日本版『ドリーム』

 去年日本で公開された傑作映画『ドリーム』の原題は『Hidden Figures』でこれは実に巧いタイトルで、「隠された数式」と「隠された人たち」というダブルミーニングになっている。『ドリーム』はアメリカ初の友人宇宙船計画であるマーキュリー計画の裏に携わっていた、3人の黒人女性を描くドラマだ。『ドリーム』は差別がいかに人類と科学の進歩の足かせとなり、非効率的で非合理的かを描いた映画でもあり、その点は『スター・トレック』と共通している。

 

ドリーム (字幕版)

ドリーム (字幕版)

 

 

 さて、僕は薬を飲むが大嫌いでいい歳こいてまで「おくすり飲めたね」にはお世話になっていたが、その龍角散のヒット商品の裏には社内で邪険に扱われていた女性開発者がいた、というこちらの記事を読みました。

 

 とてつもない苦労話で読んでて頭が痛くなるのですが、すげえのはこのくだり。

 「機械に触れようとすると、『その機械はちょっと……』と止められる。『危ないから』と説明され、『大丈夫ですよ』と答えると、『壊れたら、ネジなどたくさん出てきて大変だから』と。『私、機械をいじるのも好きですから』と答えると、困ったような、あきれたような顔をして去って行かれる――というようなことが何度かありました」

 社内には当時、女人禁制の部屋や女性が触れてはいけない機械があったという。

  まさに『ドリーム』でタラジ・P・ヘンソンオクタヴィア・スペンサーが直面していた理不尽さだよ!そんな福居篤子氏の援助者となるのはのちに社長とな藤井隆太氏。当時旧態依然な縦割り体質のせいで経営難に陥っていた龍角散の立て直しを図っていた藤井氏は改革が必要だと、腫れ物扱いを受けて転職を考えいてた福居氏を引き止めたのだそうだ。これもまさに映画内のケヴィン・コスナーだ。

 

 なんやかんやで福居氏が開発に携わった「おくすり飲めたね」がヒット商品となり会社の経営は安定したものの、彼女は古参役員から左遷されてしまう。パソコンを開くことも本を読むことも禁じられた環境に置かれた福居氏だったが、これまたかっこいいのが

 「ここで辞めたら相手の思うツボだし、きっと自分にも非があるから、こんな風に左遷されてしまうんだろうと思いました。どうして自分は周囲とあつれきを起こしてしまうのかの理由がわからないうちは、どこへ行ってもまた同じことが起きる。いい機会だから、自分には何が欠けていて、どこに欠点があるのか、を徹底的に考えてみようと思ったのです」


 考えた末、自分には製剤の知識が足りないと気がつき、土日を使って名古屋市の大学院に通い始めた。

 

  

  この下りはジャモール・モネイのくだり!と大方『ドリーム』に出てくるヒドゥン・フィギュアたちの役割を一人で担ってしまう福居氏。結果としては古参役員が一掃された後に藤井氏の呼びかけに応じ本社に戻り、現在では執行役員も務めている。

 

 男女共同参画社会基本法が施行されてから19年近く経つが、日本では未だに男女格差が埋まっておらず、男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」では世界144カ国中114位、「幹部・管理職での男女比」なんか116位で先進国中最低と言ってもいい基準だ*1。『ドリーム』が公開された時、アメリカで理科系志望の女子学生が増えたと言う。現代社会を反映した映画には社会を大きく動かす力があるので、福居さんの話も是非メジャーな邦画会社に映画化して欲しい。

龍角散 おくすり飲めたね いちご 200g

龍角散 おくすり飲めたね いちご 200g

 

 

 

*1: