映画の奇跡/『ナイト・ミュージアム エジプト王の秘密』★☆☆

 絵本『夜の博物館(The Night at the Museum)』が原作のファミリー向けコメディシリーズ第三弾。前二作同様、ショーン・レヴィが監督を務め、役者陣もベン・スティラーロビン・ウィリアムズオーウェン・ウィルソンなどお馴染みのメンバーにレベル・ウィルソンベン・キングズレーら新キャストが加わる。

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 映画の根本は映像という記録メディアであり、それ故映画は稀に魔法のような奇跡を起こす。
 
 例えば、石井裕也監督の『ハラがコレなんで』。お腹に父親の知らぬ子を宿している仲里依紗がついに産気づくクライマックスでは登場人物一同故郷の福島に向かうが、この映画が公開されたのは2011年11月。僕が観たのはそれより一ヶ月早い10月の試写だったが、当時の時世を考えると福島に向かうクライマックスには心底ビックリし、思わず試写後のティーチインで監督に質問してしまった。
 
 当然、映画がそんなに早く完成するはずもなく、石井監督によれば『ハラがコレなんで』のクライマックスの舞台が福島になったことは全くの偶然であり、撮影自体も311が起きる大分前には終了していたので石井監督自身もこの結果に大変ビックリしたとのことだった。なお、『ハラがコレなんで』は福島の晴天の下に生まれてきた赤ん坊に仲里依紗が「あんた!何にも心配はいらない!何もかも大丈夫!」と叫んで結末を迎える。

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 映画ではないけれど、テレビシリーズ『宇宙大作戦』の中のエピソード「宇宙元年 7・21」。劇中、1960年代後半の地球にタイムスリップしてしまったUSSエンタープライズ号に地球のラジオが混線する。
『ケープ・ケネディ発、人類最初の有人月ロケット打ち上げは、水曜の東部標準時午前6時に予定されています。』

 『スタートレック』シリーズで使われる宇宙歴の元年は1969年とされているが、これは人類を初めて月に導いたアポロ11号が1969年7月16日に打ち上げられた日付から取られている。この日は水曜日であったが、このエピソード自体の放映日は1967年1月26日なので、なんと脚本を書いたD.C.フォンダはアポロ11号の打ち上げが水曜日に行われることを予言したことになる!*1

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 さて、ご存知の方も多いだろうが、ロビン・ウィリアムズが昨年8月に亡くなった。1993年のヒット作『ミセス・ダウト』の続編が製作されることが同年4月に報じられたばかりだったこともあり、ロビン・ウィリアムズが自殺したことは映画業界やファンに衝撃を与えた。もちろん『ナイト・ミュージアム エジプト王の秘密』のスタッフや出演者も製作段階で彼の死が近いことは知る由もなかった。ハリウッド映画の企画は実現までに3年かかるというので、脚本も相当前に最終稿が書かれていたはずだ。 

 

 それなのに、本作の最後でロビン・ウィリアムズが演じるテディと主人公のラリーが交わす会話は、ロビン・ウィリアムズの遺作としてはあまりにも完璧な結びとなっている。この魔法がかった瞬間を目撃した際には、人智を超えた何かの力の美しさに震えてしまった。この奇跡はそれだけのために劇場に足を運ぶ価値がある。

 

 残念ながら映画自体はそこまで面白いものじゃないけどね!

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映画『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』日本版予告編 - YouTube

 

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*1:無線からの音声だったら映像の例としては不適切では?というツッコミがあるかもしれないが、トーキーが開発されて以後は像だけでなく音も映像という記録メディアを構成する重要な要素である。