スーパーマン:思春期編/『Brightburn』★★☆

 スーパーヒーローを題材にした新作ホラー映画『Brightburn』を鑑賞。監督は『インバージョン 転移』のデヴィッド・ヤロベスキー、製作は『スリザー』『スーパー!』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン。脚本はガンの弟のブライアン・ガンと従兄弟のマーク・ガン*1、音楽は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のティモシー・ウィリアムス。主演は『スリザー』のエリザベス・バンクス、共演にデイヴィッド・デンマン、ジェイソン・A・デューン、マット・ジョーンズ、メレディス・ハーグナーら*2

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 『Brightburn』があからさまに下敷きにしているのは『マン・オブ・スティール』である。ジェームズ・ガンが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第三弾クビ騒動*3がありマーベルのライバル会社DCの『スーサイド・スクワッド』に就任したことを結果的に考えると奇妙な縁だが、『Brightburn』が舞台にしているのはクラーク・ケントの出身地カンザスだ。とある牧場を経営しているブライヤー夫婦(エリザベス・バンクスとデイヴィッド・デンマン)は子宝に恵まれなかったが、ある日裏庭に未確認飛行物体が墜落し、その中に居た赤ん坊ブライアン(ジェイソン・A・デューン)を拾うところから物語は始まる。

 

 クラーク・ケントは学校で虐めに遭いながらも、善良な両親に育てられて立派に成長し、誰もが知るアメリカンウェイを守るスーパーマンとなった。しかし、もしクラーク・ケントが人並みに思春期を迎え、更に反抗期を迎えていたら?という、コミックや映画ならすっ飛ばしそうな点に着眼したのが『Brightburn』だ。

 

 言わずもがな、思春期とは複雑な時期だ。大人への階段の第一歩で、身体的に大きな変化が現れる分、精神的には不安定だ。初めて性も自覚するし、男の子だったら暇さえあれば-大真面目に言うが-オナニーに明け暮れるだろう。自我同一性を模索するのもこの時期で、頻繁に自分の世界に入り浸る。例として自分の場合を考えると…うん、目も当てられない。

 

 『Brightburn』の主人公ブライアン君も例外ではなく、周りの子どもたちと同じように学校には行くが、スケッチブックにはオリジナルヒーローの絵や自分が考案したマークを描き殴るという典型的な中二病を患い、学校でちょっと優しくしてくれた女の子を好きになってストーカーじみた行動をするし、12歳の誕生日を迎え着々と大人になっているというのに未だに子ども扱いする両親のことに苛立ちを隠せない。

 

 どこから見ても普通の子どもだが、ブライアン君は異星人であり、異星人であるが故のスーパーパワーを秘めていることが一つだけ周囲の子どもたちと大きく異なる点だ。しかし、両親の教育方針で自分の出自が隠されているブライアン君は、自らのアイデンティティに困惑して苦悩する。その苦悩が劇中で数々の惨劇を引き起こす。

 

 さて、巷で聞いた話だが、思春期に困惑するのは子供当人だけでなく、親もだそうだ。自分が反抗期だった頃の親は本当にムカついてしょうがなかったが、親の立場からすると終始何考えているか分からない思春期の子供は怖い(らしい)。思春期というウルトラ繊細な時期の子育てとその苦悩を描いているのもこの『Brightburn』で、しかも本作ではその子供はスーパーパワーを持っているのでいよいよ手の施しようがない。

 

 しかし、ほとんどの親は子供を愛している*4し、子供を避けたい訳ではない。親だって人間だし、不慣れで初めての子どもの扱いには困惑するもの*5。一方で、思春期の子どもの扱い方が分からず、相互にコミュニケーションが十分取れていないと、偶に夕方のワイドショーで取り上げられるような悲劇を招く。その切なさを数倍スケールアップしたのが『Brightburn』なのだ。子を持つ親は必見である。

 

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*1:しかしそれにしてもジェームズ・ガンの他二人の弟シェーンとマット・ガンも役者だし、ガン一家は多才な芸能一家ですな

*2:ジェームズ・ガン印の作品なのにあの人がいない!と思ったら、ちゃっかり出てくるのでご安心を!

*3:しかし、ジェームズ・ガンは結局『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第三弾に帰ってくることなった。万歳!

*4:もちろん、「全ての」親が、とは言いません

*5:僕の父なんかこの間久しぶりに会ったらはっきりと「長男は実験台」って言っていた。全く……。