ナメてた母親が実は殺人マシンでした/『Furie(原題:Hai Phượng)』★★☆

 ベトナム映画史上初めてアメリカ公開を果たした『Furie(原題:Hai Phượng)』をAMCエンパイアで鑑賞。監督はレ・ヴァン・キエト、主演はヴェロニカ・ゴー。

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 我々はブルース・リージャッキー・チェンらにより、香港人をナメたら即死ということを教わった。ラジニカーント様からはインド人をナメたら即死、『ザ・レイド』からはインドネシア人をナメたら即死、数々のタイ映画からはタイ人をナメたら即死ということも教わった。そして『Furie』により人類は新たな事実を学ぶことになる。

 

ベトナム人をナメたら即死!!と。

 

 ベトナム南部の農村で娘マイと二人暮しをしていたハイ・フォンは借金取りを生業としている。ハイが村中から金を巻き上げているが故にマイは学校ではイジメられており、母娘関係も冷え切っていた。ある日、二人が村の市場に行くと、目を離した隙に人身売買グループによりマイは誘拐されてしまう。ハイの必死の追跡も虚しくマイはホーチミンに連れ去られてしまうが、人身売買グループには誤算が一つあった。ハイは元ヤクザであり、ベトナム武術ボビナムの使い手だったのだ!かくしてハイというワンマンアーミー、否、ワンマザーアーミーと国際的な犯罪グループの死闘の火蓋が切って落とされたのであった。

 

 この様に非常にシンプル且つ何度も観てきたプロットで、本作は映画ライターのギンティ小林氏が提唱する「ナメてた相手が実は殺人マシンでした」映画の系譜に当たる。しかし、『Furie』が凡百のアクション映画の中に埋もれず、こうしてベトナム映画史上初のアメリカ公開となったのは、やはりボビナムという普段あまり聞き慣れない武術アクションが凄まじいためだろう。

 

 ウィキペディア*1によると、ボビナムは欧米列強に抑圧され続けてきたベトナムでこそ生まれた護身術で、「武術によって心身ともに励まし鍛える」ことを目的としているそうだ。西洋と東洋の武術が研究し尽くされ、手・肘・足・膝の他に剣、ナイフ、扇子、爪、薙刀なども使われる。本作はそんな硬派な格闘技を自在に操っているのがお母さんというギャップが素晴らしく、ハイを演じるヴェロニカ・ゴーの身のこなしには感嘆する。

 

 更にチンピラの男どもを簡単にのしていくハイの前に立ち塞がる筋骨隆々の女傑ボス、タン・ソイ様がまた素晴らしい。あれだけ強かったハイですらまるで歯が立たず、監督これはちょっとパワーバランスやっちまったんじゃないかといらん心配をしてしまったが、ボビナム由来の精神力でハイがタン・ソイ様と目にも止まらぬ速さで拳を応酬し合うクライマックスには観客席から拍手が上がったほどだ。

f:id:HKtaiyaki:20190306163446p:plain▲『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』のマザーロシア以来の女傑、タン・ソイ様。なお、様付けが義務である。


 アクションのみならず、ハイがずっとアオババを着ていたり、やたらとバイクや原付が登場したり、電気も通らないド田舎とビル群が立ち並ぶ大都会ホーチミンの比較など、初めて観るベトナム映画のベトナムらしさも面白い。更に個人的に最近ハマっている赤・青・緑を強調したネオンカラーな照明も使われまくっていて画的にも楽しい。本作の存在を知ったのは『流浪地球*2』を観たときにかかった予告であるが、普段あまり触れていないアジア圏の映画がどれもこれも面白かったりすると邦画もこうしちゃいられないぞと少し焦る気持ちになるのであった。

 

ベトナム総合武術 新 ボビナムの教科書 (「開け! 次代の扉」編)

ベトナム総合武術 新 ボビナムの教科書 (「開け! 次代の扉」編)

 

 

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