僕にペンの売り方教えてください!/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』★★★

 ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)、22歳。高校から付き合っていた恋人と結婚し、かねてからの夢であった証券マンとして、投資銀行のLFロスチャイルドで働く事になりウキウキしていた。入社したその日、ジョーダンはメンター(師父)となるマーク・ハンナ(マシュー・マコノヒー)と出会う。

 ハンナはジョーダンに教示する。

「いいか、証券マンという仕事は馬鹿な客の金をポケットマネーにする事だ。そして、このウォール街で成功する鍵はセックスとドラッグだ。セックスとドラッグが金の回りを良くする。今日から女をヤリまくれ、クスリをキメまくれ、カネを稼げ!」

 数日後ジョーダンは株式中売人免許を取得し、いよいよ証券マンとして働くぞ!と意気揚々と出社したその日、ブラックマンデーにより会社は倒産してしまう。途方に暮れていたジョーダンはハンナの言葉を思い出す。「セックスとドラッグだ!

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 かくして、179分に及ぶセックスとドラッグとマネーに塗れた物語は幕を開ける。『グッド・フェローズ』や『カジノ』と同じテーマを、ウォール街を舞台に換骨奪胎した本作はアカデミー賞作品賞にノミネートされるも、あまりに過激な内容に賛否両論を呼んだ。しかし、当のジョーダン・ベルフォートならこう言うだろう。倫理?道徳?正義?そんなもんはクソ食らえ!

 現実ではジョーダン・ベルフォートは1998年に証券詐欺とマネーロンダリングで捕まっている。この映画でも最後にベルフォートは捕まってしまうが、この作品は「悪さをすれば天罰が下る」なんてことや資本主義の醜さを描きたいのではない。底が無い欲望と、欲望から発せられる熱に踊らされる人々を描いているのである。

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 そんな狂騒を巻き起こす男こそがジョーダン・ベルフォートだ。朝はクスリをまず一発、小人を的に放り投げ、余興と称して女社員の頭を刈り上げ、夜は再び娼婦と過ごし、酩酊した状態でヘリで帰宅し、この繰り返し。彼のやること為すこと全て下衆である。

 しかし、そんな下衆なジョーダンに一種の憧れを抱いてしまうのは否めない。それほどまでに禍々しいカリスマ性を放っている。ジョーダンは社内スピーチで言い放つ。

貧しさは惨めだ。俺は金持ちだったことも貧乏だったこともあるが、俺は金持ちであることを選び続けてきた。もし俺が間違ってると思うなら、クソマクドナルドで働いてこい!そこがお前の場所だ」

 魅了され、沸く社員と高まる観客の鼓動。ジョーダンは最低な男なのは間違いない。しかし彼が下劣なら、何故こんなにも心を揺さぶられるのか?何故彼の元に人々は集まるのか?何故彼の本は飛ぶように売れ、講演会は今でも予約でいっぱいなのか?

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 それは人間が欲に抗えない生き物だからだ。性悪説的に人間は欲望というものを持っている。金が無いよりはある方が断然いい。ブスよりは美人と寝たい。許されるならハイになってみたい。そんな当たり前の感情を利用してジョーダンは頂点に登り詰め、そんな当たり前の感情に翻弄されて人々はジョーダンにペンの売り方を乞うのだ。大半は商売の基本すら分かってないのに。

 このように、ただただ圧倒された3時間だった。というか、こんだけエネルギッシュな映画を撮る精力をまだ持っているスコセッシの底力に驚かされる。だってスコセッシ、今年で72歳ですよ!?先々月ローリング・ストーンズのライブに行った時にミック・ジャガー(71歳)が東京ドームの端から端を走り回っていたが、それに匹敵する熱量だ。今ジジイが元気である。 

 
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 予告編 - YouTube

 

ウルフ・オブ・ウォールストリート 上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ウルフ・オブ・ウォールストリート 上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)