『マッドマックス/怒りのデス・ロード』と編集

  • 今日は新宿ピカデリーの爆音上映で『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を観てきました。何回観ても言わずもがな相変わらず最高なんですけど、僕は人生この先一体後何回『マッドマックス/怒りのデス・ロード(以下MMFR)』を鑑賞して感想を書くのか分かりません。V8!V8!V8!

     

  • 正直毎回最高だった以外の感想はなく、もうそれでいいんじゃないかって気がしますが、まあせっかく今日も記事にするなら今まであまり書いてない事を書きますと編集も最高ですね。『MMFR』の編集を担当したのはマーガレット・シクセルというで、シクセルは『MMFR』で第88回アカデミー賞編集賞を受賞しています。ちなみにシクセルはジョージ・ミラー監督の実の妻でもあり、『ベイブ 都会へ行く』『ハッピーフィート』などの作品を手が掛けています。
    ベイブ都会へ行く (吹替版)

    ベイブ都会へ行く (吹替版)

     
    ハッピー フィート (字幕版)

    ハッピー フィート (字幕版)

     

     

  • 全編アクションで構成されている『MMFR』はそのスピード感を高める為に、随所で様々な工夫が見られます。例えば町山智浩氏が指摘しているように『MMFR』はコマ落としという技法が使われています。冒頭でマックスがウォーボーイズから逃れる為にシタデル内を疾走するシーンでがカクカクして見えるのはコマ落としの為です。



  • あと僕がいつも観ていて感嘆させられるのはとてもスムーズなジャンプカットです。映画史に残るジャンプカットと言えば『2001年宇宙の旅』の超有名なアレ*1ですが、ジャンプカットは前後のアクションの繋がりが飛ぶので、こう言う意表を突いた演出以外では不自然に思えます。昨今のジャンプカットを多用するYouTuberにイライラするのも生理的にムカつくからですが、『MMFR』のジャンプカットは不自然に見えるどころかアクションを円滑かつ素早く見せるのに効果を発揮しています。一例として、誰もがテンション上がるドーフウォーリアーがドラムを叩くシーンを観てもらえればジャンプカットの役割が分かりやすいかと思います。(下記動画の0:37〜あたりから)



  • 『MMFR』は複雑で壮大なカーアクションを存分なく押さえる為に、常時20台ものカメラが回されていました。ナミビアで撮られた素材は毎日シクセルがいるシドニーの編集スタジオに送られたのですが、毎日10〜20時間ほどの素材が送られました。主要撮影が終わった頃、合計で470時間もの素材がシクセルの手元にありましたが、全てに目を通すのに3ヶ月かかったと言います。シクセルと彼女の編集チームは1日10時間、週6日働きましたが、最終的に2時間の上映時間に収めるのに2年かかりました。主要撮影が2012年に開始され年内に終わったにも拘らず、公開が2015年になったのはこの膨大な編集作業も一因です。
  • 完成した『MMFR』は2700以上ものカットで構成されています。ちなみに、通常の映画のカット数は1250カットくらいなので、『MMFR』は倍以上のカットで構成されていることになります。単純計算で、1カットにつき平均約2秒ほどです。確かに『ボーン・スプレマシー』以降のアクション映画の流行はドキュメンタリー的にわざと大きく手ブレを加えた撮影と、極端に短いカット割りになってきていますが、凡百の『ボーン〜』フォロワー映画はガチャガチャした手法の扱いに失敗して何が何だか分からない内に終わってしまうアクションがほとんどです。
    ボーン・スプレマシー (字幕版)
     

     

  • しかし、『MMFR』は1カットにつき約2秒と言うとても短い編集ながら何が起きているかとても分かりやすく、混乱することはほとんどありません。その理由は編集と連動した撮影にあり、ジョージ・ミラーは現場で常に「人物の鼻をセンターに!」「銃をセンターに!」とモニター越しのトランシーバーで撮影監督のジョン・シールに口酸っぱく毎日指示を出していたそうですが、『MMFR』の画面上重要な要素は常に画面構成のど真ん中に配置されています。撮影中から短い編集テンポのことを考えていたミラーは、このセンターフレーミングこそ観客を置いてけぼりにしない手法だと考えていたのでしょう。その目論見は大正解でした。もちろん、この撮影がシクセルが編集作業を行う上で大きな助けになったことも言うまでもありません。



  • なお、ミラーがシクセルを編集に起用とした理由は「彼女がこれまでにアクション映画を編集したことが無かったから」と語っています。誰も観たことが無いアクション映画を作り上げたかったからこその起用でしたが、ミラーのビジョンは見事シクセルの編集によって再現されました。ちなみに、ハリウッドの優秀な編集者には女性が多いのですが、その歴史を辿ると興味深く、ハリウッド創世記には編集者はほとんど女性が雇われていました。
  • 理由としてフィルムの編集作業とミシンを縫う作業が似ていたので、女性が適役だと思われていたそうです。プロダクション内での編集の重要度が増すと編集室から女性が追いやられ、男性が仕事を奪ってしまいましたが、今日でも男性に負けじと業績を残す女性は数多くいます。スコセッシなんかは50年近く自作品の編集はほとんどセルマ・スクーンメイカーに任せていますし、『スター・ウォーズ/新たなる希望』でジョン・ジンプソンの編集が気に食わなかったジョージ・ルーカスは当時の奥さんであったマーシア・ルーカスを起用し、伝説のヤヴィンの戦いの素晴らしい編集が生まれました。

     

  • 最後の方は話が逸れましたが、爆音だろうが何だろうがとにかく『MMFR』は何度観ても最高でした。あ、ただ今回日本公開版を初めて観ましたが、エンドクレジットで無理やりMAN WITH A MISSIONのオリジナルタイアップ曲が流れて絶句しました。それも今日は編集の話ばかりしましたが、サントラへの組み込み方も超雑な編集で、これで一体誰が得したっつうんだよ。マジで興が削がれましたが、万が一これを読んでる配給会社だとか広告代理店の偉い人がいましたら、テキトーな思いつきのタイアップはこのように後世まで残るのでよく考えてから企画してくださいね。

 

 

以下参考文献

www.provideocoalition.com

vashivisuals.com

kottke.org

*1:

2001年宇宙の旅 (字幕版)

2001年宇宙の旅 (字幕版)