I am sorryの訳し方問題

 英国マンチェスターで起きた痛ましいテロ事件に寄せて、自らのコンサートがターゲットとなってしまった歌手アリアナ・グランデの悲痛が伝わるツイートがこちらです。

 

 このツイートに対する日本のメディアの訳し方が議論の的となっています。

イギリス中部のマンチェスターで22日、コンサートの会場の付近で爆発が起き、22人が死亡し、59人がけがをしました。会場ではアメリカの歌手アリアナ・グランデさんのコンサートが開かれていました。グランデさんは事件のあと、みずからのツイッターを初めて更新し、「うちひしがれました。心の奥底から。本当に本当にごめんなさい。ことばが見つかりません」とコメントしました。(以下略)

 

 この「i am so so sorry」を「本当に本当にごめんなさい」と訳した点について、「これは謝罪じゃなくて気の毒の意味だ」と総ツッコミを受け、果ては日本人の英語力や翻訳レベルの低さが叩かれています。

 

 確かに、このアリアナ・グランデのツイートの「sorry」は「お悔やみ申し上げる」意味の方が優っていると思います。ただ、それを履き違えたからといって翻訳者を袋叩きにするのも少し可哀想な気もします。

 

 「sorry」って簡単に見えて実は厄介な単語です。これは恐らく文化的な部分が関わっているのでしょうが、日本人は謝罪文化です。とりあえず自分が悪くなくても謝っておけばいい印象を抱かれます。例えばメールを送った時に「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いします」という、かなり下手に出た言い回しが一般には良しとされているのもその表れです。なんと人を訪ねるときも「ごめんください」と謝ります。この点については日系コメディアンのKTタタラ*1がネタにしています。なので、謝ることが身に染み付いている日本人にとってsorryの意味を思う時にまず最初に思いつくのは「謝罪」の意味の方でしょう。

(1:26~ 公演中に客が水をこぼしたのを見て)

ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…

これが日本で起こることなんだ、あんたがヘマを犯して俺が謝罪するんだ

 

 ところが、アメリカに来てまず知ったのは、基本的に「sorry」は使いません。例えば、人とぶつかりそうになった時に大抵の人が自然と口にするのは「Excuse me(失礼)」の方です。メールでも「Sorry」を書くよりは「Thank you」を書く方が好まれます。僕も根は日本人なのでちょっとした時に「sorry」をよく使いがちですが、大抵「nah, you don't have to be(謝る必要はない)」と返されます。当然アメリカ人も謝ることもありますが、「sorry」を使う時は自分に非がある場合に限定されることが多いです。一方で、「残念に思う」とか「気の毒だ」という意味の「sorry」はよく出て来ます。「I'm sorry to hear that(それを聞いて気の毒に思う)」とかね。

 

 でまあ、ここら辺は受験英語でも習うと思うのですが、アリアナ・グランデのツイートに戻って見ましょう。

broken.
from the bottom of my heart, i am so so sorry. i don't have words.

 この「i am so so sorry」の後には「for what happened」が続くのが自然であり、被害者や遺族の方に哀悼の意を示しているツイートのように見えます。ただ、やはり観客をこのような事態に巻き込んでしまったことに対して責任を感じている謝罪文のようにも見え、実際英語圏からのTwitterユーザーやアーティストたちが「It's not your fault(あなたのせいじゃない)」というリプを送っています。f:id:HKtaiyaki:20170524161429j:image

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 んで、更に興味深いのはですね、英語圏のユーザーが英語圏のユーザーに対して「この場合のsorryは謝罪じゃなくて哀悼の意味だ」と指摘するツイートもあるんですよ。

 

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 つまり、ネイティブスピーカー自身もどっちか分からなくなるくらい「sorry」は難しい単語なのです。確かに、メディアはアリアナのツイートを訳す前に英語に堪能な人にチェックを頼んだり色々とできる余地はあったとは思いますが、これだけ「自分を責めないで」と英語圏の人がリプライを送っているのを見ると謝罪の意味で解釈するのも無理はないです。ネイティブですら混乱するものを論って「日本人の英語は中学レベルだ!」と怒り狂うのはちょっと違うなぁと思うのでありました。

 

Sorry

Sorry

 

 

*1:KTタタラについてはこちら