今、撮るべき映画/『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』★★★

 70年代にベトナム戦争の実態を暴いたスクープを基にした『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を鑑賞。監督・製作はスティーブン・スピルバーグ、脚本はリズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー。撮影監督のヤヌス・カミンスキー、プロダクション・デザインのリック・カーター、編集のマイケル・カーン、音楽のジョン・ウィラムズなど、スピルバーグ作品常連スタッフが集結。トム・ハンクスメリル・ストリープが共演する。

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 スピルバーグは凄まじいほどの早撮りで有名である。『ジュラシック・パーク』のポストプロダクション中に『シンドラーのリスト』を撮り、『宇宙戦争』の完成直後に『ミュンヘン』の製作に入り同年に公開を終わらせた。通常ハリウッドの作品が企画から公開に至るまでは2〜3年かかるというが、このペースは驚異的である。

 

 そしてまたこの『ペンタゴン・ペーパーズ』もスピルバーグがリズ・ハンナ脚本を読んでから2017年2月で、同年5月には撮影が開始され、11月にはサウンドミックスを完了し、12月には公開されてしまっている。これも全て『レディー・プレーヤー・ワン』のポスプロ中に映画を一本完成させてしまったのである。しかし、何故こうまでしてスピルバーグは本作を2017年中に公開したかったのだろうか。

 

 2017年はドナルド・トランプが大統領に就任した年である。就任直後からトランプはロシア疑惑を報じられ、自分を批判するメディアを「フェイク・ニュース」と糾弾した。トランプを支持する人も彼に習い既存のメディアを「フェイク・ニュース」と呼んで徹底的に叩いた。何もアメリカだけの話ではなく、日本でも政府に批判的な記事が出るたびに「マスゴミ」や「偏向報道」などと罵声を浴びせる人はたくさんいる。

 

 しかし、僕がアメリカの大学で必修科目の政治学とメディア論で学んだことだが、マスメディアの役割は政府のPRを行うことでは断じてない。マスメディアには政権が暴走しないように監視する使命があるのだ。マスメディアが現行の政権に常に批判的なのはある種当たり前なのだ。

 

 1971年、NYタイムズペンタゴン・ペーパーをすっぱ抜き、いかに米政府が国民を欺いてベトナム戦争を拘泥化させたかを暴いた。ニクソン政権は安全保障を理由に記事の差し止め命令を求めた。報道の自由が奪われた先には検閲と独裁しかない。その自由を守るために立ち上がったのがワシントン・ポスト紙なのだ。

 

 『ペンタゴン・ペーパーズ』はワシントンポスト紙の「ペンタゴン・ペーパーズ」に関する記事発行の顛末を巡る映画で、一聞すると地味な内容だ。しかしタイムリミットや圧力と戦いながら記者たちが編集を続ける様子はとてもサスペンスフルでまるでスパイ映画を見ているようである。「この脚本は2年も3年も待てる作品じゃなかった。今撮るべき映画だ」とスピルバーグはインタビューで答えている。オフィスを駆けるベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)の姿は、本作の製作を早めたスピルバーグの姿とダブって見えた。

 

Ost: the Post

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