Keep Rolling!/『カメラを止めるな!』★★★

 今年インディーズ映画としては異例の動員数200万人・興行収入30億円以上の大ヒットを記録して大きな話題を呼んだゾンビ映画カメラを止めるな!』をようやくBDで鑑賞。ENBUゼミナールのシネマプロジェクトの一環で、監督・脚本・編集は劇場用長編デビューとなる上田慎一郎。役者はワークショップの参加者で固められ、濱津隆之真魚しゅはまはるみ秋山ゆずき、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈らが出演。

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 SNSの口コミで東京都内2館の上映から300館以上まで広がったほど、2018年の台風の目となった作品である。喧伝されている通り、作劇上のトリックが肝となる作品なので、まだ本作を観ていない人はこんなブログなんかも読まずにいち早く観て欲しい。

 

 なので、プロットに関して触れることは避けるが、ただ僕自身は話題となっている「トリック」には感心しつつも、あまりポイントだとは思っていない。僕が大きく感動したのは、本作はゾンビの映画でもなく、ワンカットの映画でもなく、映画を作ることで人生を再起する負け犬たちの話だからだ。

 

 もちろん、本作自体がそういう内容になっているのは観てもらえると分かるが、更に僕を泣かせたのはBDの特典になっているメイキングビデオである。このメイキングビデオにはワークショップでの役者陣の初顔合わせから、映画製作体験、リハーサル、本番、打ち上げ、劇場公開まで、カメラを止めるな!』の参加者たちが歩んだ軌跡が残されている。正直に書いてしまうと、ワークショップに集まった彼らは幸薄そうな顔をしている。失礼を承知で書くが、あまり脚光の当たらない人生だったろうし、本作に出演した切っ掛けも「人生を変えたかったから」「自分を変えたかったから」と述べる参加者の多いことからもそれは伺える。

 

 しかし、負け犬だった彼らが一生懸命稽古をし、意見を交わし、涙を流し、映画を作り、楽しむ。それは狙ってか偶然か、このプロセスそのものが『カメラを止めるな!』のストーリーに凝縮されており、あたかもドキュメンタリーかのようにこの映画に携わった人々の一瞬一瞬の輝きが収められていて不思議な高揚感と多幸感を産み出している。*1

 

 その結果が今年日本列島を横断した熱狂であり、ネットで見る舞台挨拶動画などを見ると皆心の底から嬉しそうだしワークショップを始めた頃とはまるで別人であり、その姿に僕は『ロッキー』と同じような感動を覚えたのだ。『カメラを止めるな!』を観てからというもののネットで関連記事やインタビュー動画などを漁る日々が続いているが、同時に僕もこうしちゃおられん、という妙な焦りも覚える。「Keep Rolling!」と、また人生を鼓舞してくれる一本に出会ってしまった。

 

*1:誤解なきよう、自主映画製作者の端の端の端くれとして言わせてもらうと、もちろん全ての映画が製作者達の血と汗と涙が混じっており、本作と同じようなプロセスを経て製作されている。が、『カメラを止めるな!』はワークショップ作品ということもあり、その過程と内容との親和性がとてつもなく高かった、というのは留意しておきたい。