トム・ハーディーの一人相撲秋場所開幕!!/『ヴェノム』★★☆

 ソニーが仕切る「ソニーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクターズ」*1の第一弾『ヴェノム』を鑑賞。監督は『ゾンビランド』『LAギャングストーリー』のルーベン・フライシャー、製作はこれまでの『スパイダーマン』シリーズを手掛けてきたアヴィ・アラド、エイミー・パスカル、脚本はジェフ・ピンカー、スコット・ローゼンバーグ、ケリー・マルセル。音楽は『ブラックパンサー』のルドヴィグ・ゴランソン。主演は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『ダンケルク』のトム・ハーディー、助演に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のミシェル・ウィリアムズ、『ローグ・ワン』のリズ・アーメッド、他。

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   ヴェノムが『スパイダーマン3』で映画界デビューを果たして早11年。『スパイダーマン』の原作コミックの人気ヴィランであるヴェノムの単独スピンオフを作る話は『スパイダーマン3』公開直後からあった。しかしスパイダーマン3*2は興行的には成功したものの批評家受けが芳しくなく、『アメイジングスパイダーマン』としてリブートがかけられるようになり、『ヴェノム』の企画もそちらの世界観に引き継がれることになる。

 

 個人的には愛してやまない『アメイジングスパイダーマン2*3は有名なヴィランチーム シニスター6の登場を匂わせる大風呂敷を広げる終わり方で、ヴェノムの映画化ニュースもこの頃盛んに聞くようになったが、ご存知の通り『アメスパ2』は興行的には散々たる結果で打ち切りとなり、シニスター6の話もヴェノムの映画化もまたもや宙ぶらりんとなってしまった。いわば、『ヴェノム』は呪われた企画だった。

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▲賛否両論の『スパイダーマン3』に登場したヴェノム。個人的には好き。

 

 

 さて、10年も経てば映画界の情勢も変わり、いまやマーベル・スタジオ一強の時代である。かつてはライバルだったソニーもこのビッグウェーブに乗ることを選び、自社で権利を持っていたスパイダーマンを『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で登場させ、『スパイダーマン・ホームカミング』をMCUのブランドの元で共同製作することになった。しかし、どういう訳だかソニーは『ヴェノム』の企画を諦めていなかった。

 

 邪推をすると、プロデューサーのアヴィ・アラドの執念だろう。実際に脚本家を雇って企画を10年も温めていたとなると、それだけで費用が霞む。マーベルスタジオとの軋轢があろうとなかろうと、敏腕プロデューサーのアヴィ・アラドは何としても元手を取り戻したかったのじゃなかろうか。こうして『ヴェノム』の企画はビジネスの名の下我々映画ファンやアメコミファンを混乱させたまま走り続けた。ヴェノムはMCUに登場するのか?好敵手スパイダーマンとの関りはどうなるのか?

 

 という、作品の本質とは外れたことでハラハラさせられていた『ヴェノム』であったが、実際に蓋を開けてみるとそんな政治的背景は関係なしに面白い作品に仕上がっていた。といっても、予告編やマーケティングイメージが伝えているような「アンチヒーロー」を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。僕や、僕が見た『ヴェノム』を観た劇場でゲラゲラ笑っていた観客たちが本作を楽しめたのは、偏にトム・ハーディーの狂ったような一人芝居のお陰である。

 

 本作はエディ・ブロック/ヴェノムのオリジンストーリーであるため、確かに物語にエンジンがかかるまでのアイドリング時間が長い嫌いはある。ただ、ひとたびシンビオートがトム・ハーディーに付着すれば、ひたすらにトム・ハーディーが勝手に震えだしたかと思えば狂った行動をとって常軌を逸した発言をし、そして自らツッコミを入れるという、トム・ハーディーの一人相撲が堪能できる愉快な映画と変容するのだ*4

 

 役者が一人二役を演じる映画は言うまでもなく俳優の技量が試されるが、こういったジキル博士&ハイド式の多重人格のキャラクターはなおハードルが高い。『スプリット』のジェームズ・マカヴォイのように器用に演じ分ける役者もいる一方で、変なギアが入ってしまうと『ゴーストライダー2』のニコラス・ケイジ*5のように珍名演技が発揮されるが、本作のトム・ハーディーも間違いなく変なギアが入ってしまっており、高い演技力故に劇中のバイクチェイスよろしく変なギアの加速度もフルスロットルなのだ。

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▲こんなダークなヴィジュアルなのに、全編ほぼトム・ハーディーのひとりコント状態なのが最高過ぎる!

 

 

 MCUとの関りの明示はひとまずは避け、なおかつ「デイリー・ビーグル」などMCUには登場していないマーベル用語をチラつかせて先手を打ち、エンディングで「ソニーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクターズ」の立ち上げを明確に宣言する立ち回り*6もクレバーだ。ストーリーそのものはまあよくあるアメコミヒーローオリジン映画なので可もなく不可もなくと言った具合だが、その歪な製作背景に囚われないトム・ハーディーのタガが外れた一人相撲だけでも僕はお釣りがくるくらい満足したのであった。

 

 

ゴースト・ライダー2 (字幕版)
 

*1:ここら辺のシェアード・ユニバース映画をめぐる面倒くさい状況は手前味噌でありますが、こちらをご覧ください。 

 

*2:僕は好きです。

*3:

 

*4:なお、トム・ハーディーがヴェノムと化した際のモーション・キャプチャー&声優もトム・ハーディーである。ちなみにヴェノムの日本の吹き替えは中村獅童と聞いたが、なるほどかつて『デスノート』でリュークの声を当て、死神が見えない人にとってはただ単に月がひとりでにつぶやいている狂人にしか見えない共通点を考えると悪くない起用に見える。

*5:こちら僕が人生ベスト級に好きな演技である、『ゴーストライダー2ニコラス・ケイジの怪演、というか狂演。落ち込んだ時に見ると100%元気になれます!

*6:あとちゃっかりと自社作品の宣伝も…詳細はエンドクレジットで!