多幸感に満ちた『帝国の逆襲』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』★★★

 MCU最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を鑑賞。監督・脚本は前作*1に引き続きジェームズ・ガン、製作はMCUの舵取りを務めるケヴィン・ファイギ。音楽は過去のジェームズ・ガン作品でもコラボしたタイラー・ベイツ。出演は前作からクリス・プラット、ゾーイ・ザルダナ、デビッド・バウティスタ、ブラッドリー・クーパーヴィン・ディーゼル、そしてジェームズ・ガン作品お馴染みのマイケル・ルーカー、シェーン・ガンらが再登場、そしてポム・クレメンティフ、カート・ラッセルシルベスター・スタローンらが加わる。

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 一言でまとめるならば、多幸感に満ちた『帝国の逆襲』である。あまりにも楽しすぎる長回しのOPから頰が緩み、そこからマーベル映画史に残る最高に美しいエンディングまで、否、それどころか数々のポストクレジットまで口角が上がりっぱなしの至福の2時間16分である。前作も『スター・ウォーズ/新たなる希望』と比較されていたが、父と子の関係に焦点を当てた*2本作の構造は明らかに『帝国の逆襲』を意識している。しかし、前作に並ぶ70年代の名曲サントラと前作以上のギャグが極彩色のカラーリングと相乗効果を発揮して本家にはない明るさを見せる。MCUの一作品でありながら前作以上の関連性は見せず、心地の良いスケールだ。

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 思わず涙腺が緩んでしまうほどハッピーな作品を仕上げたジェームズ・ガンだが、実は彼は今年ホラー映画も製作している。日本では未公開の『The Belko Experiment』である。コロンビア、ボゴタに立地しているアメリカのNPO法人ベルコ産業のオフィスで、ある日80人の従業員たちが殺し合いをする実験を強いられ、最後の一人になるまでその実験は終わらない、というのがあらすじで、早い話がオフィス版『バトル・ロワイアル*3だ。ジェームズ・ガンは脚本と製作のみを務めているが、常連のマイケル・ルーカーやショーン・ガンが顔を出していることもありジェームズ・ガンの色が濃い作品にはなっている。

 

 ただこの『The Belko Experiment』、景気良く血しぶきが飛び、殺し方にも工夫があって見応えはあるのだが、善人も老人もバンバン死んで行くので正直後味はあまりよろしくない。そういえば過去のジェームズ・ガン作品を見返して見ると、ブラックユーモアや悪趣味さが彼の作品を特徴づけている。

 

 ジェームズ・ガンのデビュー作『スリザー』(2006)はアメリカ南西部の田舎町をナメクジ状の地球外生命体によって侵略されるというSFホラーの傑作カルトである。ナメクジに寄生された人間はグチョグチョのヌメヌメになって笑っちゃうくらい気持ち悪いし、ミズーリ出身のジェームズ・ガンならではの自虐的田舎観も出て来る。この作品には二人の妹を含めた家族全員が感染されて取り残される少女まで登場する意地悪さだ。

 

 次作『スーパー!』(2010)はリアル路線の『キック・アス』で、実際にヒーローのコスプレをして自警する人間の「イタさ」を生々しく見せる。ポップで可愛らしいOPアニメからしてブラックユーモア&悪趣味全開*4で、『スリザー』よろしくグチョグチョのシーンも出て来るし、可憐なエレン・ペイジの退場シーンは映画ファンの間では語り草となっている。ブラックコメディかと思えば後半は『タクシードライバー』のようなバイオレントでほろ苦い展開にもなっていく。

 

 なお、ガンの悪趣味はオムニバスムービー『ムービー43』の一編で、主人をズリネタにオナニーするほど愛している飼い猫ビーゼルが主人の恋人の殺害を目論む『ネッド(原題:Beezel)』で真骨頂を見せる。この後に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が撮られたと考えると中々興味深い。

 

 さて、『スリザー』と『スーパー!』に共通しているのは、不器用な男から妻への執着である。『スリザー』のマイケル・ルーカーも『スーパー!』のレイン・ウィルソンも、壊れかけている夫婦関係が原因で狂っていく。そして実際のジェームズ・ガンも8年連れ添ったジェナ・フィッシャーと2008年に離婚している。

 

 『The Belko Experiment』は元々ジェームズ・ガンが監督するはずだった。彼が監督したならどれほどグチョグチョでよりブラックなギャグが飛び交う悪趣味な作品になったろうか想像してしまうが、スタジオからゴーサインが出ていたにもかかわらず彼は監督できなかった。ジェームズ・ガンはインタビュー*5で『The Belko Experiment』の監督から手を引いた経緯をこう答えている。

正直にいうと、僕がこの作品の脚本を書き上げた時僕は離婚の真っ最中だった。スタジオがゴーサインを出した時には離婚した直後だった。ブラジルのサン・パウロで撮影開始する予定だったけど、僕はただ友達や家族の周りに居たかったんだ。僕は人々が愛する人や気にかけていた人と殺し合いを強いられるような映画は撮りたくなかったんだ。僕の次の数ヶ月分の人生を注ぐのに見合う方法にはその時見えなかった。だから僕は手を引いたんだ。(訳は筆者による)

 

 「俺たちは友達じゃない 家族だ」というセリフが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』に出て来る。まるで『ワイルド・スピード*6や『ワンピース』のようなセリフだが、確かに「家族」は本作のテーマの一つである。

 

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 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』にはジェームズ・ガン特有の悪趣味さが無いわけではない。むしろグチョグチョした宇宙怪物やトリッピーなワープシーン、詳細は書けないが劇中で明らかになるとあるグロテスクな事実など、彼の持ち味は全開である。では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズとそれまでの彼の作品の違いは何かを考えてみると、それは圧倒的な優しさである。

 

 先述のインタビュー通り、離婚という重大な人生の危機の際ジェームズ・ガンを救ったのは彼の友達であり家族であった。ガーディアンズのメンバー感の信頼関係にはきっとジェームズ・ガンと彼を支える人たちの人間関係が反映されているのだろう。それは彼を育てたロイド・カウフマン総帥が前作にカメオしたことや、マイケル・ルーカーやショーン・ガンがマーベル印の大作映画で大きな役割を与えられていることからも証明できる。そんな優しさや信頼が材料になっているから、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を観ているとこんなにも幸せな気分になれるのだ。

 

 …あ、あと言い忘れてたけどベイビーグルートが死ぬほどかわいいよ!

 

 

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*1:

*2:ネタバレになるからあまりうまく書けないが、本作のラストと前作のラストを是非とも照らし合わせて観てほしい。特にとある小道具の使われ方

*3:ただ、『The Belko Experiment』には本家深作欣二御大の『バトル・ロワイアル』みたいな極限状態に置かれた人間の恐ろしさや悲しみみたいなテーマは全くなく、仕掛け優先のエクスプロイテーション映画になっているのはちょっと気になるところで、それが後述の後味の悪さにも繋がっているのだろう。

*4:

*5:

*6:ちゃっかりヴィン・ディーゼルカート・ラッセルが被ってるんだよね。家族愛が強いのはこのためか。