マンネリズムからの脱却/『ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える』と『ハングオーバー!!!最後の反省会』

 人気コメディシリーズ第二作『ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える』と第三作『ハングオーバー!!!最後の反省会』を鑑賞。(めんどいので、以下『ハングオーバー2』と『ハングオーバー3』と記す。)

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 『ハングオーバー3』は劇場で公開中なのでひとまず置いておくとして、『ハングオーバー2』はすこぶる評判が悪い。評価をまとめると大体「プロットが前作と全く同じで、更に今作はネタが残酷で暗い」と言った所に落ち着くか。公開からもう二年も経っていたし、評価もこんだけ低いので全く期待もしていなかった。
 
 しかし蓋を開けてみると、これが1作目に負けず劣らずとても面白かった。百聞は一見に如かずとは本当によく言ったものだ。
 

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 確かに批判されている通り、「仲間の結婚式前夜にハメを外して記憶を無くしたボンクラたちが、昨晩何が起きたかを探すために奔走する」というプロットは全く前作と同じで、インパクトにはかける。時には動物ネタだったり、全裸ネタだったり、使用するネタまで一緒だったりするし、なんと[謎の答えは冒頭にあるというオチ]まで前作と同じ。
 
 だけど各ネタの過激さは間違いなく段違いにパワーアップしている。そのため前作を知らない観客にはもちろん、前作のファンにも驚きと笑いを提供するサービス精神満載の映画となっている。*1脚本も前作とほとんど同じなら、コピーとはいえ秀逸な出来なのは当然のことだ。
 
 この映画を観て『ドラえもん』や『アンパンマン』といった国民的長寿アニメを思い出す。はっきり言ってこれらの作品は毎度同じパターンを踏襲していて今更新鮮味などはないが、そのパターンを工夫して見せているから飽きられることはないし、これからも続いていくだろう。
 
 よく否定的な意味でマンネリという言葉を使用するが、そもそもマンネリはマンネリズムの略で、マナー(型、作法)を語源としている。「偉大なるマンネリズム」という褒め言葉もあり、『ハングオーバー2』にはぴったりの惹句だ。
 

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 一方で、批評家からの酷評が応えたのか、ハングオーバー3』はマンネリからの脱却を試みようとしている。
 
 "hangover"は二日酔いという意味だけど、もはや本作ではドラッグはおろか酒すら飲まない。よって記憶もなくさないし、前二作にあった謎解き要素もない。アメリカではどうなのか知らないが、日本の査定ではPG-12となり表現の過激さも薄れ、作風すら変わってしまった。
 
 だから謎解き映画の変化球として傑作だった前二作の続編にしては、何だか普通のコメディ映画になってしまったのは残念だった。確かにまた記憶を無くしてももっと面白い作品ができるか保証はないが、脚本の巧妙さもなくなり、なんとかチャウ(ケン・チョン)やアラン(ザック・ガリフィナキス)のキャラの面白さで保っている印象。
 

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 だが、『ハングオーバー』サーガの完結編としては、本作は大変綺麗なまとめ方をしている。
 
 話が少し飛ぶが、僕は浪人時代駿台に通っており、数々の講師の中でも現代文の霜栄先生が大好きだった。霜先生の講義では「タイのお頭」が合言葉で、つまり文章構造を理解するには文全体(タイ)の末尾(お)と先頭(かしら)を繋げて考えろ、というものだ。更に霜先生は、世にある数々の名作は終わりから最初を振り返るともっと理解が深まるように考えて作られていることも教えてくれた。
 
 一見下品でバカなコメディに見える『ハングオーバー』シリーズも実は「タイのお頭」が計算された作品だ。さっきネタバレとして隠したけど、まさに1、2作目がそういう構造であったし、最終作の3は、1と同じくラスベガスを舞台とし、1に登場したキャラを再登場させたり、1の何気無いセリフを伏線にしていたり、1との繋がりを強調する。*2

 「マンネリからの脱却を試みようとしている」と先に書いたけど、際どい動物ネタ、メインキャストがエレベーターに乗るカットなど、シリーズに登場するイメージを繰り返し用いている。作風は変わっても、あくまでも前ニ作との地続きの物語であることを再認識させてくれる。
 
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 そして前二作がやり残した「アランを成長させる」という課題も本作は果たす。パンフレットのインタビューでトッド・フィリップス監督が言うには、前ニ作はステュの成長物語だったそうだ。
 
 確かにステュは一作目で彼女の圧迫から解放され、二作目では本当に愛する人と結婚をする。一作目から既婚者でいつもアランとステュの間を取り持っていたフィルは成長する必要は無い。となると、いつまでも子供のように振る舞うアランを大人にする通過儀礼を行う責務がトッド・フィリップス監督にはあった。でないとこの狂乱の夜はいつまでも続いてしまうから。アランは自分と同じように自由気ままに生きるチャウと対峙して、「狼軍団」は永遠でないと気づくのだ。
 
 さて、先週末公開された『ハングオーバー!!!最後の反省会』はシリーズ最大のヒットを飛ばしているそうだ。これはアメコメファンとしては『テッド』に続く嬉しい流れ。先に書いたように前二作ほどの衝撃はないものの、やはりみんなで笑うのは楽しいので劇場に行くことをお勧めします。誰だって祭りのあとは嫌でしょう!

*1:この過激さが残酷だと叩かれる所以かもしれないが、R指定のコメディなのでこれくらいやってもらわないと物足りない。

*2:長谷川町蔵映画秘宝で指摘していたように、それはまるで『ダークナイト ライジング』がゼロ年代の傑作と絶賛された『ダークナイト』ではなく、『バットマン ビギンズ』に寄せた内容であったことに似ている。実際、冒頭のチャウ脱走シーンで『ライジング』をパロったようなカットがあり、撮影期間的にもわざとやっている可能性はある。