2019年コメディ映画ベストテン〜そしてテン年代コメディとは〜

 さて、今年も残すところ日本時間で後2日!当ブログ大晦日はその年のベストテンを発表する日ですが、本日は毎年恒例の前夜祭、コメディ映画ベストテンを決めていきたいと思います!

 

 毎回言ってますが、あくまで「コメディ映画」ベストテンなのがミソです。

 

【2019年コメディ映画ベストテン】

  1. Goodboys
  2. Booksmart
  3. ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋
  4. シャザム!
  5. ゾンビランド:ダブルタップ
  6. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  7. パラサイト 半地下の住人
  8. 翔んで埼玉!
  9. ダンス・ウィズ・ミー
  10. ジョジョ・ラビット

 

【解説】

 何回も書いてますけど、①と②は僕のオールタイムベストコメディである『スーパーバッド/童貞ウォーズ』の子供達なので本当は分けて考えたくすらないんですけど、この「コメディ」ベストテンでは笑いの「量」がより多かった方をベストワンと致しました。それでも僅差なんですけどね。

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 ①のプロデューサーはセス・ローゲンエヴァン・ゴールドバーグですが、そのコンビがプロデュースしたのが③です。なので、もう実質トップ3全てセス・ローゲンだと思ってください*1。非常に脚本がうまく、現代の政治問題が盛り込まれていて尚且つ保守批判に留まらず、「共和党員」や「クリスチャン」といった属性だけで人を判断してしまうリベラル勢の本末転倒な問題点もあり、その「属性で人を判断してしまう」ことが主人公の恋愛におけるネガティビティも表現していたのはとてもスマートでした*2。ラブコメとしてもキュート!

「long shot」の画像検索結果

 

 ④は複雑になり過ぎた現代のスーパーヒーロー映画というジャンルを脱構築した映画なので、結果的に優れたコメディになるのは当たり前のことです。正しい『スーパーマンIII』と言いますか。それを日本のふざけたことにコメディを勘違いして吹き替え版では福d...(長くなるので強制終了) 

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 ⑤は「ダブルタップ(二度撃ち)」ということで、ゾンビの量2倍、スケール2倍、おバカさ2倍の全てが倍々な続編のお手本のような映画でした。10年の間にビッグになったメインキャストがそのまま戻って来ているのが嬉しいですが、新キャラのマディソンちゃんもとにかく最高!

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 僕が今年映画館で観た映画の中でも、劇場での笑いの瞬間風速は⑥のクライマックスが一番大きかったですね。笑い過ぎて多幸感が高まり、号泣してしまいましたもん。リック・ダルトンとクリフ・ブースにまた会いたい。

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 ⑦の中盤のシーンでは手に汗握りながら爆笑。緊張と緩和ではなく、緊張で笑わせる。ポン・ジュノスピルバーグって比べられがちですけど、ユーモアセンスは大変似通っていると思います。 


 

 ⑧は邦画の優れたカリカチュアコメディとしてとても面白かったです。ステレオタイプをバカにすることで差別問題を語る手腕はファレリー兄弟やトレイ・パーカー&マッド・ストーンといったブラックコメディの名手を想起させます。また、演じた二階堂ふみが女性とはいえ、男性キャラ同士の恋愛にストーリー上誰にもツッコミを入れさせず、自然なものとして描いているのが素晴らしかったです。コメディ映画とは映画史において常に急進的なジャンルであり続けて来たので、そのジャンルに恥じない映画だと思います。

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 ⑨は正直映画としては欠点だらけだと思います。テーマの割にミュージカル映画としても物足りないし。でも、この映画の主人公が選んだ選択は今年一番僕の胸に突き刺さりました。あと、コメディアン(やしろ優)の活かし方が邦画としては素晴らしい!「コメディ」映画なんでね、こうでないと。

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 ⑩はよく言われているようにサタイア・コメディってだけじゃなく、ビルドゥングスロマンとしても大変優れています。ただ、タイカ・ワイティティ、ちょっと真面目の方に寄り過ぎたな、という小さな不満は告白しておきます。

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 僕は去年『ブロッカーズ』という映画を観て驚いた記憶があります。これも『スーパーバッド』的な「青春最後の一夜」モノ映画でしたが、高校最後の夜に処女を捨てようと奔走するメインの女子高生3人組の内一人はインド系、一人はレズビアンとして登場しました。しかし、その設定や属性をわざわざ説明する野暮で余計なセリフや演出は一切無かったのです。彼女の属性はどこにでもいる「当たり前」の存在として「自然」に描かれていました。『スカイウォーカーの夜明け』でわざわざ女性同士のキスをこれみよがしに強調して写していたのとは真逆の姿勢です。

 

 また、2015年の映画ですが、『ウェディング・フィーバー ゲスな男女のハワイ旅行』という映画では、主人公(男性)の恋のライバルがレズビアンのイトコでしたが、ここでも「レズビアン」ということをわざわざ強調したりせず、「人間として」イトコが強力な恋敵であることを描いていて大変感銘を受けました。2010年代のコメディ映画はジェンダーレスだったり、アンチレイシズムだったり、徹底的にリベラル的なテーマを擁していたと思います。僕が鑑賞した限り、どんなに「一般的に」下らないと評されたコメディ映画でもリベラル性を欠かしませんでした。

 

 というか、そもそも論ですが、映画の黎明期からジャンルとしてコメディが成立しており、コメディは映画史に欠かせないジャンルなのは間違いないです。そして先ほども書きましたが、その当時からコメディは当時の社会問題や差別問題に関して一石を投じており、常に革新的なジャンルでありました。SFやファンタジー映画が特撮など映像業界の技術面を開拓して来たと言えるなら、コメディ映画は映像業界の思想面を切り開いて来たジャンルだと思います。その昔、絶対王政時代、権力に唯一逆らえたのが道化師たちだったように。

 

 2020年代も、素晴らしいコメディ映画たちに出会いますように!

21世紀アメリカの喜劇人 (SPACE SHOWER BOOks)

21世紀アメリカの喜劇人 (SPACE SHOWER BOOks)

 

 

*1:②にセス・ローゲンは一切関わっていませんが、主演の一人が『スーパーバッド』のジョナ・ヒルの妹ビーニー・フェルドスタイン、って所に不思議な縁を感じます。なお、②のプロデューサーはアダム・マッケイ&ウィル・フェレルコンビですが、セス・ローゲンと関係の深いフラット・パックの一員なのも運命の悪戯でしょうか。

*2:名シーン。

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