コリアン・ハイランド/『パラサイト 半地下の住人』★★★

 今年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の住人』を鑑賞。監督・脚本は『殺人の追憶』『オクジャ/okja』のポン・ジュノ。『タクシー運転手/約束は海を越えて』のソン・ガンホ主演。

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 高校の地理だったか世界史の授業だったか、「ホワイト・ハイランド」という言葉を習った。ケニアがイギリスの植民地だった時代、冷涼な高原地帯に白人たちの入植が進んで白人の居住区となった。もちろん、高級住宅街が形成されたことは言うまでもなく、首都ナイロビのベースとなった。

 

 世界中どこでもそうだが、富裕層は高所に住むことを好む。東京のタワーマンションだってそうだし、ハリウッドでもセレブはビバリーヒルズの丘の頂上に住んでいる。ギリシア神話だって神々はオリンポス山に住んでいて、日本神話の神々が住む場所は高天原だ。地上で必死に働く人間どものことはつゆしらず、高いところで優雅に暮らしている。

 

 一方で、低地には貧困層が暮らしていることが多い。土地の高低差はそのまま貧富の格差を表しており、今年公開されたジョーダン・ピールの『アス』は金持ち一家を貧しい地底人間が襲いにくる話であった。『パラサイト』では格差社会をさらに映画的に見せている。

 

 携帯代も払えないキム一家は地下の部屋に暮らしている。彼らの住む貧困街自体が丘の麓に位置しているので、文字通りキム一家は最下層だ。ひょんなことから長男のギウが金持ちのパク家の長女の英語家庭教師となったことを皮切りに、キム一家全員がパク家の豪邸に一人、また一人と住みついていく。このパク家の豪華な家は丘の上にあり、玄関すら階段を登らないと入れない。

 

 僕が本作で本当に惚れ惚れとしたのは「雨」の使い方だ。キム一家はパク家の豪邸に「寄生」していくことで、金持ちが見ている風景を目撃する。庭に降る趣深い雨を楽しむキム一家だが、しかし同じ雨は貧困層の生活を脅かす。キム一家が栄光から転落する瞬間が分かる象徴的なショットがあるのだが、この雨は滝のように階段を流れ落ちる。言葉ではなく画で全てを説明してみせる、とても詩的で映画的な表現だ。これは例の一つで、『パラサイト』は全てショットの構図・美術・設定に重層的に意味が含まれていて、完璧なまでに美しい調和を見せている。

 

 僕はポン・ジュノのファンであったけれど、『スノーピアサー』『オクジャ/okja』にはイマイチノレなかったクチで、もうポン・ジュノの全盛期は過ぎてしまったか、なんて失礼な事も考えていた。そんな杞憂を吹っ飛ばすくらい『パラサイト』はポン・ジュノのキャリアハイの大傑作だった。しかし考えてみると、この3本はずっと格差社会を描いている作品で、ポン・ジュノの積み重ねがこの一作で昇華したような印象を受けた。必見。


『パラサイト 半地下の家族』予告編

母なる証明(字幕版)

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