自己言及的な作りにびっくり びっくり DON DON!!/『魔女見習いをさがして』★★☆

 東映アニメーション作品『おジャ魔女どれみ』20周年記念作品である『魔女見習いをさがして』を鑑賞。企画の関弘美、監督の佐藤純一を中心に、テレビ放映時のスタッフ&キャストが集結。新規キャラクターの声の出演は森川葵松井玲奈百田夏菜子らが手がけ、テレビ版から千葉千恵巳秋谷智子松岡由貴宍戸留美、宮原永海、石毛佐和、長澤菜教らが再登板する。

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  『おジャ魔女どれみ』で強烈に印象に残っているエピソードがある。両親の離婚に伴い、大阪から転校してきたあいちゃんは父親と暮らしているが、ある日お父さんと大喧嘩をしてしまい、家を飛び出す。大好きなお母さんに逢いたいと願ったあいちゃんは、おジャ魔女たちと一緒に魔法で大阪へ向かうが、そこであいちゃんが目撃したのは、自分の知らない赤ん坊を抱える母親の姿だった。お母ちゃんに自分以外に大切な家族がいることを知ったあいちゃん*1はショックを受けるが、自分を探して遥々大阪までやってきた父親の姿を見て、改めてお父さんを大事に生きていこうと誓うのだった。

 

 『おジャ魔女どれみ』シリーズは1999年から2003年にかけて、日曜朝8:30に放映された「子ども向け」アニメであった。その直後に放送された『デジモンアドベンチャー』も複雑な家庭環境やコンプレックスを抱えた多くの子供たちが登場したが、そして僕たちの世代が日曜朝に東映アニメーションから学んだのは、「魔法ではどうにもならない残酷な現実に立ち向かう力」だった。優れた名作アニメで育った僕らは幸福な世代だったと思う。

 

 2010年代は80年代リバイバルが顕著だった。そのブームもひと段落して、次は90年代〜ゼロ年代初期が消費の対象とされた。筆頭は2017年に公開された『劇場版ポケットモンスター キミに決めた!』だったかと思うが、現在の子供達が見ているシリーズを無視して「無印世代」の観客を狙い撃ちにしたノスタルジーを喚起する映画は『デジモンアドベンチャー』も作られた。正直『魔女見習いをさがして』もその類の映画かと思いきや、更にその先を行くメタ的な映画で度肝を抜かされた。

 

 本作のメインキャラクターはお馴染みのどれみちゃん達ではなく、おジャ魔女どれみ』を見て育った20代の女性3人が主人公だ。それぞれミソジニスティックな職場環境や、教育実習先での発達障害の子供への接し方、お金をせびるヒモ彼氏との別れ方など、まさに「魔法ではどうにもならない現実」に直面して悩んでいる。そうした折に、子供時代に憧れた『おジャ魔女どれみ』の舞台となった土地を観光(聖地巡礼)した事をきっかけに親交を深め、それぞれの人生と向き合うことになる。

 

 衝撃的だったのは、単に3人が『おジャ魔女どれみ』を見て育ったという設定だからではなく、劇中彼女達が幾度となくいかに『おジャ魔女どれみ』が素晴らしい作品だったか、作品に勇気をもらえたかを熱く語っていたことだ。これって穿った見方をすれば、東映アニメーションが自分の作品を自我礼讃していると捉えられるし、かなりナルシスティックでイタい姿勢だと思われても仕方がない。

 

 が、実際に『おジャ魔女どれみ』という作品は当時の子供たちに計り知れない影響を与えた作品なので、この強気な姿勢が圧倒的に正しい。自分たちが日曜朝の子供達に果たした役割に自覚的だからこそ、ここまで自己言及的・自己検証的な作品が作れたのだ。また、劇中『おジャ魔女どれみ』のファンだった男子大学生も登場し、『おジャ魔女どれみ』が男子にも人気なコンテンツであったことまで自覚している東映アニメーションはつくづく恐ろしい。

 

 それでいて、「人生で壁に当たった時、それを解決するのは個性という魔法」というメッセージそのものは変わっていない。大人になると辛い出来事が多すぎて、子供の時に受容したエンターテイメントのことなんか忘れがちになるが、それを改めて思い出させてくれるのは素敵なことだ。

 

 ただ、最後に一つだけ、どうしても看過できない欠点を挙げるが、3人の女性を主人公にしておきながら、結局3人の恋愛模様(しかもヘテロセクシャル)をご丁寧にもわざわざ描写したのは非常に残念で、途中までとても感動していただけに大きな減点をせざるを得ない。特に『おジャ魔女どれみ』が当時のアニメとして如何に急進的だったかを考えると、現代的な女性像を描写できなかった*2ことは本当に無念でならない。

 

 しかし、そんな不満も「おジャ魔女カーニバル!!」で吹っ飛んでしまったけどね。これが魔法、ではなくてノスタルジーの力。どっきり どっきり DON DON!!

 

*1:ちなみに、後々に判明するが、実はこの赤ん坊はたまたま他人の子をお母さんがあやしていただけだった。

*2:ネタバレになるが、特に仕事のできる強い精神を持った女性が、結局男性の力を借りて問題を解決していたのは、このテーマに加えて20年代の作品としてちょっとどうかと思った