子連れ賞金稼ぎ/『マンダロリアン』シーズン1感想

  • ご存知の通り、世間を賑わせているディズニー+配信作。僕はどうせ来週までには日本帰るし、今更入ったところでな〜と躊躇していたが、フリートライアル期間が1週間(短えよ!)、そして『マンダロリアン』も全エピソード配信されたので、この機会にディズニー+に仮入会してみる事にした。

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  • そして言わずもがな、僕はディズニーがルーカスフィルムを買収して以後の『スター・ウォーズ』は大嫌いで、結局ルーカスが築き上げたものを再利用しているだけの映画ばかり作っていて辟易していて、この『マンダロリアン』だってさしたる期待はしていなかった。が、これが中々どうして面白くて一気見してしまった。
  • マンダロリアンとは『スター・ウォーズ』世界に登場する戦闘民族で、本編に登場するボバ・フェットやジャンゴ・フェットと同様のアーマーで身を包んでいる。その素顔を人前で見せることは禁じられているハードボイルドな民族なのだ。
  • 『マンダロリアン』の主人公は賞金稼ぎのとある「マンダロリアン」である。ギルド内でも名を馳せる活躍をしていたが、ある日帝国軍の残党(なんとヴェルナー・ヘルツォーク!)から「50歳のとある獲物を生け捕りにしてほしい」と依頼を受ける。第1話のネタバレなので薄字で伏せるが、その獲物とは[ネットを騒がせたベイビー・ヨーダ]だったのだ!そしてその獲物の不思議な力に命を救われたマンダロリアンは、「獲物」を残党に引き渡すことを拒否して冒険の旅に出る、というのが大まかな粗筋。『スター・ウォーズ』が黒澤明の時代劇から影響を受けたのは有名な話だが、『マンダロリアン』は『子連れ狼』なのである!
    子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる

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    • 発売日: 2015/07/01
    • メディア: Prime Video
     

     

  • ジェダイの帰還』の5年後という時代設定が見事で、帝国軍はあたかも敗戦後のナチスドイツの残党のように影に生きることを余儀なくされる。故に敵=帝国軍とは限らず、シークエルが脱することができなかった善悪の対立構造から自由に逃れられている
  • この「自由」さこそが『マンダロリアン』を面白くしており、ショーランナーのジョン・ファヴローが全8話を流れるストーリーアークをコントロールしているものの、各話の独立性は高い。第4話では思いっきり『七人の侍』をやっており*1、第6話はケイパーものだし、第8話で緩い会話ギャグが妙に多いなと思っていたら監督がタイカ・ワイティティだったりする。
  • ただし、エンリオ・モリコーネ調の音楽からも分かる通り、全体を貫くトーンは『新たなる希望』も参考にしていた西部劇だ。本編の『スター・ウォーズ』がライトセーバーによる剣戟や宇宙船によるドッグファイトに焦点を当てていた代わりに、『マンダロリアン』は容赦ない銃撃戦や乾いたバイオレンス、悪党どもの騙し合いをメインフィーチャーなので大変フレッシュだ。
  • シークエル三部作の問題点は、時系列こそ先に進んでいたのに、結局はジェダイとシスの対立という前6部作で既に完結していたことをぶり返していただけだったことだ。これはアンソロジーシリーズも同じで、『ローグ・ワン』は『新たなる希望』のオープニングクロールの一文を映画化したに過ぎなかった*2し、『ハン・ソロ』は既視感溢れるビジュアルでハン・ソロの成り立ちを答え合わせしているだけだった。つまりどれも『スター・ウォーズ』世界を拡張しておらず、ファンが描く同人誌の域に収まってしまっているのだ。
  • 対して『マンダロリアン』には我々が知るキャラクターは一人も出てこない。その代わり、我々が知っている銀河系を構成している社会やシステムの描写に注力している。例えば、帝国軍崩壊後信用を失った帝国クレジットなどの通貨事情が分かったり、元反乱軍兵士や元帝国兵が戦争後にどういった生活をしているのかが見えたり、「Imps(帝国)」や「Twi(トワイレック)」などスラングが飛び交ったり、農村が出て来たり、グンガン人の悪意ある訛りモノマネをするキャラも出て来たりする*3こういった些細なディテールによりこの銀河系の世界観への好奇心が刺激され、『スター・ウォーズ』という物語を展開する可能性が広がって行くのだ。そしてディテール描写はルーカスが前6部作でこだわっていた部分でもあり、数々のEU作品や同人映画などが作られたのはそれ故だろう。
  • あと、特筆すべきなのは主演のマンダロリアンが可愛い。ネットで大人気のあいつじゃなくて、マンダロリアンが可愛い。ここ大事。名を馳せている割にはすぐボコボコにされたり、簡単に窮地に陥ったり、素直だったり、親バカだったり、メチャクチャ可愛い。なお、マンダロリアンの設定上、演じるペドロ・パスカルの顔はほとんど出てこないが、マスク越しで感情が手に取るように分かるのも素晴らしい演技力。
  • ということで『マンダロリアン』はタイトルに『スター・ウォーズ』を冠していない分よりフラットな気持ちで楽しめたドラマシリーズであった。今後製作されるというオビ=ワン・ケノービのスピンオフもこういった路線でやってくれるとありがたいのだが…。ただ、『シスの復讐』と『新たなる希望』の間、ただひたすらルークを遠くから見守ってた隠遁したジジイのドラマで面白いものなのか作れるかは甚だ疑問である。

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*1:ただ、個人的には『クローン・ウォーズ』でも全く同じ『七人の侍』オマージュがあったので、もう少し工夫してくれても良かった

*2:ただ僕は『ローグ・ワン』は好きですよ

*3:欧米ではマイノリティのアクセントをモノマネすることは人種差別と捉えられる