例年1〜3月は映画賞レースシーズンですが、本日第40回日本アカデミー賞の優秀作品賞が発表されました。
作品賞に限って言えば、今年の優秀作品は以下のとおり。
【実写部門】
【アニメーション部門】
僕はアメリカに住んでるもので、このうち現時点で観てるのは『シン・ゴジラ』だけなのでなんとも言えませんね。ちなみに日本アカデミー賞における優秀賞はノミネートみたいなもので、最優秀賞は3月3日に日本テレビで放映される授賞式で決定されます。
しかしそもそもこの日本アカデミー賞とは一体なんなのでしょうか。というのも、日本アカデミー賞はイギリスを除いて唯一米アカデミー賞の承諾を受けた約40年の歴史がある映画賞でありながら、映画ファンからの支持率はあまり高くない風に思われます。実際、例えば昨年は映画ファンからの評価は厳しい『バケモノの子』が最優秀アニメーション作品賞を受賞したり、例年各映画雑誌のベストテンとは受賞作品が被っていなかったり、映画ファンや評論家との乖離もたびたび起こっています。
だけど一方で、日本アカデミー賞ではどういった選考が行われてるかよく知らない人も多いのではないでしょうか。かく言う僕もよく知らなかったので、調べてみたら受賞作品に傾向が見えて来ました。
選考方法
公式ページによる*1と、以下の方法で優秀賞作品と最優秀賞作品は決定されています。
(1)日本アカデミー賞優秀賞選考投票方法
協会員全員が全部門(新人賞を含む16部門すべて)を投票します。
郵送された投票用紙は公正なる第三者機関によって集計され、正賞15部門の優秀賞受賞者及び受賞作品(各5名または5作品)並びに男女各3~5名の新人賞を決定します。(2)日本アカデミー賞最優秀賞決定投票
先に決定いたしました15部門優秀賞受賞者及び受賞作品を対象に協会員全員が最終投票を行い、郵送された投票用紙は公正なる第三者機関によって集計されます。
尚、集計結果は授賞式当日まで厳重に保管されます。
つまり、日本アカデミー賞は日本アカデミー賞協会員による投票で優秀作品、最優秀秀作日が決まります。元となった米アカデミー賞だと投票者は映画芸術科学アカデミー会員、つまりハリウッドで働く業界人となります*2。では、日本アカデミー賞の「協会員」とはどのような人たちなのでしょうか。
日本アカデミー賞協会員
同じ公式ページにはこのように記されています。
日本アカデミー賞協会会員の資格は、わが国の映画事業に現在も含め3年以上従事していることを前提として、運営・実行委員会、又は賛助法人より推薦され認められたものとする。
さらに詳しく2016年度の会員所属内訳まで乗っていますが、この内訳が肝だと思います。
この中で注目すべきなのは、松竹の234人、東宝の269人、東映の255人という大きな数です。賛助法人の1478票は東宝・松竹・東映の関連会社含む製作・配給・宣伝・興行会社など215社に所属している人の票であり、結構な数の票がこの三大映画会社から投票されていると言えるでしょう。
【過去10年の最優秀賞受賞作品】
実際に、過去10年の実写・アニメの両部門の最優秀作品賞と、その製作会社を見ていきましょう。
年度 | 2015 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 |
---|---|---|---|---|---|
実写 | 海街diary | 永遠の0 | 舟を編む | 桐島、部活やめるってよ | 八日目の蝉 |
主要製作会社 | 東宝/フジテレビ/小学館/ギャガ | 東宝/電通/講談社等 | 松竹/電通/テレ東等 | 日テレ/集英社等 | 松竹/日活/博報堂等 |
アニメ作品 | バケモノの子 | STAND BY ME ドラえもん | 風立ちぬ | おおかみこどもの雨と雪 | コクリコ坂から |
主要製作会社 | 東宝/電通/日テレ/KADOKAWA等 | 東宝/テレ朝/電通/小学館等 | 東宝/電通/日テレ等 | 東宝/電通/日テレ等 | 東宝/電通/博報堂/日テレ等 |
年度 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 |
---|---|---|---|---|---|
実写 | 告白 | 沈まぬ太陽 | おくりびと | 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン | フラガール |
主要製作会社 | 東宝/博報堂等 | 東宝/角川映画等 | 松竹/電通/TBS等 | 松竹/電通/日テレ等 | シネカノン等 |
アニメ作品 | 借りぐらしのアリエッティ | サマーウォーズ | 崖の上のポニョ | 鉄コン筋クリート | 時をかける少女 |
主要製作会社 | 東宝/電通/日テレ等 | ワーナー/角川書店/日テレ等 | 東宝/電通/日テレ等 | 電通/TOKYO MX等 | 角川ヘラルド等 |
どうでしょうか。先ほどの協会員数と照らし合わせて見ると、三大映画会社では一番持ち票数が多かった東宝の作品がほとんどです。東宝の作品でなくても、松竹作品や電博などの大手広告代理店、テレビ局関連の映画会社が多く関わっています。
邦画はリスクを分担するために、多くの場合製作委員会方式を採って映画を製作しています。そして製作委員会はほとんどが日本アカデミー賞の賛助会社でもあります。つまり、三大メジャー映画会社作品(中でも近年市場独占状態である東宝)、または製作委員会に多くの賛助会社が参加している作品ほど、組織票が多いので受賞に有利である傾向が見られます。
【ということは今年の最優秀作品賞は…】
先週日本を代表するどころか世界最古クラスの映画賞であるキネマ旬報の2016年ベストテンが発表され、邦画は見事『この世界の片隅に』が受賞する快挙を達成しました。僕は未見なのでなんとも言えませんが、実際にSNSでも多くの方から高評価を得ていて大きな盛り上がりを見せている作品です。『この世界の片隅に』は今年の優秀作品賞にも選ばれています。
しかし、僕は『この世界の片隅に』が最優秀アニメーション作品賞に選ばれることはあまりないのではないか、と思います。というのも、上でじっくり述べて来た通り、日本アカデミー賞においては製作委員会の大きさが大事だからです。その点、『この世界の片隅に』はクラウドファンディングを元に作られた独立系アニメに近い作品なので、若干不利になるかもしれません。
そう考えると、2016年の日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞する作品は、
アニメーション 『君の名は。』(製作会社 東宝/KADOKAWA/JR東日本企画など)
となるのではないでしょうか。
【とはいうものの】
何度も言っている通り、僕は『シン・ゴジラ』以外の優秀作品を観ていないので、この記事は各ノミネート作品の優劣を比較する記事では全くありません。そして日本アカデミー賞にしてもアカデミー賞にしてもカンヌにしてもキネマ旬報や映画秘宝のベストテンにしても、映画賞というのはあくまで映画界を盛り上げる「祭」でしかないので、自分にとって何が面白いか、大切な映画か、という気持ちこそを最も大事にしていくべきです。
【※3/3追記】
思いっきり予想を外しました。