「出会って4秒で合体」はもう古い。/『アナと雪の女王』★★☆

※メガヒット作品なので、ネタバレ全開です。観賞後にご覧下さい。オススメの作品なので是非!

 ディズニーアニメの中でも、かなり型破りな作品だと思った。 

f:id:HKtaiyaki:20140429142131j:plain

 

 ディズニー初のダブルヒロインであるというのもあるが、第一幕で姉のエルザの戴冠式でアナは王子様と出会い、お互いの似た境遇からすっかり意気投合する。恒例のデュエットを歌い、出会ったその日に求婚までするが、そのことを姉に報告しに行くと、
 
「結婚!?だめよ!!よく知りもしない人と結婚なんて、何考えてるの!?
 
 どっしぇ〜〜〜〜!!!70年以上のディズニーアニメの歴史の中で、どれだけのヒロインが出会って4秒で合体してきたことか!いや、そのようなごもっともな台詞がディズニーのセルフパロディである『魔法にかけられて』で聞けるのなら分かる。でも、これは伝統的なウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編作品なのだ!言うなればジャンプで友情を否定する作品が連載されるようなものだよ!
 

f:id:HKtaiyaki:20140429142608p:plain

 また、本作にはヴィランがいないのも異質だ。正確に言えば、先に述べた王子様が悪役と呼べなくもないのだが、元はと言えばエルザの魔法が王国を凍らせ、民を困らせたのだ。しかし、確かにエルザの暴走を止めるためにアナが冒険をするのがこの映画のメインプロットではあるものの、実はエルザが悪いとも言いきれない。
 
 幼少期よりエルザは強い魔力を持って生まれ、アナと遊んでいるうちに誤って命の危機に晒してしまう。それ以来、人々からの差別を防ぐためにもエルザは両親から魔法を隠すようにと言われ続け、与えられた手袋で魔力を抑えてきた。唯一味方をしてくれた優しい両親も遂に事故で亡くなり、王女としての使命を背負わされてしまったエルザは益々自分の殻に閉じこもってしまい、傷つけないようにとアナを避け続けた。
 
 従来のディズニーアニメならば、魔法というのは呪われた力であった。しかし、『アナと雪の女王』において魔法とはエルザの個性であり、才能だ。小さい頃からエルザは個性を殺すように言い聞かされてきたのである。『英国王のスピーチ*1ではジョージ6世の吃音の原因は、幼少期に左利きを矯正するように言われたプレッシャーにあったことがカウンセリングにより発覚するが、エルザの場合も多大なストレスだったに違いない。誰にも事情を話せず、一人部屋に閉じこもるエルザの姿は悲痛だった。だからこそ大ヒットした主題歌「Let It Go」*2束縛のメタファーである手袋を投げ捨てるエルザの解放感に心打たれるのだ。
 こうしていつもの軽い恋愛を否定し、ヴィラン不在の物語は観客の予想を裏切る形で帰着することになる。終盤、アナにかかってしまった魔法を解くには「真実の愛が必要」であることが判明する。ぶっちゃけここで僕はかなりテンションが下がってしまった。またかよ!せっかく普段と違うことばかり見せているのに、結局いつものディズニー映画じゃん!
 
 ところがどっこい、アナの魔法を解いたのは道中で恋仲となったクリストフではなく、姉のエルザであった。愛とは男女間だけの感情ではないのだ!こんな当たり前のことに気付けなかったのは悔しいし、しかしこんな当たり前のことを今までディズニーは描いてこなかったのだ。一応最後にとってつけたかのようにアナはクリストフはキスをするが、ラストカットはアナとエルザが幸せそうにスケートをしているのを引きで収めて締めくられる。ディズニー史上初のダブルヒロインを描いた作品だけあって、見事な幕引きだった。*3
 

f:id:HKtaiyaki:20140429142841p:plain

 ちなみにここからは余談ではあるが、テーマ面だけでなく、実は制作面でも『アナと雪の女王』には大きな変化があった。ディズニー映画はおおまかに三期に分けることができる。ウォルト・ディズニーが死ぬまでの創世記、『リトル・マーメイド』に始まったルネサンス期、そしてピクサージョン・ラセターがチーフ・クリエイティヴ・オフィサーに就任してからの現在の第二ルネサンス期だ。
 
 ディズニー映画の重要な要素と言えるのはもちろん音楽で、音楽の出来が作品の出来を左右するといっても過言ではない。創世記の作品で音楽監修を務めたのはシャーマン兄弟だった。数々の名曲を生み出したシャーマン兄弟であったが、ディズニーが亡くなるとシャーマン兄弟も独立してしまい、しばらくディズニーは低迷する。

Top 5 Sherman Brothers' Songs - YouTube
 落ちぶれたディズニーを立て直したのは敏腕プロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグであり、彼がアラン・メンケンを『リトル・マーメイド』で起用してディズニー音楽はまた勢いを取り戻した。アラン・メンケン三曲連続アカデミー賞受賞を果たすなど、実力を遺憾なく発揮したものの、カッツェンバーグが当時会長であったマイケル・アイズナーと喧嘩別れし、ドリームワークス設立に向けディズニーを脱退するとアラン・メンケンも抜けてしまい、ディズニー映画はまた凋落してしまう。

Disney Song Medley by Alan Menken - YouTube
 再びディズニー映画を蘇らせたのはCCOとなったジョン・ラセターだった。ディズニーといえばアラン・メンケン、という事でラセターは彼を呼び戻し、『魔法にかけれて』『塔の上のラプンツェル』をヒットさせ相変わらずの実力を見せつけた。しかし、どうやらアラン・メンケンの起用は一時的な物だったようで、既に新しい才人がその頭角を現し始めている。

 それがロバートとクリステン・ロペツ夫妻だ。二人は2011年の『くまのプーさん』で新曲を手がけた後、今回の『アナと雪の女王』でも起用され、世界的な流行曲を作り見事アカデミー賞を受賞を果たす。ディズニー映画が最優秀歌曲賞を受賞したのはなんと『ターザン』以来15年ぶり*4!これはディズニーの世代交代を象徴した出来事と言えよう。

 『アナと雪の女王』はテーマ的に画期的な作品だったが、実はこのように制作面でも新風が吹き込まれている事が伺える*5。『ラプンツェル』『くまのプーさん』『シュガー・ラッシュ』など、ジョン・ラセターが関わってからのディズニー映画は飛ぶ鳥も落とす勢いなので、今後の作品も楽しみだ。ただ、ピクサーがちょっと今アレなんで、ラセターさんにはそこらへんも早急に何とかして欲しい。

*1:この映画自体は嫌いです。

*2:どうでもいいですが、僕はこのシーンで嘘をついて生きる就活生の苦難を重ねてしまった。世間的には同性愛者のメタファーとしてみる意見もあるそうです。まぁ、エルザの魔法は同性愛でも障害でも就活でも何でもいいんですよ。誰でもありのままの自分を見せたい時があるから世界中の人から共感を得たんだと思う。

*3:とはいうものの、雪ダルマンに「そうか、姉妹にも真実の愛は当てはまるんだ!」とセリフで説明させてしまうのには流石に萎えた。うーむ、惜しい…。

*4:ピクサー作品は除きます。しかし、ミュージカルでもないピクサー作品はコンスタントに歌曲賞を取り続けていたのはなんとも皮肉な話ですな…。

*5:こうしたディズニー映画音楽の歴史については「長谷川町蔵のサントラ千枚通し」『映画秘宝』5月号を参考にしました。長谷川さん音楽やコメディ映画に対する見識の深さは素晴らしい。