偽善なんか喰い殺せ!/『グリーン・インフェルノ』★★★

 多忙につき久々のブログ更新で最近はTwiterもあんまり更新できず…。ただ映画は見続けております。

 

 食人族を描いたということで話題のイーライ・ロス監督作『グリーン・インフェルノ』を映画館で鑑賞。日本でも先日のしたまちコメディ映画祭の「映画秘宝まつり」にてプレミア上映が行われたそうで。日本公開は11月28日。

 

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 ジャスティン(ロレンツァ・イゾ)は国連弁護士を父に持つ、"問題意識"の強いピチピチの大学1年生。ある日ジャスティンは「Don't think, act!(考えるな、行動せよ!)」をスローガンに掲げる学生環境問題サークルに誘われる。やたらと意識の高い発言ばかりするアレハンドロ(アリエル・レヴィ)が率いるこのサークルの目的は、アマゾンの熱帯雨林と現地住民の住居を破壊するペルーの建設会社の横暴を止めること。目的を達成すべくサークルは謎の男カルロスの援助を得て、スマホのカメラを武器に会社の作業進行を食い止めることに成功する。勝利の宴をあげながら帰国せんとする帰り道、エンジントラブルで飛行機が墜落。ジャスティン含む何名かの学生は事故から生き延びるものの、謎の部族の吹き矢により気を失うのであった…。

 

 冒頭、ジャスティンは社会学の講義を受ける。議題は「女子割礼」について。未だに一部の部族やイスラム圏で実施されていると教授が教えると、真面目なジャスティンは手を挙げる。「そんなの間違っています!彼らを啓発して悪習を止めるべきです!」ジャスティンの言っていることは"倫理的には"正しい。しかし、彼女は"文明化された視点"でしか物事を捉えていないということに全く気がついていない。女子割礼を行う部族の生活、習慣、価値観、生き方、考え方、宗教などについて、いったいどれほど彼女は知っているのだろうか?確かに人権や人道的見地から女子割礼に問題はあるが、しかしまた何も知らずに西洋的価値観を勝手に押しつけるのもまたエゴである。

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 「ペルーの建設会社の熱帯雨林破壊を止める」という、学生団体の志自体は立派だ。しかし、映画内での彼らの実際の行動を見ていると、電波の弱い地域行くっていうのにやたらとスマホSNSチェックしてバッテリーを無駄にしたり、虫刺されを気にしたり、好きな女の子にアプローチしちゃったり、マリファナ手に入れたり…とどこかテニスサークルの合宿並みの能天気さが流れていることは否めない。そして案の定、うさんくさいリーダーのアレハンドロの偽善者っぷりが後半明らかになるのである。

 

 そして学生たちが自らの高慢な偽善に気付いた時は、食人族のご飯の時間なのでもう遅い!「こいつら全員喰い殺せ!(©前田くん)」ではないが、愚かな学生たちが丁寧に調理されて喰われるシーンには一種のカタルシスを感じずには得られなかった。食人シーンは僕が観た劇場で実際に吐く人がいたくらい凄惨で、「そんなシーンに快楽を感じるなんて頭おかしいんじゃないの!?」と思われる方もいるかもしれない。まあ、頭おかしいのは否定しないが、 食人シーンに至るまでのイーライ・ロスによる学生たちの描写が秀逸であり、またイーライ・ロスが拘りぬいた食人シーンの演出も言わずもがなで、実際カタルシスを感じさせる作りにはなっている。

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 偽善といえば、この映画が全米で叩かれて2年もの期間公開延期になった理由の一つとしてアマゾン現地人の描き方があった。公開されてからもなおサバイバル・インターナショナル*1から抗議をうけるなどして評判は芳しくない。しかし、イーライ・ロスは『グリーン・インフェルノ』の撮影前、実際にロケ地に居住する先住民族を訪れて、発電機とDVDプレーヤーを持ち込みルッジェーロ・デオダートの『食人族』(1980)を観せ「これを撮りたいんだ、協力してくれ!」と頼み込んだという。初めて映画を観たアマゾン先住民族は『食人族』の描写に大いに爆笑し、出演を快諾したという。イーライ・ロスの製作姿勢は極めて真摯で敬意に満ちていたと言えよう。『グリーン・インフェルノ』は作品の中でも外でも、この映画内の学生のように「分かった気でいる奴ら」の欺瞞を明らかにする痛快作なのだ。


「グリーン・インフェルノ」予告編 - YouTube

 

Cannibal Holocaust [Italian Edition]

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*1:先住民族の権利を主張するNGO団体。活動内容自体は立派だと思います。