ポール・ベタニー「ジョニー・デップを支えるのは俺だ!」/『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』★☆☆

 最近のジョニー・デップがやばい。

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 『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)で世界的なトップスターに昇りつめ、以後数々の主演作品をヒットに導いてきたわけだが、出演作が大味な大作ばかりなので徐々に批評家からのウケが悪くなっていく。

 

 転落の契機となったのは間違いなく『ツーリスト』(2009)だろう。サスペンスなのにオチがあまりにも酷すぎて批評家のみならず観客からもブーイングを浴び、皮肉にもその年のゴールデングローブ賞でミュージカル・コメディ賞部門でノミネートされてしまったことは伝説となった。

 

 仕事がうまくいかなくなると、今度は私生活も狂い始める。2012年に14年来連れ添っていたパートナー、バネッサ・パラディと破局。婚約していなかったが、おしどりカップルと言われた二人の破局は高橋ジョージ三船美佳の離婚と同様の衝撃をタブロイド紙に与えた。二人の間には子どもまでいたが、別れた原因はジョニー・デップの浮気にあるのではないかと囁かれている。

 

 ただでさえライフポイントがゼロのジョニー・デップに新たなスキャンダルが襲う。去年のテレビ泥酔生出演事件である。


Johnny Depp Drunk Hollywood Film Awards (FULL ...

どう見てもヤバい。舞台に上がる前からフラフラで、呂律も回っておらず、止めにはFワード。『ローン・レンジャー』『トランセンデンス』と特大地雷を二発かました後の出来事であり、もう公私共々取り返しのつかない事態になってしまっている。

 

 しかし、しかしである。それでも僕はジョニー・デップが好きなのである。僕は中学高校時代に『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズにはまり、あの作品が映画好きとなるきっかけの一つとなったと言っても過言ではない。黒歴史を晒せば、ジャック・スパロウの歩き方を一時期真似てしまっていたくらいジョニー・デップは多感な僕に影響を与えたのだ。

 

 落ち目落ち目とは言われているが『ランゴ』や『21ジャンプストリート』*1は大傑作だったし、僕はディズニー史上最大の赤字となった『ローン・レンジャー』も大好きだし、去年一番の駄作SFとまで言われた『トランセンデンス』だって面白く観れた。全世界が敵になろうと僕はジョニー・デップの味方だぜ!

 

 そして昨日、ジョニデの最新作『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』をユナイテッド・シネマ豊洲へ観に行った。

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イギリス・オックスフォード。ゴヤの幻の名画が何者かに盗まれ、英国諜報機関MI5は、ちょびヒゲがトレードマークの怪しい美術商チャーリー・モルデカイ(ジョニー・デップ)にその捜索を依頼する。彼は不死身の用心棒ジョック(ポール・ベタニー)とともに名画を探すハメになるが、その名画には世界を揺るがす財宝の秘密が隠されていた。そんな中、富豪やマフィア、国際テロリストを巻き込み、イギリス、ロシア、アメリカへと世界中を駆けめぐる争奪戦が勃発。はたして、幻の名画の行方は……。*2

 なるほど!今度のジョニー・デップは『インディ・ジョーンズ』や、それこそ『パイレーツ・オブ・カリビアン』のようにマクガフィンを追う物語になるのか!面白そうじゃないか!

 

 

 

 

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寒い、寒すぎる…。

 ジョニー・デップは『チャーリー・モルデカイ』のプロデューサーも務めており、恐らく名画をめぐる冒険活劇としてシリーズ化も目論んでいたのだろう。ジョニー・デップジャック・スパロウやウィリー・ウォンカのように強烈なキャラクター像を確立しようと、「ちょびヒゲ」*3キャラを熱演する。

 

 しかし悲しいかな、チャーリー・モルデカイは滑り倒す。

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 『インディ・ジョーンズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』のように冒頭にアクションシーンが配置されているが、そのアクションの撮り方が下手なのか編集のテンポが悪いのか「コミカルな」アクションがモタついて見えてしまい、いきなり映画の世界に入り損ねてしまう。*4

 

 その後映画は調子を取り戻そうとするものの、肝心のギャグがこれっぽっちも面白くない。キンタマがどうだとかゲロだとか小学生レベルの下ネタ*5を使うのだが、どのギャグも大方の予想通りのオチを見せる。そしてクドく何度も登場する。

 

 じゃあ脚本はというと、無駄に大陸間を横断するし、どんでん返しは都合がいいし、もしあのキャラとあのキャラが繋がっていたら敵は絶対にもっと効率の良い作戦があるはずだ*6し、そもそも途中グウィネス・パルトロウの調査で観客は[今チャーリーが追っている名画は贋作]だと気づくから後半は全然ハラハラしないし*7、クライマックスは偶然がすぎるし、もう支離滅裂。イギリスが舞台だが英国喜劇らしいウィットさや皮肉もない。そして残念な事実だが、本作の監督デヴィット・コープの本業は脚本家である。

 

 もう頭からケツまでスベりっぱなしで、終いには前述の泥酔生出演事件のことまで自虐ネタとして取り込む次第で、観ていて本当に悲しくなる。更に本作に期待を寄せていた去年の自分の呟きを見るともっと悲しくなる。

 ああ、どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ…。

 

 だけど、こんな見てられない映画にもとてもいいキャラが一人でている。それがポール・ベタニー演じるジョックだ。

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 ジョックはチャーリーの粗暴な執事でセックス中毒者だ。どこだろうとどんな場面だろうとムラムラする女を見たらセックスしてしまう。これには主人のチャーリーも困りもの。

 

 だけどジョックは常にチャーリーを支えている。チャーリーがどこに行こうと側で見張り、チャーリーが危険な目に合えば必ず救い出し、チャーリーが困っていれば作戦を考える。破産寸前のチャーリーはジョックに給料も払えてなしい、チャーリーはうっかり3回もジョックを撃ってしまうけれど、それでもジョックはチャーリーを見捨てない。チャーリーには自分が付いていないとダメなんだと言わんばかりに。

 

 ちなみにポール・ベタニージョニー・デップと共演するのはこれで3回目である。過去二作は『ツーリスト』と『トランセンデンス』だ。つまりポール・ベタニーはこれまでジョニー・デップとずっとコケ続けてきたのに彼を見捨てないのだ!今回も盛大にコケたけど!

 

 「この作戦うまくいくかな〜?」「知るかよ!」と言いつつもジョックはチャーリーに付いていく。きっと現場でも「この映画うまくいくかな〜?」「知るかよ!」とベタニーはジョニデにツッコんでいたに違いない。これからもずっと一緒にいてあげて!

 

チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦 (角川文庫)

チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦 (角川文庫)

 

 

*1:と言いつつこれはカメオ出演だけど…。

*2:http://movie.walkerplus.com/mv56729/

*3:宣伝からちょびヒゲ推しだったけど、まさか字幕までちょびヒゲで押し通すとは…

*4:こういうのはゴア・ヴァービンスキーに撮らせたら天才。

*5:本当はこういう下品なギャグは大好物なはずなのに…。いつも言ってるんだが、下品なネタにも上品下品はある!

*6:チャーリーの[クライアントの娘]と[名画を狙うテロリスト]が[付き合っている]。どこで知り合ったんだよ!だったら最初からアメリカで待ち伏せろよ!

*7:大体グウィネス・パルトロウは少なくともこれを知ってたんだから、わざわざ危険を冒す必要はなかっただろ!