ウルフ・オブ・有楽町

今週のお題「ゲン担ぎ」

 

なにも思いつかないのでお題スロット。

 

 僕が就活していた時期の話であるが、2014年の1月末にとんでもない映画がやって来た。マーティン・スコセッシの『ウルフ・オブ・ウォール・ストリートである。

 

 地の果てまでゲスい証券マンたちをピカレスクロマン的に描いたこの映画に僕は多大な影響を覚え、「生まれ変わったら証券マンになって欲望の限りを尽くしたい」と当時は口癖のように言っていた。現実の僕は将来の行方も分からない哀れな就活生であったため、金の限り自由気ままに生きる彼らの姿に余計に憧れを覚えたのであろう。

 

 特に当時の僕は焦っていた。映画や映像系の会社しか受けておらず、どこからも内定はもらえていなかった。原因は明らかに緊張であり、面接でうまく自分をアピールできずにいた。大変悩ましい問題であったが、ある日突然閃いた。チェストハミングだ!

 

 

 『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』を観ていない人にチェスト・ハミングを説明すると、冒頭で主人公のジョーダン・ベルフォートはメンターのマークと出会い、マークが証券マンに必要なのはリラックスをすることだと伝授する自己制御術である。この印象的なチェスト・ハミングは実はマークを演じるマシュー・マコノヒーが自らの緊張をコントロールするために現場で行なっていたもので、それを目撃したスコセッシが映画内に取り入れたそうだ。

 

 映画から全てを学んでしまう僕は、実際に待合室で自らの緊張をコントロールするためにチェスト・ハミングをしていた。するとなんと、確かに心臓の鼓動は和らいでいくではないか。しかし、緊張は和らげられたものの、今ひとつ面接におけるパフォーマンス力が発揮できない。一体どうしたらいいのかと日々YouTubeで『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の予告編を見ながら考えた。そうか、シラフだからか!

 

 先述のチェスト・ハミングのシーンで更にマークはジョーダンにアドバイスを与える。「この業界で生き抜くために必要なのは二つある。マスを掻くこととコカインだ」日々数字と重圧と戦って行かなければならないウォールストリートの証券マンたちは射精とドラッグによって神経を研ぎ澄ましているのだと言う。

 

 まあ、オナニーはしているから良しとして、問題はドラッグで当然日本でそんなことできるわけがないので、僕は代わりに面接の前に酒を一杯飲んでから臨むようになった。映画会社のほとんどは有楽町付近にあるため、これがまた酒を飲むには最適な環境であった。

 

 結果としてこの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』流の面接術は結構うまくいき、某大手映画会社の最終選考まで残った。さすがに最終面接で役員の前で酔った状態で出る勇気はなかったので最終面接日はシラフで臨んでしまったが、結果としてはガチガチに緊張してしまったのでうまくいかなかった。もしあの日、事前に酒を飲んで入れば…僕は今頃有楽町で働いていたのかもしれないね。