ティンマンの逆襲/『ロボコップ』★★☆

 新『ロボコップ』を新宿東急ミラノ座で観に行った。ミラノ座は寂れた感じが素晴らしいですね。『ロボコップ』ほどミラノ座で見るのに適した作品もないんじゃないだろうか。

 さて新『ロボコップ』、確か不満は無いとは言えないまでも、案外面白い映画に仕上がっており、これは嬉しいサプライズだった。旧版のテーマ曲を使っているのがまたいい。去年日本では『ガッチャマン』が実写化されたが、BUMP OF CHICKENがガンガン流れる予告編の時点で「こりゃダメだ」と感じた。だいぶ前の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』や公開が控えてる実写版『ルパン三世』もそうだが、なんで日本のへっぽこ実写化作品達は元の有名なテーマ曲を使わないんですかね?

 その点、ハリウッドの作り手達はオリジナルへの愛を感じるから好感が持てる。サム・ライミ版『スパイダーマン』ではTVアニメシリーズのテーマ曲がそのまま使われ、J・J版『スター・トレック』は新テーマ曲を用意しながらもキチンとオリジナルテーマ曲を流す配慮を見せる*1。まだ全貌は明らかになっていないが、今夏公開の新『ゴジラ』ではあの唸り声が期待値を高めてくれる。今回の『ロボコップ』のテーマ曲の流し方は若干中途半端な感じがして完全に満足したわけではないものの、ひとまずは及第点といえるんじゃなかろうか。まぁTVスポットで流してくれただけでも僕は許すよ。

Robocop -Theme Song - YouTube

 
 テーマ曲の使用に代表されるように今回の『ロボコップ』はオリジナルへの愛を見せつつ、現代流にアップデートして何とかオリジナルに対抗しようと挑戦してみせる。(無謀な挑戦ではあるが)今作で僕が一番心に残ったのは「おい、ブリキ男(ティンマン)!」という、ジャッキー・アール・ヘイリーロボコップを罵倒する言葉だった。

 このブリキ男は何かというと、オズの魔法使い』のティンマンのことだ。ご丁寧にも劇中で39年版『オズの魔法使』のティンマンの曲「もしもハートがあったなら」が流れるが、曲のタイトルから分かる通りブリキでできたティンマンは心がなく、心を手に入れるためにドロシーとともに旅をする

The Wizard of Oz (1939) - Tin Man's Dance - YouTube

 オリジナル版とリブート版の一番の違いは、ロボコップに自我がある点だ。オリジナル版は手術の過程で記憶を消されたマーフィが物語途中で人間性を取り戻す物語だ。対してリブート版は、オムニ社が合法的にロボット兵器を全米に配備するために、あえてマーフィーの意識を残したままサイボーグ化するが、中盤からオムニ社の勝手な都合により感情を消されてしまう。

 ちなみにティンマンにはこんなエピソードがあるという。

出典:オズの魔法使い、ブリキのきこりの事を教えてください。 - Yahoo!知恵袋

 

ブリキのきこりはかつてはニックという名の普通の人間で、ニミー・エイミーという娘と恋仲でした。

ところがニミー・エイミーと一緒に暮らしている老婆が性格が悪く、彼女がお嫁に行ってしまうと何かと不自由だということで、この結婚を破談にしてくれ、と東の悪い魔女(冒頭でドロシーの家の下敷きになったあの人)に依頼します。

魔女のかけた呪いによって、ニックは仕事の最中に腕を切り落としてしまいます。彼は友人の鍛冶屋に頼み、ブリキの腕をつけてもらいました。同様にして足も失い、頭も失ってしまいます。最後には胴体が真っ二つになってしまい、全身ブリキの男になります。その際に心を失った為、恋人への愛を失ってしまいました。

ドロシーと出会ったブリキのきこりは、オズの魔法使いの魔法なら、人を愛せる心を取り戻せるかもしれないと思い、彼女の旅に同行することになります。

 ティンマン同様、オリジナル版のマーフィーはまず右腕をショットガンで吹っ飛ばされてから殺される。そして遺体としてオムニ社へ運ばれ、感情を失う。しかし、リブート版では敢えて右手だけを残してオリジナルとの差異を強調する。マーフィーの右手について劇場では一切詳細は語られていないが、唯一残った右手にマーフィーの人間性を託したジョゼ・パジーリャ監督の意図は明らかだ*2。マーフィーが家族と触れ合うドラマパートでは必ずこの右手が目立つ演出が入る。

 そして、感情を消されてしまったティンマンは、クライマックスで唯一心が残っている右腕に持った銃を東の悪い魔女に向け、ニミー・エイミーの元に帰るのだ。これはティンマンの逆襲だ!


2014/3/14公開『ロボコップ』予告編 - YouTube

*1:確かに新『スター・トレック』は素晴らしい作品だった。だがJ・Jよ、今すぐ新『スター・ウォーズ』の撮影を中止するのだ!!!!

*2:とはいいつつ、ちょっと控えめすぎる気はしました。