猛獣使いの時代

 出張でLAに行って、ランディ・ミラーという動物スタントのスペシャリストと仕事をした。その名前を聞いても今一ピンと来ない人が多いだろうが、『グラディエーター』のトラに見覚えがある人は多いだろう。あれはランディさんが調教したトラだ。他にも『トランスフォーマー:リベンジ』の冒頭に出てくるトラもランディさんが協力しているし、最近では『ジュラシック・ワールド』でクリス・プラットが演じたラプトル調教師のコンサルタントをした。

 

 ランディさんの自宅には彼が協力したポスターや受賞したトロフィーが飾られてある。ランディさんは『グラディエーター』でスタント界のアカデミー賞であるタウルス・ワールド・スタント・アワードで最優秀動物スタント賞を受賞している。

 

 名作ポスター群の中に紛れて僕の大好きなウィル・フェレル主演のバスケコメディ『俺たちダンクシューター(原題:Semi-Pro)』のポスターがあった。ウィル・フェレル演じるバスケ選手兼プロモーターが興行を盛り上げるために試行錯誤するコメディだが、劇中ウィル・フェレルがクマとレスリングをするシーンがある。「このクマもランディさんの仕事だったんですか!あれどうやって撮影したんですか?」と聞くと、実は顔が映らないショットではランディさんがウィル・フェレルのスタントをやって撮影したそうだ。確かにランディさんの顔はちょっとウィル・フェレルに似ている。

 

 そんなランディさんの自宅だが、少し散らかっている。実はアラバマ州への引越しを考えているため荷造りをしていたそうだ。かつては動物スタントで一斉を風靡したランディさんは最近では安価で低リスクのCG技術にすっかり仕事を奪われ、また動物愛護団体の活動のため益々肩身の狭いを思いをしているという。子役以外全てCGで描かれた『ジャングル・ブック』は確かに驚異的な映画ではあったが、どの分野でも技術の進歩は必ずどこかに陰を落とす。


 ランディさんの自宅には虎やクマ、ピューマなどがいる。そんな猛獣たちを手なづけているとは思えないほどランディさんはやつれていた。次いつ一緒に仕事できるかわからないので、最後に記念写真を撮ってもらった。しかし、最近ではCGによる表現力が臨界点に達し、逆に実写にこだわった演出をする映画も増えている。ランディさんのような動物スタントが再び日の目を見る日は近いかもしれない。