ウォーキング・ジャップ/『君と世界が終わる日に』第1話雑感

f:id:HKtaiyaki:20210118234326p:plain

  • 昨日、Twitterで『ウォーキング・デッド』がトレンドに入っていた。てっきりスピンオフの製作でも発表になったかと思えば、日テレとHuluが共同制作した和製ゾンビドラマ『君と世界が終わる日に』が放映されたので、比較として『ウォーキング・デッド』が出されたことでトレンドに上がったのだろう。正直、ツイッター上では賛否両論といった感想が並んでいたが、僕はHuluに入っていたし、興味が出たので配信が始まった第1話を観てみることにした。
  • 物語は神奈川県三浦半島の自動車整備工に勤める青年、間宮響(竹内涼真)が、同棲している恋人来美(中条あやみ)にプロポーズをしようと決めて出かけた日に、トンネル道の崩落事故に巻き込まれて4日間閉じ込められるシーンから始まる。命からがら久々にシャバの空気を吸えたと思ったら束の間、三浦半島はゾンビパンデミックに襲われていた!というのが主なあらすじだ。まあ、思いっきり『ウォーキング・デッド』な始まりですな!
  • Huluが出資しているだけあり、「お、気合が入っている!」と嬉しくなったのは、人っ子一人いないゴーストタウンや、渋滞のまま乗り捨てられた車の群れといった「ゾンビ映画あるある」な光景が民放のテレビドラマで再現されていたところだ。まあ、そのゴーストタウンも、寄りの画ではゴミが散乱しているのに、引き画では塵一つない綺麗な交差点だったりするのだけれども、そんな細かいことは気にしない気にしない!
  • で、『ウォーキング・デッド』よろしく、響は生き残りのコミュニティに合流し、そこでは響と高校時代に何やら因縁がありそうな等々力(笠松将)がいたりする。響はどこかで生き残っているはずの来美と再開することを誓うが、「ゾンビ物とはいっても、今後濃厚な人間ドラマがあるんですよ!」を匂わせる展開もまさに『ウォーキング・デッド』。響は高校時代に弓道部だったようで、見事な腕前でゾンビの頭を次々と射抜いていくのも笑ってしまった。『ウォーキング・デッド』かよ!
  • と、少し意地悪く書いたけれども、日テレの制作意図は日本版『ウォーキング・デッドなのは明らかだ。僕は何もパクリだと糾弾したいのではなく、まずは日曜ゴールデン帯でゾンビドラマを放映しようとした日テレの気概を買いたい
  • コンプライアンスがうるさい中でどこまでゴア表現に挑戦できるか相当悩んだに違いないが、とりあえず血は見せるし、ちゃんとゾンビは人を食うし、生き残った者もゾンビを撃ち殺したり、矢で射抜いたりしているので、「ゾンビもの」というジャンルとしては最低限成立はしていると思う。
  • また、バリケードの隙間からゾンビの大群が手を指し延ばす、というジョージ・A・ロメロリスペクトな画があるのも嬉しい。まさか和製本格ゾンビTVドラマが見れる日が来ると思った人はどれくらいいるだろうか。実現してみせた日テレは偉い!偉いぞ〜!
  • ……と褒めたいのは山々ですが!やっぱり「民放」ってところに限界があり、諸手を挙げて褒め称える出来ではないんだな〜。
  • まず、日テレ自体が本作を「ゾンビサバイバル×ラブストーリー×ミステリー 3つの軸が絡み合う、“極限の人間ドラマ”!(原文ママ)」と推しているのだけれども、そもそも「ラブストーリー」がいらねぇ〜!悪い意味で実に「日本的」だ。いや、そりゃ恋愛関係が要素として盛り込まれているゾンビ映画はあるし、ラブストーリーを主軸に添えたゾンビ映画だってあるけれども、本ドラマはあからさまにTVドラマっぽいジメジメとした感傷的なセリフや演出が多いので、ちょっとその湿気にやられてダルくなる。ゾンビでジメジメしていいのは、血とか肉とか蛆虫だけ!
  • まあ、日テレの魂胆は分かる。Wikipediaによると、本作はティーザー時点では「ゾンビもの」であることは伏せてマーケティングしていたらしい。これ、どっかで観てことがありますよね。そう、本邦における『ワールド・ウォーZの宣伝戦略だ。海外のように本格的ゾンビドラマを作りたい一方で、日本の視聴者がゾンビというジャンルに食らいつくかが分からない。だからラブストーリーだったり、日本人が大好きな「感動」を盛り込んで、より多くの視聴者層を取り込もう、という意図だ。そして結果的に、ゾンビものとしては中途半端になってしまい、肝心のゾンビ映画ファンからはナメられてしまって、初回視聴率も8.4%と振るわなかったのだろう。
  • また、ホラー映画あるあるではあるのだけれども、わざわざ明らかに怖いところに近づいたり、登場人物たちがバカな行動を取り続けるのも、ちょっとなぁ、と思う。あと、貴重な非常食で豪華な料理を作るシーンが温まるシーンとして描かれているのは、邦画的な能天気さで笑った。つい最近、ちょうど『ディス・イズ・ジ・エンド』を観返して、貴重な食料で勝手に料理して喧嘩になるシーンを観ていたもので…。


  • 先ほど、「ジョージ・A・ロメロリスペクト」とは書いたけれども、本作のゾンビは全速力で走るタイプのゾンビだ。正月に公開された『新感染半島/ファイナル・ステージ』*1もそうだったけど、僕、走るゾンビが苦手だ…。コメディなのにノロノロゾンビの恐ろしさを研究した『ショーン・オブ・ザ・デッド』は偉かったな。

  • ちなみに、ロメロゾンビといえば、ゾンビを通して社会批判を描くのが巧みで、その手腕がゾンビ映画を格別なジャンルに押し上げた。本作はコロナ禍で製作・発表されたドラマなので、今後の回で現政権のグダグダなアレとか、陰謀論とか、コロナをメタファーに取り入れた展開を期待したい。なお、一応登場人物の一人として、外国人労働者のミンジュン(キム・ジェヒョン)が登場したりしているので、例えば日本の移民問題だったり差別問題だったりを深く切り込んでいってほしいところだけれども、演じるのがN.Flyingという韓流アイドルグループのメンバーなので、単なるタイアップで終わりそうな気もしてしまう…。まあ、あくまで予想ではあるけれども!
  • ということで、『君と世界が終わる日に』を観て、応援したい気持ち半分、がっかりした気持ち半分と、非常にアンビバレントな気分にさせられたが、ただ「日本でゾンビものとか無理でしょ!」なんて嘲笑しているだけでは、視聴率主義の日本テレビ界がまた保守化してしまう。次の作品の種を植えるためにも、『君と世界が終わる日に』にはひとまず頑張ってほしいと、今の所は僕は思っています。次の回が面白くなかったら切っちゃうかもだけど…。
ウォーキング・デッド9 Blu-ray-BOX1

ウォーキング・デッド9 Blu-ray-BOX1

  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: Blu-ray
 

 

*1: