『ワイルド・スピード』最新作『ワイルド・スピード ICE BREAK』を鑑賞。監督は『ストレイト・アウタ・コンプトン』のF・ゲイリー・クレイ、脚本は三作目『TOKYO DRIFT』からシリーズに参加しているクリス・モーガン。主演は製作も務めるヴィン・ディーゼル。ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、リュダクリス、ナタリー・エマニュエル、カート・ラッセル、エルサ・パタキーらおなじみの「ファミリー」に加え、シャーリーズ・セロン、ヘレン・ミレン、スコット・イーストウッドらが参戦。
サシャ=バロン・コーエンが主演したスパイコメディ『Brother Grimsby』では、既得権階級がウィルスをばらまいて労働者階級や貧困層を絶滅させることで腐った世界を「治癒」しようとする。そんな偽善めいた陰謀を止めるべく、サシャ=バロン・コーエンはサッカーを観にノコノコ集まってきた貧困層に向かって感動的なスピーチをする。
「ヤツらはウィルスをバラまいて俺たちみたいな貧乏人を殺そうとしているんだ。俺たちがクズだと思っているからだ。…俺たちは本当にクズだろうか?そのクズが金持ちどもが閉鎖する病院を作っているんだ。そのクズがクソ野郎どもによって始められた戦争に行って死ぬんだ。そのクズが『ワイルド・スピード』シリーズを長寿にしているんだ!」
これはちょっとサシャ=バロン・コーエンらしい過激な物言いではあるが、確かに『ワイルド・スピード』シリーズは実にユニバーサル・デザインに特化した映画だ。つまり、人種・文化・言語・老若男女・障害・階級などを超越して万人が楽しめるように設計されている。何度も書いているように、僕はいわゆるディープサウスに住んでおり、人口のほとんどは白人である。しかし、『ワイルド・スピード ICE BREAK』を観に行った地元劇場に多様な人種が集結していた。あたかも小さなハコがニューヨークに変身したようで*1、『ワイルド・スピード』シリーズの人気の秘訣を体感できた気がした。
特に『ICE BREAK』はユニバーサル・デザインを極めている。何と言っても素晴らしいのは、全てのアクションが分かりやすく記号的なところだ。一見現実的にはありえなさそうなシーンも全て「分かりやすく」するためのデフォルメだ。巨大な振り子、ゾンビカーや素手で魚雷の軌道を変えるなど、インフレが過ぎてもはやギャグになってしまっているアクションもある*2が、逆に誰もが今まで思いつかなかった、否、やろうとしなかったアクションを小国の国家予算級の金を注ぎ込んで実現させたことに惚れ惚れする。芸術の域にまで達せられたバカさ加減には『ワイルド・スピード』シリーズと同じ製作陣による怪作『トルク』を思い出したほどだ。たとえミュートにしたって楽しめてしまうだろう。プロットの欠陥はたくさんあるが、アクションの量的な意味でツッコむ暇を与えない。
さらにシリーズの要である「ファミリー感*3」も本作でも存分に楽しめる。製作陣に忘れられてしまったんだろうか…と思われたキャラまでもが再登場し驚かされたが、これだけキャラクターと世界観を大切にしているフランチャイズはマーベル、スター・ウォーズと『ワイルド・スピード』くらいではなかろうか。味方が敵になる・前作の敵が仲間になる、という少年ジャンプ的な展開もサービス精神が旺盛で実によろしい。本シリーズは船の代わりに車に乗る『ワンピース』のようなものだ。
『ワイルド・スピード』シリーズはどれだけシリーズが続こうと一定のクオリティ以上は保証されるし、観終わった後は満服になる。簡単に書いたが、これを15年以上続けているのは驚異的なことだ。僕は長いシリーズってあんまり好きじゃなくて、できれば『スター・ウォーズ』も『X-MEN』もマーベルもとっとと終わって欲しいと思ってるんだけど、『ワイルド・スピード』だけは永遠に続いて欲しいし、世の中全ての映画が『ワイルド・スピード』だったら世の中もっと平和になると思うよ!
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