よもやその4年後に自分がグレアムとクライヴと同じ状況に置かれるとは思ってもいなかった。

 

 幼少期を過ごしたカリフォルニアでの僅かな記憶や、大好きなハリウッド映画で観てきた華やかな光景と違い、アーカンソーは信じられないくらい閉じた社会だった。教会の人達が優しい笑顔で平気で黒人や中国人の偏見を語り、友達は銃を自慢げに見せてきて、授業のディベートイスラム教徒へのヘイトが飛び交う。

 

 例えばある日白人の友達はこんなことを言い出した。「学校の食堂ってあんまり行く気がしないんだ。だってインド人がたくさんいるじゃない?なんか汚そうで。あれって学則とかに違反してないの?」

 

 ある日初めて出会った別の人にこんなことを聞かれた。「あなたって中国人?日本人?それともアジア人?」

 

 アメリカ人の20%しかパスポートを持っていないので彼らの多くはまず外国に行ったことがないが、ほとんどの人間は外国どころか自分が住む州からも出たことがない。一つ一つの州が大きすぎるので、そこでの生活で満足してしまっている。また、学校に行かせると進化論やビッグバン理論などロクなことを学ばないので子どもたちは家で親から授業を受ける。アメリカの田舎は極めて内向的な社会で、外への関心も思いやりもまるでない。ただただバカみたいに広い土地を見てタトゥイーンの双子の太陽を見つめるルークの心情を初めて理解した。

 

 

 

 窮屈な田舎生活に嫌気がさしてきた去年の冬、初めて日本からの友達とニューヨークへ旅行し、今度はまさにアメリカ映画を体現した世界で衝撃を受けた。どこを見渡しても多様性で覆われていて、どの民族も人種も均等に生活している。移民の窓口ニューヨークではマイノリティという概念は存在しなく、まるで地球を圧縮したような場所だった。人種のサラダボウルとはよく言ったものだ。忙しそうだけど色んな世界が垣間見えるニューヨークは直ぐに大好きになり、今年の夏にインターン先としても選んだ。

 

 今年の春に公開されたディズニー映画『ズートピア*1の光景はニューヨークを思い出させた。そしてディズニーはお家芸である擬人化動物を使って「差別」と「偏見」いう重いテーマを見事にエンターテイメントに組み込んでみせた。こうしたテーマを平気で子供向けアニメに取り入れられるサラダボウルの文化は本気ですごいと思ったし憧れた。『ズートピア』とよく似た多様性は『スター・トレック BEYOND』*2のヨークタウンでも伺えた。

 

 

 

 『ズートピア』や『スター・トレック BEYOND』が今年公開されたのは全くの偶然ではない。当然映画界からドナルド・トランプに叩きつけられたメッセージである。アメリカの文化を豊かにしたのは多様性であり、そんなバラエティに富むアメリカをトランプは殺そうとしている。多様性の死は即ち文化の死である。僕はそんなハリウッド映画を本気で応援していたし、アメリカの良心を信じていた。アーカンソーの連中なんてごく一部であることを証明してくれることを。

 

 しかし、周知のように昨日ドナルド・トランプは大統領に選ばれた。昨日から賑わっているSNSではこんなポストをよく見かける。「トランプだってそこまでバカじゃない」「トランプは支持を集めるために言ってただけ」確かに、ドナルド・トランプは本気でヘイトを繰り返していたのではないのかもしれないし、選挙上の作戦だったのかもしれない。*3

 

 ただし、彼を支持した民衆は本気でトランプの言動を支持していた。集会場で平気で人種差別発言や性差別発言を繰り返していたし、本気で移民を憎んでいた。抗議者に暴力を振るうことも躊躇しないし、アメリカが偉大になるには白人の元に取り戻すべきだと本気で信じていた。僕が本当に悲しいのはドナルド・トランプが大統領になったからではない。多くのアメリカ人たちが「多様性なんかいらない!」とアンサーを昨日の大統領選挙で出してしまったからだ。僕の大好きだったアメリカの姿はそこにはない。

 

 ニューヨークやカリフォルニアでは大規模な抗議デモが続いている。しかし、これも新たなヘイト生んでいるだけなのでつくづく今回の選挙は罪深いと思う。

*1:

*2:

*3:「トランプは政治家としては実はまっとう」なんてのを嫌でも良く見るんだけど、公職経験が一度もなくて公約同士が矛盾してる二枚舌が得意な人間のどこがまっとうなのか懇切丁寧に教えてもらいし、こんな人間が世界に影響を及ぼす大国のリーダーなんて狂気じみていると思う。ただし一歩『マッドマックス』の世界が近づいたことだけは喜びたい。