「若い子たちはクイーンを知らないだろう」問題について

 世界的に大ヒットを飛ばしている『ボヘミアン・ラプソディー』が日本でも公開され、めでたく日本でも大ヒットしています。話題作なので熱のこもったレビューや記事をちらほら見かけるのですが、度々「今の若い子はクイーンなんて知らないだろうけど」といった意の物言いを見かけることにどうしても気になってしまいます。

 自分は91年生まれなんで、「若い子」として自認してますが*1、若者世代を代表して言いましょう。

 

 

 

クイーンくらい知ってるわ!

 

 

 

 クイーンに限ったことではないですが、この「どうせ若い奴らはこんな素晴らしい曲/映画/作品を知らないだろうから俺様が教えてやる」という舐めた上から目線は本当に何なんでしょうね。Twitterでナイトウミノワさん(@minowa_)に素晴らしいリプライを頂きましたのでありがたく引用しますが、世代を持ち出してマウンティングを取る人は大抵「若い人は物を知らないと思いたい、知識量で自分のほうが上回っている」という意識が根底にはあるのだと思います。

 

 というかですね、僕らの世代に限った話ではなく、誰もが子供の時に体験するコンテンツはその当時の製作者である大人が好きな物が詰め込まれているので、大人が思ってるよりも子供は色んな物を知ったり体験していたりするものです。例えば、僕らの世代は子供の時にNHK教育の『ハッチ・ポッチ・ステーション』でクイーンのパロディ観させられたり、キムタク主演の『プライド』が流行った時に公共の場に行けば「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」を散々聞かされてきた*2のに、クイーンのことを知らない訳がないわけで!

 

 もっと言うと、傑作や名作は次の世代まで残るくらい素晴らしいから傑作たる所以なのであって、別にあんたに教えてもらわなくても知ってるよ!って話なのです。

 あと、ちょっと別だけど関連した世代間マウンティングの話として、「あの古典的名作の○○を観てないなんて、まだまだだな!」みたいな物言いにも腹が立ちます。映画だろうと音楽だろうと小説だろうと漫画だろうと絵画だろうと、時間が経てば経つほど作品の数は増えていく一方なので、そりゃ1950年代生まれの映画好きと90年代やゼロ年代生まれの映画好きとの間では人生で触れてきた作品の数に差があって当たり前、というかもっと根本的で超基本的なことを言えば個人が人生において知覚してきた作品なんて人それぞれ別で当然なんで、「△△を観た/観てない」で人を馬鹿にしたり見下したりするのは小学生で卒業して欲しいですね。もしそっちがそれでマウントとる気なら、こっちだって「ポケモンって知ってます?来年ハリウッドで実写化されるんですけど?」でマウント取り返してやりますけども!

 

 ……と、上記までのことについては今朝Twitterで呟きまして、今日はその憤りを改めてブログに書き直そうと思ったのですが、書いているうちに色々な考えが頭をよぎりまして。

 

 少しここで自戒の意を込め、冷静になって我が身を振り返ってみると、確かにこういう映画ブログやツイッターで映画の感想とか書いている手前、僕は自己承認欲求が強い人間であることは自覚してます。映画の感想などを書く際に、関連した知識について「知らない」って読む人に思われたくないことも認めますし、そのために僕は映画を観る前にその映画に影響を与えたであろう作品はなるべく観るようにしてますし、感想を書く前には製作背景などざっと基本的な情報は調べてから書くようにしてます。

 

 お金をもらっている訳でもないのになんでこんなことをしているんだろうと思うと、多分僕は大好きな映画について他人から精通していると認知されたいんだと思いますし、結局これって「僕は他人よりは映画を知っていると思いたい、知識量では自分方が上回っている」というマウンティング行為を見知らぬ人に対して無意識に取っているのと同じなんだと思います*3。これはネットに限らず、実生活でも人と映画の話をする際求められている以上の情報を出そうとしがちな自分の性格からもそれが如実に表れていると思います。

 

 で、そんな中で昨日僕が超カッコイイ!と思ったのは暗黒皇帝さんのこちらの記事であります。

 いつも暗黒皇帝閣下の記事を読んでいて様々なジャンルの映画やバンドデシネ、アメコミ、小説、音楽など幅広いカルチャーについて触れていて尚且つ的確なレビューをされていて凄いなぁと尊敬していたのですが、この記事では「ヒッチコック作品をきちんと観ていない」ことをハッキリと書く姿勢が気取っておらず、且つ改めてヒッチコック作品を観た時にちゃんとヒッチコック作品について暗黒皇帝閣下的に感じた魅力を言語化するのが本当に痺れるほどカッコいいと思いました。僕もヒッチコック作品はほとんど見てませんが、僕だったらしれーっと誰にも言わずに作品見て、あたかも昔から知ってたかのように「この作品はヒッチコックの『××』という作品から受けてるのは明白だが」とかなんとかカッコつけて書くこと講け合いです。

 

 今日は華金ということもあって少し酔ってはいる*4ので結末の焦点がボヤけてきたきらいはあるのですが、とにかく自分も他人に対して寛容であろう!自分に正直になろう!とこの記事を書きながら決意したのでありました。常に無知の知を意識して大人になっていこうと思います。

 

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

 

 

 

*1:というか、いつまでもずっと自分は若いんだ、と思い込んでいたいものです…

*2:ここで受動態を使ってるのは、子供としてコンテンツを楽しんでいるうちに不可抗力的に大人(製作者)が使用するクイーンの楽曲について触れていかざるを得なかった、という意味で、別に嫌々観させられたり聞かされていた、と言っている意味ではありません。むしろこういう一見大人にしか分からないパロディやオマージュこそ次の世代に文化を継承していく上では大事だと思いますし、僕はこういった作品でクイーンに触れることが出来たことは感謝してます。

*3:そういえば僕は大学時代にサークルの後輩とかに「初めて遊んだ『ポケモン』は「ルビサファ」?初代世代じゃないと認めない!!」などと馬糞の戯言のようなことを言ってマウンティングしていたことを思い出しました。地面に頭がめり込む気持ちで土下座して謝罪致します。

*4:と書くことで、シラフになって読み返した時に赤面する前に釘を刺しています。