今更だけど、熱く語るよ!/『ジュラシック・パーク』★★★

 最近『リンカーン』公開に併せてスピルバーグ作品を全部制覇するということを個人的にやっている。その影響かもしんないけど、何故か先週辺りから『ジュラシック・パーク』を久しぶりに観たくてムラムラしてしまい、酒の勢いもあってUK盤BDをポチる。日本語音声、字幕はおろか日本語メニューまで収録、もちろん三部作収録で豪華メイキング映像付きで2980円!かなりお買い得なので購入をオススメしたい。

Jurassic Park Trilogy [Blu-ray] [Import]

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 さて久方ぶりに、しかも高画質で観る『ジュラシック・パーク』、サイッッッッコーだああああああ!僕は小学生の時『ジュラシック・パーク』シリーズが大好きでいつも自由帳にティラノサウルスを描いてばかりいた少年だったが、当時内に秘めていた熱量が再熱してきて鑑賞中何度か目頭を押さえてしまった。当分この熱が冷めるまで僕の中でオールタイムベストとなるだろう。
 
 興奮しすぎて何から述べたら良いか分からんが、まずはやっぱり恐竜について。「当時は新鮮だったかも知れないけどさ、正直今観てもあんまり驚かないよね」なんて感想が巷に溢れかえっているが、全然そんな事ねーぞバカヤロー!!もう二十年も前の作品(!!)なのに全然色あせる事なく、未だにブラキオサウルスを前に驚愕するグラント博士と観客をシンクロさせる力を持っている。有史以来誰も見た事がなかった恐竜を目の当たりする感動には、やれ『スター・チンコ エピソードI』やら『トランスチンコーマー』やら『アバチンコター』やらが束になっても敵わない。(注1)

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 『ジュラシック・パーク』はかように初めてCGを以て生物を描いた作品として有名。しかし、昨今のSFやファンタジーを貶す感覚で「どうせ全部CGっしょ?」としたり顔をするバカがいるのだが、そこのバカ、ちょっと座れ。『ジュラシック・パーク』で使用されているCGなんてほんの全体の7分程度、あとは伝統的な着ぐるみやアニマトロニクスを使用して恐竜を表現しているから、『ジュラシック・パーク』の恐竜達には生身の重力感がある。実物大のT-REXが現場で動いている様子を撮ったメイキングビデオがYouTubeにあがっていてテンションが上がる。こんなに楽しい現場は絶対無いよ!
 
 ちなみに本作のアニマトロニクスを監督したのはスタン・ウィンストン。『ターミネーター』シリーズや『アイアンマン』でもアニマトロニクスを担当していた業界の巨匠。更にペシャンコになる車や折れ曲がるゲートなどを作ったのは特殊効果担当のマイク・ランティエ。物理的な恐怖度を増すのに一役買っている。
 
 当初スピルバーグフィル・ティペットを起用してゴーモーションアニメで恐竜を表現しようとしたが、デニス・ミューレン率いるILMの最新VFXを観て愕然、完全にCGを使用することに決めた。同じくCGの完成度を見たティペットは「これで我々は絶滅だ」というセリフを残しており、それを気に入ったスピルバーグはグラントとマルコムの会話に採用。デリカシーねぇな!!
 
 しかし、フィル・ティペットはプロジェクトから降ろされた訳ではないかった。恐竜の動きを再現するにはゴーモーションが最も適したツールだったため、実際にはゴーモーションの動きをパソコンに取り入れてCGを補完する作業が採用された。つまり新旧すべての分野の利点を活かして製作されたのだ。

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 未だにCGの使用をやたら強調される『ジュラシック・パーク』だが、実際には伝統と最新のテクノロジーを巧みに融合した傑作であり、この映画がアカデミー賞で最優秀特殊効果賞を受賞したのは映像史的に非常な重要な意味を持つ。当然、壇上にあがってオスカー像を受け取ったのは今述べたデニス・ミューレンスタン・ウィンストン、マイク・ランティエ、フィル・ティペットの四人。なんとも泣ける話ではないか!!
 
 スピルバーグ自身、T-REXがジープを強襲するシーンの撮影中から手応えを得ていたらしく、思い切ってクライマックスを変更。当初はヴェロキラプトルをグラント博士が倒して生き残るはずだったが、T-REXが彼らを助ける形に変更。曰く、「この映画のヒーローはT-Rexで、あそこで再びT-REXを出さないと客席からブーイングが起きると思った」いやぁ、やっぱりあんたは分かってるよ!これに対してWikipediaの当該ページには不自然な点として、「クライマックスでT-REXの足音がしないのは変」だなんて載せやがって、これを編集したクソ野郎を探し出してBlu-rayボックスの角で100回くらい殴打したいぜ!

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 恐竜だけでなくても、やっぱりスピルバーグの演出も眩しいくらい冴えてる。今回の鑑賞で初めて気付いたのが、主人公達がヘリコプターでイスラ・ヌブルタ島に到着する冒頭。着陸に備えて彼らはシートベルトを着用するのだが、後にT-Rexに間抜けな姿で食われてしまうビビリの弁護士は震えながら、常に余裕がありそうでニヒルなマルコム博士は落ち着いて、子どもが苦手で不器用なグラント博士は手間取りながらそれぞれ取り付ける。つまりシートベルトを着用するという短い動作でキャラクターの紹介をこなしてみせている。台詞に頼らず必要最低限のカットでの説明を可能にする事こそが映画の醍醐味なのだ。
 
 スピルバーグ十八番の「見せない恐怖」も本作でも健在。これも今回Blu-rayを観ていて気付いた事だが、実はT-Rexの登場により本作がナショナル・ジオグラフィ・ムービーからヘル・ライド・ムービーに様変わりするのは実は本編始まってから1時間も経ってからだ。この映画の構造を凝縮しているのがまさにT-Rex襲撃のシーンで、確実に気配はするのに肝心のモンスターは中々姿を表さない。代わりに、ヤギの足(注2)やコップに入った水で散々恐怖感を煽る。ようやく現れたと思ったらフェンスに不気味にかかった短い腕。くー、焦らすねぇ!
 
 足音で広がる水の波紋はシリーズの象徴ともなり、『ロスト・ワールド』では予告編のイメージでも使われた。しかし、現場ではこの波紋を作り出すのに相当苦心したそうで、マイク・ランティエは撮影当日の朝まで悩んだらしい。その朝たまたまギターを弾いた時コップの水が振動しているのをみて閃き、現場ではコップの下にギターの弦を引っ張って弾いていたという。これまたアナログ的な手法の活躍を示す例だ。

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 その他細かい点を羅列すれば、実際にユニバーサル・スタジオのアトラクションでで再現されているあのジュラシック・パークの門やジープをデザインしたリック・カーターのプロダクション・デザインは完璧。見事サファリパークと恐竜時代のイメージを調和させている。さらに映像面ばかり注目されているが、あの説得力のある恐竜の鳴き声を作り出した事は敬服に値する。当然のようにアカデミー賞最優秀音響編集賞を受賞。原作は未見だが、マイケル・クライトンとデヴィット・コープのコンビは「通過儀礼」をテーマにして見事スピルバーグ色を濃く脚色している。(続編の『ロスト・ワールド』はなんとT-Rexの「親子」をキーに添える!)そもそもあのロゴデザインが神がかっているんだが、何と原作小説から存在していたそうだ。
 
 もう述べるまでもないと思うけど、ジョン・ウィリアムズのテーマ曲も素晴らしい。最早人類レベルで聞いた事ない人はいないんじゃないか?ってくらい有名になったが、考えてみてもジョン・ウィリアムズはデビュー以来一体いくつそういう曲を作ってきたのだろうか。しかも本作に至っては印象に残る曲は一曲や二曲じゃ収まらず、更に『ロスト・ワールド』でもカッチョいいサントラを作っている。天才か!
 
 もう好きな所を述べ続けても際限がないので止めておきたいけど、何が一番末恐ろしいかってスピルバーグはこの映画を予定していたスケジュールよりも12日も早く撮り終えたらしい。なんという現場把握力!それでいて天才的な演出力も持ち、残虐性など独特の個性も光り、更にジョン・ウィリアムズや最近ではヤヌス・カミンスキーなど才人が常にサポートしてくれる。スピルバーグはなんと恵まれた映画監督なんだろう。
 
 さらに『ジュラシック・パーク』を監督し世に発表した1993年にスピルバーグは『シンドラーのリスト』を完成させた。『ジュラシック・パーク』の現場で徹底的に破壊を行った一方、頭の片隅で徹底的にユダヤ人虐殺を描く手法を考えていたのだ。なんと怖い人なんだろう!ちなみに第66回アカデミー賞では両作品合わせると10部門受賞した事になる。 
 
 そんなスピルバーグの凄さを改めて思い知る為に、今こそ本作をおさらいしてみる事をオススメしたい。そんな素晴らしい機会として丁度アメリカでは今年IMAX3D版が公開されたのに、なんで日本は配給しないんだ!!バカなのか?ユニバーサル・ジャパンはバカなのか?それとも去年の『エピソードI 3D』『タイタニック3D』で懲りたFOXに入れ知恵されたのか?残念だなぁ…。
 

(注1)あえて世間では叩かれてるけど僕が愛しているVFX作品を引き合いに出しました。特に『アバター』なんかはゼロ年代ベスト級に好き。『ファントム・メナス』も『トランスフォーマー』もその年のベスト位には好きです。ただ『ジュラシック・パーク』が素晴らしすぎるのよ!
 
(注2)このヤギはティラノサウルスをおびき寄せる為につれてこられた物だが、よくよく考えたら子ども達もいるツアー客の前でそんな残虐ショーみせる動物園なんか無いと思うぞ。スピルバーグが経営する動物園なら分からんけど。