今世界で歴史的大ヒット中の『ジュラシック・ワールド』(日本では今年8月5日公開)を土曜日に鑑賞。『ジュラシック・パーク』と『ロスト・ワールド』を撮ったスピルバーグは『ジュラシック・パークIII』と同じ製作総指揮に立ち、長編はSFを前に一本撮っただけのほぼ新人監督のコリン・トレボロウを起用。主なキャストは『LEGO®ムービー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と勢いに乗るクリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、イルファン・カーンや1作目にも登場したB・D・ウォンら。
興奮冷めやらぬ状態で書くので先に宣言しておくと、ネタバレ全開で書くつもりです。なので今ここでブラウザバックを考えている人には一言だけ。
僕たちはジュラシック・パークに帰ってきたんだ!
イスラ・ヌブルタの事件から22年後。「ジュラシック・パーク」を設立した亡きジョン・ハモンド*1のインジェン社を買収したインド系実業家のサイモン・マサラニ(イルファン・ハーン)がオーナーとなり、パークは新たに「ジュラシック・ワールド」として再オープンされて人気娯楽施設として成功を収めていた。しかし近年ジュラシック・ワールドはマンネリ化が問題となっており、更なる集客を図るためオーナーのマサラニは運営管理者のクレアと共に「より一層大きく、速く、けたたましく、強い」恐竜の開発を企画し、遺伝子学者のヘンリー・ウー(B・D・ウォン)は史上初めてのハイブリッド種恐竜 インドミナス・レックスを創り上げることに成功する。
一方で、元海兵隊員オーウェン(クリス・プラット)は獰猛なヴェロキラプトルの訓練を試みていた。インジェン社のセキュリティ部門幹部のヴィク・ホスキンズ(ヴィンセント・ドノフリオ)は人間に順応なラプトルを見て恐竜の軍事利用を提案するも、野蛮なラプトルの本性を知るオーウェンはヴィクに強く反対する。しかしトレーナーとしての手腕を買われたオーウェンは、インドミナス・レックスを公式に披露する前に意見を聞くためにマサラニに呼び出されるが、オーウェンがインドミナスを飼育しているゲートに着くとインドミナスが姿を消しているのであった…。
まず最初に言っておかなければならないのが、僕は『ジュラシック・パーク』という映画を愛しているということで、その愛については以前こちらの記事*2でぶちまけた。僕は小学校の卒業文集で将来の夢は「恐竜を復活させること」と大真面目に書くほど影響を受けていたし、ランドセルにはいつも恐竜図鑑が入っていて、図鑑を読むと「あ、ここの文が『ジュラシック・パーク』で描かれてたことと違う!この図鑑間違ってる!」と思うほど『ジュラシック・パーク』は僕にとってのバイブルだった。1作目だけでなく2作目も評判が悪い3作目だって大好きだ。
それだけに実に14年ぶりに公開された本作には期待と不安が50/50の割合で入り乱れていたが、観てみると本作のあまりの『ジュラシック・パーク』さに鳥肌が立ち、心はすっかり恐竜に夢中だったあの頃に戻っていた。本作は公開されるや否や世界的に特大ヒットをかましているが、それは何よりも本作が僕のようなかつての恐竜少年たちを再び熱狂させることに成功したからだろう。
僕が思うに、本作が『ジュラシック・パーク』している理由は主に5つだ。
①何よりも『ジュラシック・パーク』であること。
変な書き方だが、『ジュラシック・ワールド』は下手するとスピルバーグ自身が監督した『ロスト・ワールド』や『ジュラシック・パークIII』よりずっと正当な『ジュラシック・パーク』の続編かもしれない。コリン・トレボロウとその相棒の脚本家デレク・コノリーは本作を作るにあたって徹底的に『ジュラシック・パーク』を研究し尽くし愛を捧げている。
実は基本的なプロットラインは1作目をなぞっており、描いているテーマやクライマックスの構図まで同じ。Mr.DNA、恐竜の卵を扱う研究室、走るガリミムスの群れ、見上げるほど巨大なブロントサウルス、弱って横たわる草食恐竜など、1作目と既視感のあるシーンがいくつかあるか、そこにはマンネリよりも懐かしさを感じ、「俺たちは『ジュラシック・パーク』を作っているんだ」という作り手側の決意表明にも取れる。
②スピルバーグへのラブレターであること。
コリン・トレボロウやデレク・コノリーは『ジュラシック・パーク』だけでなくスピルバーグ映画をも徹底的に研究している。中々恐竜やインドミナスを観客に見せない焦らしの構成*3、光と影を使ったライティング、トラック・ショット、長回し、バイオレンス・ギャグ、親が離婚する子どもなど、本作はまるでスピルバーグが監督したんじゃないだろうかと思われるくらいスピルバーグ映画の特徴をよく捉えている。スピルバーグ作品へのオマージュも随所に見られ、予告編にもあるモササウルスの水中ショーでホオジロザメが吊るされてるのはあからさまに『ジョーズ』を意識していて笑っちゃうし、ラストにはラプトルとクリス・プラットによる『E.T.』的な場面まである。
言うならば、本作はまるでJJエイブラムスがスピルバーグ公認の元スピルバーグ愛に溢れた『SUPER8』を撮ったようなもので、トレボロウとコノリーもスピルバーグ本人の強力なバックアップの元でスピルバーグオマージュの映画を作り上げた。同じくスピルバーグ映画を愛し、『モンスターズ-地球外生命体-』や『GODZILLA』を作るにあたりでスピルバーグ的手法を模倣したギャレス・エドワーズ*4もこれには心底羨ましがっていることだろう。
③2015年版にアップデートしていること
①と似通っているが、本作は「もし2015年に『ジュラシック・ワールド』をオープンしたら?」をシミュレートしているのが面白く、そのためにプロットが似ていてもあまり気にならない。例えば絶滅した生き物を遺伝子工学によって復活させることは生命倫理上タブーであったが、今回はもはや恐竜を復活させることは当たり前になった世界観であることを踏まえ、そこから更に一歩進んでハイブリッド種(キメラ)というテーマに取り組んでいる。そもそもインドミナスが作られる理由も「観客がただの恐竜では驚かなくなってきたため」といういかにも資本主義的な発想で、刺激への欲望が留まることを知らない現代人への強烈な皮肉となっている。そしてクライマックスではインドミナス・レックスとT-REXが激闘を繰り広げることになるが、これはシリーズの根底にある「テクノロジーVS自然」の図式となっており、その決戦の行方はシリーズのファンならお察しだろう。
ところであらすじにも述べたパークが再開発された理由だが、インド系企業に買収されたからというのも現代的すぎて笑ってしまった。スピルバーグが率いる映画会社ドリームワークスはインドのリライアンス・エンターテイメントに買収されたが、ジュラシック・ワールドはハリウッドにおけるインドの影響を反映している。*5
④怪獣映画であること
スピルバーグは『ゴジラ』が大好きで、『ジュラシック・パーク』はスピルバーグなりの怪獣映画であった*6。続編『ロスト・ワールド』も『キングコング』×『怪獣総進撃』といった楽しい内容だったが、コリン・トレボロウも恐竜を題材に『ジュラシック・ワールド』を怪獣映画に仕立て上げた。
それを象徴しているのが二つの怪獣バトルで、まず一つはインドミナス・レックスVSアンキロサウルスの戦い。これにはどう見ても『ゴジラの逆襲』のゴジラVSアンギラスを想起せずにはいられない!もともとアンギラスがアンキロサウルスをモデルにした怪獣ということもあるが、試合の運び方といい制作側も明らかに意図しているだろう。たとえトレボロウが観てなかったとしても、スピルバーグが「アンキロサウルス出すなら『ゴジラの逆襲』くらい観とけ!」って指示したんじゃなかろうか。
そしてもう一つが先にもちょっと触れたクライマックスのT-REX VSインドミナス・レックスの戦い。シリーズを代表する大先輩T-REXが調子づいて暴れまわっている新人に「わりゃ、いい加減にせんど、おお!?」と言わんばかりに制裁に入り、二体がぶつかり合ってパークを破壊し尽くす圧巻の大怪獣バトルには思わず息が漏れた。そもそもそれまで頑なに姿をはっきりと見せなかったT-REXが登場した時点で劇場のどよめきが伝わり、二体の激闘プロレスには観客が一体となって興奮しているのが手に取るように分かった。
『ジュラシック・パークIII』ではスピノザウルスの凶暴さを示す指針としてのみ登場して呆気なく退場してしまったT-REXだったが、やはりT-REXこそがシリーズの顔である。そのことをはっきりと理解してこの最高のクライマックスを演出したトレボロウはまごうことなく我々と同じシリーズの大ファンであることは間違いない。
⑤音楽がリスペクトの塊であること
近年活躍が目覚ましいマイケル・ジアッキーノは今回もまたやった!JJ版『スター・トレック』で新たなテーマ曲を書き下ろしつつも有名なテーマ曲も起用して敬意を込めてアレンジしてたジアッキーノは、今回もジョン・ウィリアムズを完璧に意識した納得のスコアを書き上げた。といっても、ジアッキーノによるオリジナルのスコアは『スター・トレック』ほどは目立たず、前シリーズの旋律を大切に扱っているのが喜ばしい。なんといっても有名すぎる『ジュラシック・パーク』のテーマ曲で、これが冒頭で初めてかかったときには鳥肌が止まらなかった。このテーマ曲が無ければ他がどんなに良くても『ジュラシック・パーク』たりえない!もうこの世の全てのリメイクやリブート作品はマイケル・ジアッキーノに手がけてほしい。
Soundtrack Jurassic World (Theme Song ...
本当は語りだすときりがないが、以上の5点が僕が特に素晴らしいと思っている点で、とにかく『ジュラシック・ワールド』は原点へのリスペクト精神に満ちた傑作であった。実は本作はアメリカではちょっとした論争を巻き起こしていて、古生物学者や"恐竜"ファンからは最新の学説に基づいてヴェロキラプトルやT-REXに羽毛が生えていないことに対して批判が起きている。アホか、いるかそんなもん!これは恐竜についてのドキュメンタリーじゃなくて『ジュラシック・パーク』の続編なの!そこら辺をよく分かって余計なデザインを加えなかったトレボロウは実に信頼の置ける監督だ。*7
興行収入などの数字だけでなくこの作品がファンからも愛された証拠として、僕が観た劇場は土曜の夜ということもあったが、エンドロールに入った瞬間拍手が起きた。そしてアメリカの観客は最後までエンドロールを見る習慣はないので文字が流れ出したらゾロゾロと出て行くんだけど、その時最後まで座っている僕に4歳くらいの男の子*8が近寄ってきて「T-REXが一番強いんだ、ガオー!」と話しかけてきた。かつて僕らが『ジュラシック・パーク』に魅了されて恐竜少年になったように、『ジュラシック・ワールド』は次世代の恐竜少年たちを作り出しているのだ。胸熱!
映画『ジュラシック・ワールド』第2弾予告編 - YouTube
*1:演じたリチャード・アッテンボローが去年亡くなってしまいましたね…。RIP
*2:
*3:ただし、初めて恐竜が登場するのは豚を追いかけるラプトルのシーンで、1作目で初めてブロントサウルスを見てグラント博士と観客が一体となって驚くシーンの感動と比べるとちょっとスケール感に乏しいのは残念だった。
*4:
*5:留学先にもインドからの留学生がいっぱいいるので、その経済成長率の凄さをひしひしと感じる…。
*6:エメリッヒ版『 GODZILLA』は当初スピルバーグに監督オファーが来ていたものの、このために断った。「手を出すな」ということだ
*7:でも『ジュラシック・パークIII』の頭にちょこっと毛を生やしてみたヴェロキラプトルは好きだったりする。