家族にサヨナラはいらない。/『ワイルド・スピード SKY MISSION』★★★

 待ちに待った『ワイルド・スピード SKY MISSION』を初日に木場の109シネマズIMAXシアターで鑑賞。僕がどれだけ本作を楽しみにしてたかは下の記事から分かるかと思います。もう上映開始前のIMAXのカウントダウンが 『ワイスピ』仕様で大興奮!!泣く準備はできたか!!?

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 I don't have friends, I got family. (仲間なんかいねえ、家族だ。)

 なんて『ワンピース』のキャラクターソング*1みたいな台詞だが、予告編でも見られるドム(ヴィン・ディーゼル)のこの一言には『ワイルド・スピード』シリーズの魅力が凝縮されている。

 

  映画の中でも、現実でも『ワイルド・スピード』シリーズは擬似家族を形成する。

 

 劇中ドムが家族と呼ぶメンバーにはアイルランド系のブライアン(ポール・ウォーカー)、ヒスパニックのレティ(ミシェル・ロドリゲス)、アフリカ系のローマン(タイリース・ギブソン)とテズ(リュダクリス)、韓国系のハン(サン・カン)がいる。ドム自身もヒスパニックであるが、この家族は多民族社会であるアメリカの縮図となっており、異なる文化的背景を持つチームが一丸となるこのシリーズがメガヒットするのはアメリカの希望的側面である。余談だが、『ワイルド・スピード』シリーズに重要なレース(race)は人種(race)と同じスペルだ

 

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 キャスティングの面でも『ワイルド・スピード』は「ファミリー」を大事にする。僕は以前『ワイルド・スピード』シリーズの人物相関図*2を作ったことがあるが、本数が多い分このシリーズに登場するキャラクターも多い。しかし、どんな些細なキャラクターでもこのシリーズはぞんざいに扱わない。本作でいえば例えば未だにエレナ(エルサ・パタキー)がちょい役ながら3作連続で登場するし、9年ぶりにショーン(ルーカス・ブラック)が登場した*3ことには驚いた。一見シリーズなら当たり前だと思えそうだが、ギャラやスケジュールで続編を降板するキャストがいたり、フランチャイズのイメージを一新するリブートがブームとなっている昨今の映画界で14年もの間シリーズの世界観を維持してきたスタッフ・キャストの尽力は並ただらぬものではない。本作に匹敵する世界観を持つのは『スター・ウォーズ』やMCUくらいじゃないだろうか?

 

 そしてそのワイルド・スピード』 シリーズのスタッフ・キャスト陣もファミリー同然の関係を築いている。それが痛いほどよく分かるのが、ポール・ウォーカー事故死の後だった。『ワイルド・スピード2』でブライアンの相棒を演じたタイリース・ギブソンは事故直後に現場を訪れてその場で泣き崩れたことが話題になった。ヴィン・ディーゼルもポールの遺族を励ましに行ったつもりが号泣してしまって逆に励まされてしまったことを告白しており、ポールの愛娘の後継人を買って出た。監督のジェームズ・ワンは知らせを聞いて他のメンバーと同様ショックが数日続き、ポールと共にもう永遠に仕事ができないことに酷く落ち込んでしまったらしく、宙ぶらりんになった映画製作なんかは二の次だったそうだ。皆ファミリーの一員であったポール・ウォーカーを愛していた。

 

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 皮肉にもポールの死により『ワイルド・スピード』ファミリーのスクリーンをはみ出た絆の強さが証明されたが、やはりポールが空けた穴は巨大であり、僕は残されてしまったこの映画がどういう道を進むのか不安で仕方がなかった。脚本を大幅に変更、ポール未撮影分はスタントマンや二人の弟を起用してCGでポールに見せる、などのスタッフの苦心が報じられたが、実際に自分の目で見るまでは安心できなかった。というよりか、正直に言うと僕は絶対にチグハグな映画になるだろうと思っていたし、少し変な映画になってしまってもそれに目を瞑るのが事情を知るファンの責務だと思っていた。

 

 そして不安と期待交じりに初日を迎えたわけだが、そのようなネガティブな感情を抱いていた自分を思いっきりドウェイン・ジョンソンのぶっとい腕でぶん殴って欲しくなった。ツギハギだったどころか本作はポール・ウォーカーに対する最大級のトリビュートであると同時にシリーズ屈指の傑作の誕生である!

 

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 事故が起きたなんて嘘なんじゃないか?と思わせるくらい本作はポール・ウォーカーの存在感で満ちている。製作チームはポールの死から逃げず、それどころかこれでもかとポールの見せ場を次々に作っていく。それでいて映画全体として見ても全く破綻していない*4のは驚くべき所業だ。本作の予告編第一弾が解禁された際にアゼルバイジャンでのポールのアクションシークエンスを丸々見せたことが話題となったが、今にして思えばそれはファミリーからの「俺たちは逃げない!」という宣言だったのだろう。

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 かといってポールが演じるブライアンばかりに脚光を浴びせてしまうと一本の映画としては違和感が残るが、もちろんファミリーを大事にするこの映画はそんなことは分かっている。多いキャラクターたちを交通整理して見せ、キチッとそれぞれの見せ場を作ってバランスよく掘り下げていく。なんならこの映画のドラマで一番の葛藤となっているのはブライアンではなく前作から続くレティの記憶障害であり、あくまで『ワイルド・スピード』ユニバースの一編であることを再認識させる。とても急ピッチで練り直した脚本とは思えない。

 

 このシリーズの人気を押し上げた要因の一つでもある、毎度「これ以上の物は流石にないだろう」と思わせる物理法則を無視するカーアクションは今回も(文字通り)ぶっ飛んでいる。「戦車の次は巨大な飛行機を落とし、次は空から落下?ふざけんな!」とローマンに言わせるくらいに作り手もその狂気っぷりには自覚しているが、よくぞ毎回思いつくものだと感心する。

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 カーアクションだけでなく肉弾戦も素晴らしく、ここでもカメラが縦に横に一回転したりと重力を無視しまくる。なんといっても今度の敵はあのジェイソン・ステイサムであり、これまでのこのシリーズの弱点であった「悪役の影が薄すぎる」問題をお釣りが出るほどに解消した。ステイサムは影は濃けれども頭は薄く、これでヴィン・ディーゼルドウェイン・ジョンソン、そしてステイサムと三代肉体派ハゲが並ぶ。ただし、アクション映画界においてハゲは最強の称号でもあり、ジェイソン・ステイサムがこの度『ワイルド・スピード』ファミリーに加入したことは益々シリーズの盛り上がりが期待でき、大変喜ばしいことだ。

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※この先映画のラストについてネタバレしています。

 さて、このように娯楽映画に求めるものすべてを享受したところで終盤でゆったりとスピードを落とす。息子のジャックとミアと海辺で遊ぶブライアン、それを見守るドミニクファミリーの切ない顔が写る。それだけで涙がこぼれ落ちそうになるのだが、ドムは黙ってその場を去ろうとする。「別れを言わなくていいの?」との問いにドムは

It's never goodbye.(サヨナラはいらない)

と答える。これは『ワイルド・スピード』を一緒に作り上げてきたファミリーの、そしてファミリーとともに走り続けてきたファンの気持ちの代弁でもある。

 

 交差点で停車していたドムの横にブライアンが追いついて「サヨナラも言わないのか?」と笑う。ウィズ・カリファが書き下ろした「See you again*5」をBGMにブライアントの思い出がフラッシュバック。並走するドムとブライアンをカメラは追うが、やがて分岐路に達し二台は別れ、地平線の彼方に消えるまでブライアンは走り続ける。


Wiz Khalifa - See You Again ft. Charlie Puth ...

 ポール・ウォーカーはもうこの世にはいない。しかし彼が演じたブライアンは永遠にこの世界の中で走り続ける。だからサヨナラなんて言う必要はないのだ。それを僕たちファミリーに見届けさせたこのラストに、ハンカチを持っていかなかったことを後悔したよ!

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映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』インターナショナル・トレーラー - YouTube

 

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*1:


ONE PIECE BEST ALBUM Family~7人の麦わら海賊 ...

*2:

 

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*3:時系列的に『SKY SKYMISSION』は『TOKYO DRIFT』の直後なのでショーンは高校生の設定のはずだが、明らかに一気に老け込んでいる。こちらはCGではどうにもならなかった模様。

*4:いわゆる"ツッコミどころ"がないとは言わないが、それはこのシリーズのお約束みたいなものであり、その"ツッコミどころ"がお約束程度に留めていること自体が神業なのである。それを鬼の首を取ったように草を生やしてバカにするのは野暮というよりほかない。

*5:家に帰ってからアホみたいに聞いてるから涙腺がガバガバですよ…。