エイズの原因は「人と猿がセックスしたから」ではない。

 未だ僕が『サウスパーク』「Pandemic Special」の1シーンを勝手に翻訳したツイートがバズり続けており、Twitterの通知欄は埋め尽くされるわ、スマホはすぐ死ぬわ、クソリプは飛んでくるわで大変なんですけど、中でも何度も同じデマが飛んでくるのが気になりました。

 

 僕が字幕をつけた箇所は、新型コロナウイルスの原因はランディがコウモリを犯したから*1、という現在進行形で世界を襲っているパンデミックの馬鹿馬鹿しい起源を描いたシーンですが、これに対して「エイズと一緒やん」というツッコミが散見されたのです。つまり、「人間とサルが性交したことでHIVウイルスが生まれた」という説です。

 

 僕も留学していた時に生物学を取っていた生徒が嬉々としてこの説を唱えているのを聞いたことがありますが、これは立派なデマです。確かに、 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はSIV(サル免疫不全ウイルス)が突然変異をして生まれたウイルスでした。 HIVに関する研究が進むにつれ、その起源がアフリカ中部にあると突き止められましたが、こうした事実が流布されるにつれ、「人間がチンパンジーを犯してHIVにかかったのが始まり」といった噂が興味本位を伴った笑い話として広がりました。

 

 が、そもそも野生のチンパンジーの気性の荒さを考えれば、人がチンパンジーと交尾をしたとはとても考えづらく、欧米列強の植民地化が進むうちにアフリカ中部の開発が行われ、銃器類が持ち込まれてチンパンジーが狩猟・食用の対象となり、その加工の際に猿の血液を通して人間に感染した、という説が一般的です。こうした事はちょっと調べればすぐ出てくる事です。

https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1409_03.pdf

 

 どうして僕がわざわざこの話を書こうと思ったかというと、それこそ新型コロナウイルスが世にで始めた時に広まった酷いデマと酷似していたからです。新型コロナウイルスの原因がコウモリにある、という研究が世に出た時、世界中で中国人やアジア人は「コウモリを食べる野蛮な民族」として差別の対象になりました。実際にはコウモリがヒトに直接感染したわけではなく、中間宿主(センザンコウ)を介して人間に広まったのに。

 

 『サウスパーク』の場合は、もちろんトレイとマットはこうしたバカバカしいコロナ起源説をパロディとしてランディの獣姦描写に重ねています。この意図はランディが直前のシーンで「中国から全ての元凶が始まったと言われたって驚かないね」と呑気にわざわざ語らせていることからも明らかです。賢い『サウスパーク』のクリエイター達はあくまで「人間のバカバカしさ」を笑いの対象にしているわけであって、「人間が猿とセックスしてエイズが生まれた」というホラ話として消費するのはあまり気持ちのいいことではありませんので、今回記事を書こうと思いました。

エイズの起源

エイズの起源

 

 

 

taiyaki.hatenadiary.com

 

*1:実際には、劇中ではコウモリが原因ではなく、センザンコウと人間のDNAが何らかの理由でかけ合わさったから、ということがわかるのですが、ランディはしっかりとセンザンコウもファックしていた、というオチがつきます