純然たる『ブレラン』/『ブレードランナー2049』★★☆

 SF映画の金字塔『ブレードランナー』35年ぶりの続編を鑑賞。監督は『ボーダーライン』『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ、前作の監督リドリー・スコットは製作総指揮に回る。脚本は『ブレードランナー』のハンプトン・ファンチャー、『エイリアン:コヴェナント』のマイケル・グリーン。撮影監督は『スカイフォール』『ボーダーライン』のロジャー・ディーキンス。前作のハリソン・フォードに加え、ライアン・ゴズリングが主演、ジャレッド・レトロビン・ライト、アナ・デ・アルマス*1シルヴィア・フークスらが共演。

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 映画ファンにとって禁句というくらい非常に言いにくいことなのだが、僕はSF映画史に残る傑作『ブレードランナー』が正直苦手である、ということは以前このブログにも書いた。*2シド・ミードのデザインに基づいてリドリー・スコットが作り上げたディストピア描写は今観ても恍惚とさせられるが、ハリソン・フォードの省エネ演技がいつも以上に冴えていて感情移入しにくいし、ストーリー運びも淡々としてカタルシスを感じにくいと思う。今でこそ『ブレードランナー』の影響を受けた映画は枚挙にいとまがないが、フォロワー作品を先にいくらでも観ていたためその源泉たる『ブレードランナー』を改めて観ても初見時はその衝撃がイマイチ伝わらなかった。

 

 こんなことを書くと老練の映画ファンの方々に叱られそうだが、僕だって捻くれて書いているわけじゃなくて『ブレードランナー』が初めて世に出た時の熱狂やショックを本気で味わってみたかった。あるいは、『ブレードランナー』との初遭遇がもっと映画ファンになりたての頃だったならば…。91年に生まれてしまった自分の出自を呪う他ない。

 

 その点『ブレードランナー 2049』は、82年におそらく人々が体験したであろうショックを、ヴィジュアル面では存分に与えてくれた。誰が何と言おうと、巨匠ロジャー・ディーキンスの撮影の美しさは賞賛せざるを得ない。前作を彷彿させる目の超クローズアップから最後のワンカットに至るまで、構図・照明・色彩どこをとっても完璧で、本作は2時間43分のロジャー・ディーキンスの決めショット展覧会になっていると言っていい。

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 しかし、リドリー・スコットが打ち立てたディストピアをさらに推し進めたヴィジャウルショックには驚嘆する一方で、やはり個人的にネックと感じたのは淡々とした物語進行だった。というよりかは、『ブレードランナー』を意識したのかアンチクライマックスな作りになっている。

 

 先鋭的なビジュアルとハードボイルド小説のような渋い語り口。ドゥニ・ヴィルヌーヴは『ブレードランナー』の続編を作るのに必要なことを存分に理解していて、事実正統な続編が出来上がり前作のコアなファンも大いに満足させている。そして、原典にそこまでノレなかった『ブレラン』難民の僕も、『ブレードランナー2049』の純然たる『ブレラン』さに、再び置き去りにされるしかなかったのである。

 

 

The Art and Soul of Blade Runner 2049

The Art and Soul of Blade Runner 2049

 

 

*1:宣言するけど、この映画を観終わった後観客は全員アナ・デ・アルマスちゃんにメロメロになってるはず

*2: