少年と自転車

 ファゾム・イベンツという特殊興行団体が月一で開いている名画座上映で『E.T.』の35周年上映を見て来た。最後にスクリーンで観たのは20周年上映の時だけど、劇場版を映画館で見るのはこれが初めて。VHSの時代から数え切れないくらい観てきた作品だったのに、目玉が溶けるんじゃないかってくらいボロボロ泣いた。

 

 僕が泣き始めたのは、エリオットとマイケルと悪ガキ集団が自転車で大人たちの手を逃れて疾走し始めたところ。飛翔するシーンのカタルシスは言わずもがなだが、それでも自転車で走ってるだけですごい高揚感だ。つい最近も『IT/イット “それ”を見たら、終わり。』を観た直後を書いたけど、映画における少年と自転車の相性は抜群だ。 

 

 上記記事を書いた時は少年が自転車を漕ぐだけで何故こんなにも心地よくなるのかが謎だったが、今日『E.T.』を観て分かった。自転車は子どもの持つ可能性を無限に開く神器だからだ。

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 当たり前だが、大人と比べて子どもの能力には限界がある。体力的にも金銭的にも制限が付きまとい、行動範囲が狭められる。日本やニューヨークのように交通機関が発達しているならばまだしも、モータリゼーションが行き渡っているアメリカの郊外で子どもたちが自分の足で行ける距離は限られている。

 

 しかし、自転車があれば行動圏が圧倒的に広がる。自分が普段通ることのない未知の領域まで行ける。『スタンド・バイ・ミー』を元に企画された『ポケットモンスター』で冒険を助けるアイテムに自転車が採用されたのも同じ理屈だ。

 

 そして自転車は距離だけでなく地形にも強い。『E.T.』でエリオットとマイケルはわざわざ盗んだ車から自転車に乗り換える。一見車の出せるスピードを考えると非効率的に見える。当然彼らはパトカーに追われるが、狭い道や急な坂道、崖を縦横無尽に駆け回る自転車にパトカーが追いつけない。

 

 スピルバーグが本作のキーアイテムに自転車を選んだのはこれらのことを踏まえてだろう。マイケルがまだ自動車免許を取得できず運転に不慣れな様子を写しているのは無考えの演出じゃない。車じゃダメなんだ。自転車は少年たちにあらゆる場所への冒険の扉を開く鍵なのだ。自転車だから飛べるのだ。

 

 そういえばこの夏日本に帰った時『モンスターストライク』を機内で観た。ジュヴナイル映画で評判も良かった気がするんだけど、イマイチ乗れなかった。少年たちの移動手段が自動運転の車、という便利の良さもひょっとしたら「一夏の冒険感」を薄めていた原因なのかもしれないね。

 

E.T. (字幕版)

E.T. (字幕版)

 

 

 

It: Film tie-in edition of Stephen King’s IT (English Edition)

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