『サウスパーク』S23E2「Band in China」感想

 今回の『サウスパーク』は、日本でもニュースとなり話題となった中国を強烈に皮肉った回。ちなみにタイトルは「中国のバンド(Band in China)」と「中国で禁止(Banned in China)」を掛けている。

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 「いいアイディアを思いついた!家族会議だ!」と騒ぐランディの掛け声でリビングに集められたマーシュ一家。「昔の家に戻るの?」と淡い期待を抱くスタンだったが、そんなわけもなく、「中国にテグリディー大麻を売ろう!リサーチしてみたんだが、中国にはたくさん人がいるんだろう?2%の人たちだけにでも大麻を売ることができれば、何百万ドルも金を稼ぐことができるぞ!だから俺はこのアイディアをパクられる前に、明日から営業で中国へ飛ぶ!」呆れる家族を放ってランディは中国へ向かう。

 

 さあ、人々が集まるサウスパーク秋フェスでスタンはケニー、バターズ、ジミーと「クリムゾン・ドーン」というバンドを組んでいた。可愛い4人組の演奏を見守る町民たちだったが、披露されたのはなんとデスメタル*1父親と農場への怒りをありったけデスボイスの乗っけるスタンに呆気にとられる町民たちをよそに、音楽プロデューサーが4人の才能を見出す。

 

 さて、中国へ向かったランディは飛行機内でビジネスマンと乗り合わせる。ウキウキのランディが「僕はちょっとしたビジネスをしに中国へ行くんですよ!あなたは何しに中国へ?」と聞くと、ぶっきらぼうに「衣料品会社で働いてるんだけど、中国の市場を開拓しようと思っててね」と答えるビジネスマン。「なんだって!?ファック・ユー、俺はこのアイディアを3日前くらいに思いついたんだぞ!」しかし、ランディが振り返るとGoogle社員と、ジェームズ・ハーデン、レブロン・ジェームズ、ウィル・バートンといったNBAプレイヤー、そしてアベンジャーズの面々やカイロ・レン、白雪姫といったディズニーフランチャイズのキャラクターが全員中国とのビジネスの為に乗り合わせる。「どいつもこいとも俺のアイディアをパクりやがって!」と憤るランディ。

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 サウスパークに話を戻すと、音楽プロデューサーはスタンたちに近寄り、『ボヘミアン・ラプソディー』や『ロケットマン』などのトレンドに則ってクリムゾン・ドーンの伝記映画の製作に乗り出し、金儲けを提案する。スタンたちは喜んで皆で脚本会議でアイディアを出し合う。「ジミーがドラムをやって、バターズがギターをやって、ケニーがジョン・レノンダライ・ラマの映像をYouTubeで見ながらベースを練習したんだ」とスタンがバンド結成の裏側を話すと、「あ、すまんが、ダライ・ラマの要素は映画に出せないんだ。中国政府の検閲に引っかかるからね。何百億ドルも稼ぐには中国の観客が必要だろ!」とプロデューサーに説得される。「もっと幼い頃のエピソードはないのかね?」「僕は小さい頃『くまのプーさん』が好きだったよ!」とバターズが答えると、「くまのプーさん』はもってのほかだ!習近平に似てるとインターネットで話題になってから違法になったからね。中国のケツを舐めたかったら自由を手放す必要があるんだ!」こんな調子でスタンたちの思い描いていた理想がどんどん遠ざかって行く。

 

 一方、中国に渡ったランディだったが、大麻をありったけ詰め込んだスーツケースが当然税関でひっかかかる。「こ、これは何かね!?」「ああ、これはウィードですよ、マ・リ・ファ・ナ! 这是我的テグリディー・ウィード!」ニッコニコに馬鹿正直に答えたランディは当然その場で拘束され、収容所送りとなりガンプラやバービー人形作ったり強制労働に従事する羽目に。牢屋の中で塞ぎ込んでいると、隣の房から声がする。「君は新人かぁい?ハチミツ持ってなぁい?」くまのプーさんピグレットであった。「君らも囚人なのか?」とランディが聞くと「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくたちはプーが中国の国家主席に似てるから違法になってしまったんだ」とピグレット。「なんて狂った場所なんだ!」果たしてランディはこの地獄から生き延びることができるのか……?

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 冒頭にも記したように、中国政府の検閲と、それに迎合するアメリカのエンタメ業界を相当コケにした回。ちょうど同じ時期、NBAヒューストン・ロケッツGMダリル・モーリーが「自由のために戦え、香港を支持する」とツイートしたところ、国営中国中央テレビがロケッツの試合放映中止を発表し、複数の中国企業がロケッツのスポンサー提携を打ち切る事態まで発展。ロケッツは中国でのNBA人気に火をつけたヤオ・ミンの古巣だったこともあり、この打撃は強く経済的損失は約60億円までに上ったため、ロケッツの人気選手ジェームズ・ハーデンが謝罪、NBAコミッショナーのアダム・シルバーも中国とダリル・モーリー双方を擁護する曖昧な態度を取ったため、中国からもNBAファンからも批判が殺到してしまった。

 

 当然、このエピソードも代償としてタイトル通り中国政府は『サウスパーク』のコンテンツをインターネット上から排除・禁止することを決めた。そもそも僕は『サウスパーク』が中国で観れること自体驚いたが、それに対するトレイ・パーカーとマット・ストーンの"謝罪文"がとにかく最高。

NBAみたいに、僕たちも心から中国の検閲を受け入れます。僕たちも自由や民主主義よりもお金が大好きだからね。習近平くまのプーさんに全く似てません。この水曜日22:00放送の300回放送記念のエピソードも是非観てください!中国共産党に繁栄あれ!この秋のトウモロコシの収穫が実りあるものでありますように!これで仲直りでいい、中国さん?

 

 これまでトレイとマットはトム・クルーズサイエントロジー金正日サダム・フセインイスラム過激派も全員中指立てて怒らせてきたわけだから、今更中国政府を怒らせたところで屁の河童な訳だ。そもそもここで彼らが1999年に製作した『サウスパーク/無修正映画版』を思い出して欲しい。過激で下品な表現ばかりが話題に上がる映画だが、その実とても真摯に表現の自由について考え抜かれ、そして子供たちのその自由を守る戦いを感動的にすら描いていた作品だった。 

 

 『サウスパーク』が作られてきたこの22年、作風は少し変わってもこの「表現の自由」に対するスタンスは全く変わってないのだ。そんな「表現の自由」を標榜して過激な表現で戦ってきたトレイとマットが、資本主義の原理に則って中国市場に忖度して作られる表現の緩いハリウッド大作にムカついてしょうがないのはすごく理解できるし共感できる。

 

 あと、資本主義ついでにひょっとしたら著作権的な意味で中国よりも恐ろしいディズニーも(また)バカにしているのが笑える。途中ディズニー傘下のIPキャラクターたちが集合する部屋で、お得意様の中国の機嫌を損ねるランディに激怒したミッキーが「ハハッ、お前は一体どこのもんだ!?ピクサーか!?」と聞くとランディが「サウスパークです」と答えるもんだから、ミッキーが部下に「サウスパークってなんだ、俺買ったっけ?ハハッ!」って確認すると、「いや、まだです」と返答がある。この短いやり取りにここ数年のディズニーのモノポリーゲームへの批判がびっしり詰まってて最高なのだが、いや本当にあいつら独占禁止法で規制しろよ!

*1:ちなみに、この楽曲は実在のデスメタルバンドDeath Declineの「Usless Sacrifyse」とDying Fytusの「Second Skin」を元ネタとしている。