今年のセンターのムーミンは悪問なのか考えてみる

 大学受験なんてもう7、8年前の出来事*1なのに、浪人したからかやはりあの時期の緊張や精神的疲労はトラウマ的に覚えています。未だに「うわ、来月センター試験なのに範囲が終わらない…」なんて夢も見ます。

 

 そんなことは置いておき、今週行われたセンター試験地理Bでムーミンの出身地を問う問題が出て話題となりました。

 

 実際に間違えた受験生と見られる多数のアカウントがムーミンの公式ツイッターに押しかける炎上じみた事態となっています。*2

 

 まあ、人生のかかった試験に奇抜な問題を出されて受験生が落ち込むのはわかるんですけれども、知識人風な人々からも「ムーミンを知らないと解けない悪問」などの意見を散見します。ただ、実際に出題された問題を見ると、そこまで悪問でもない気がします。

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 地理を受験科目の一つにとっていた自分から言わせると、地理は単なる暗記科目ではありません。地「理」というくらいですから、「論理」は地理の重要な要素の一つです、とは僕がお世話になった阿部恵伯先生のお言葉でして、地理は習った知識を応用して答えを導き出す科目です*3。大体、センター試験なんて教科書で習った以上の知識は問われないので、今回の設問も高校教育課程の基礎知識だけで十分解けるようになっています。

 

 今回の設問は『ムーミン』にばかり目が行きがちですが、実はその対照となっている『小さなバイキングビッケ』こそが大きなヒントです。バイキングはノルウェーとスェーデンに住んでいた海賊民族のことで、レッド・ツェッペリンの『移民の歌』のモデルにもなっています。だから消去法でまずは『ムーミン』がフィンランドのアニメだとわかります。

 

 次にフィンランドの挨拶ですが、これも一見すると現地の言葉を知らないと解けない悪問のように見えます。しかし現地の言葉は習わなくても、地誌を勉強していれば必ずその国や地域の民族・言語系統は習います。そして改めて設問を見ると、例になっているスウェーデン語と比べてAは似ていてBは明らかに大きく異なっています。

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 バイキングはノルウェースウェーデンから発祥していることからも分かるように、彼らのルーツは似通っていてゲルマン民族です。一方のフィンランドウラル語族でどちらかというとハンガリー語と似ています。語族別に世界地図を色分けた下図みれば北欧三国で見事にフィンランドだけ色が違うことがわかります。

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 以上のことから、答えは自ずと「タ・B」の②と導き出せ、今回の問題はいかに高校地理の履修範囲から練られて作られた問題かが分かるかと思います。よって、一概に「ムーミンを知らなければ解けない」問題とはいえず、逆に今の若い世代のムーミン知名度を考えればフェアな問題という事もできます。

 

 ただですね、こんだけ偉そうな講釈を垂れておきながら、解き方の予想はつきましたけども僕は北欧3カ国の語族がどうだとかさすがにもう覚えていなかったのでぶっちゃけググりましたし、仮にこの問題が僕が受験生の時に出題されていたら解答できていたかもわかりませんし、外していた場合は他の受験生の皆様と同じくムーミンへの恨み節を唱えていた可能性の方が高いです。

 

 こんな記事が書けるのも今や完全に他人事だからで、つくづく受験なんかもうこりごりだと改めて思うのでありました。

 

ムーミン100冊読書ノート (講談社文庫)
 

 

 

*1:書いていて死にたくなりました。そんなに経つのかよ…

*2:というか、そんなことをしている暇があるならとっとと次の日に備えろ。自分が受験生の時代にまだツイッターとかSNSが広まってなくて本当に良かったと思う。

*3:って、どの科目もそうかもしれませんが