マイケル・ベイは実は稀代の芸術監督!?

 最近、ようやく『ザ・ルーム』関連の仕事に余裕が出来てきて、映画館に行くリハビリとして『バッドボーイズ フォー:ライフ』を観に行きたいんですが、その前に観たことないシリーズ前2作をBDとNetflixでそれぞれ観ました。

 

 「マイケル・ベイ」という名前には良かれ悪かれ、大規模予算のハリウッド映画へのステレオタイプ的な側面を押し付けられていると思います。「マイケル・ベイ」とい聞けば、映画ファンなら「爆発」「カーアクション」「大味」「雑」みたいな単語をついつい連想しがちで、酷い時には「マイケル・ベイ」関連作というだけで嘲笑の対象にして良いとされる風潮すら一部にはあります。

 

 全てをミーム化するインターネット社会も手伝い、「マイケル・ベイ」は単なる人名を超え、概念とまで化しました。そんなマイケル・ベイの映画は最早、ある種メタ的な視点抜きで観るのは困難になってきているなぁ、なんてことを『バッドボーイズ』シリーズを2作品立て続けに見て思いました。

 

 『バッドボーイズ』1作目はマイケル・ベイのデビュー作ということもあり、所謂「ベイっぽさ」は後年の作品と比べて抑え気味ではあるものの、それでもトレードマークの回転カメラ、圧倒的物量のカーチェイス、爆発、下品なユーモアと、「ベイっぽさ」が確かに随所に見られる作品です。月並みな言葉ですが、「デビュー作には監督の全てがつまっている」と言われるように、『バッドボーイズ』は「マイケル・ベイ」という概念の原石とも言うべき作品でした。(そして加工されていない分、原石が一番スッキリしている)

 

 続く『バッドボーイズ2バッド』を観た時に、ルックスが一気に僕が知っている「マイケル・ベイ」作品に近づいたので、驚きと妙な安心感を覚えました。『バッドボーイズ』と『バッドボーイズ2バッド』の間には『ザ・ロック』『アルマゲドン』『パール・ハーバー』の3作品があり、この3作品を不勉強ながら僕が観ていない*1ということも合間って、『バッドボーイズ』から『2』への進化はあまりにも急に感じとれて面白かったです。仮に『バッドボーイズ2バッド』に急に変形するロボットを入れたとしても、全く違和感を感じないと思います。

 

 つまり、マイケル・ベイ作品はあまりにも特徴的で、一目見ただけでマイケル・ベイの作品であることが分かります。同じ『トランスフォーマー』シリーズでも、『バンブルビー』が明らかに作風が異なることは素人目に見ても判別できると思います。これって考えてみるとかなり凄いことで、例えばピカソゴッホの作品を一目見ただけで彼らの作品だと分かることと、同列に並べていいほど芸術的だと言えます。言わずもがな、映画も芸術なので、何を今更、と思われる人もいるかもしれませんが、ちょっと立ち止まって考えてみてください。

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 プロデューサー主導で作られるブロックバスター映画が映画業界の覇権を握って長いですが、その代表と言えるMCUを例にとって考えると、1作品ごとのルックスを分別する事は難しいんじゃないかと思います。当然、各作品で雇っている監督のカラーが少なからず出ている事は間違い無いのですし、僕はMCUのファンなので貶す意図もありません。ただ、それ以上にケヴィン・ファイギという圧倒的パワーを持つプロデューサーが、「マーベル」というブランドから逸脱しないように、MCUの各作品のルックスをコントロールしています。これはMCUに限らず、PIXARアニメやルーカスが抜けた後の『スター・ウォーズ*2や『ワイルド・スピード』シリーズなど、世のほとんどのハリウッド大作にも同様のことが言えます。

 

 ところが、マイケル・ベイはベイ自身が強力なブランドイメージを作り上げています。通常、ハリウッド映画における最終的な編集権はプロデューサーや映画会社が持つものですが、マイケル・ベイは若くして成功したお陰か、業界でも数少ないファイナルカット権を有するディレクターであることもその一因であり、製作現場におけるマイケル・ベイのクリエイティブ・コントロール力はプロデューサーや製作会社をも超える絶大なものです。そのようにベイ自身によってコントロールされた作品達には、ベイが意図した通りのルックスがハッキリと刻印されています。マイケル・ベイはヒットメイカーであるが故に工業製品的と揶揄されることがありますが、実際彼の作品の製作工程とルックスはその批判とは真逆なものです。

 

 よって、本来マイケル・ベイコーエン兄弟ウェス・アンダーソンといった、作風がハッキリしている映画監督たちと同じ文脈で語られるべきなのに、なぜか不当にバカにされ続けています。なんて偉そうなことを書きつつも、僕もちょっと前までマイケル・ベイの映画は確かになんか嫌な態度で臨んでいたのは事実なので、これからは襟を正して真剣に観ていきたいと、『バッドボーイズ2バッド』に圧倒されながら思ったのでありました。

*1:本来、こうした作家論を書く際には絶対に観るべきだと思います。すみません、僕も今日再評価に転じる前にちゃんと観ておけば良かったです。近いうちに必ず見ようと思ってます。

*2:今ここで、ディズニーが所有しているフランチャイズが3つも出てきてしまったのは、ディズニーという親会社がブランドイメージを大事にしていることに密接に関連していると思います