もう早く終わってくれ!/『X-MEN : アポカリプス』★☆☆

 シリーズ通算9作目『X-MEN : アポカリプス』を鑑賞。監督は今回で4回目の起用となるブライアン・シンガー。脚本は『X-MEN』シリーズを支えてきたプロデューサー、サイモン・キンバーグ。出演にジェームズ・マカヴォイマイケル・ファスベンダージェニファー・ローレンスニコラス・ホルトローズ・バーン、そして新ヴィランを演じるのはオスカー・アイザック

 
※本レビューはネタバレを含みます。結末には触れていません。

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 すべての始まりは、紀元前3600年にさかのぼる。 歴史上で最初のミュータント、アポカリプスは、堕落した文明を滅ぼす、「神」として君臨していた。 ミュータントの力を吸収することで最強となるが、裏切り者の手によって古代エジプトのピラミッドの中に封印される―。

 時は移り、1983年、その眠りは覚まされた。核兵器開発など人類の堕落を知ったアポカリプスは、 マグニートーをはじめ4人のミュータント=“黙示録の四騎士”を召集し、 世界を“浄化”しようとする。プロフェッサーXやミスティークが率いる若きX-MENは、彼らとの戦いを強いられるが、 強力なテレパシーを手に入れたいアポカリプスが、プロフェッサーXまでも連れ去ってしまった……!

 最古最強の「神」アポカリプスを倒すためには、X-MEN全員のパワーを結集させなければならない。 シリーズの集大成にふさわしい激戦の火ぶたが、いま切って落とされる!(公式サイトより引用

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 『X-MEN』シリーズが始まったのは2000年、かれこれ16年もミュータントたちは戦い続けているのである。以前も書いたが、このようにグダグダ続くシリーズとなってしまったのは、ひとえに「三部作で完結させる」と言っていたブライアン・シンガーがあろうことか『X-MEN ファイナル・ディシジョン』のクランクイン直前に降板して『スーパーマン・リターンズ』の監督に移ってしまったからだ。数々の伏線が宙ぶらりんになり、シリーズをズタズタにしてしまった『ファイナル・ディシジョン』以降の『X-MEN』シリーズは、言うなればこの呪われた3作目を帳消しする為に続けてきたと言っても過言では無い。
 
 しかし、このフランチャイズ作品を作れば作るほど矛盾を産みだす不思議なシリーズとなる。そうした複雑になった時系列を一旦帳消しにしようと試みたのが前作の『フューチャー&パスト』*1であったが、作品としては面白かったものの、シリーズの辻褄合わせとしてはかなり強引な作りで、整合性を求めるとどこか腑に落ちない作品となった。こうした時系列や設定の矛盾*2による鑑賞ストレスは本作でも付きまとう。
 
 しかし、そうした矛盾を些細なものとして捉えても、本作はブライアン・シンガーが関わっている『X-MEN』映画にしては残念ながら期待値を下回る出来となってしまっている。それが本作の興行収入の不入りに繋がっているのであろう。
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 まず、展開の雑さに驚く。例えば、そもそもアポカリプスが復活したのはCIA職員のモリアの潜入捜査のせいだし、まーたプロフェッサーXは『X2』よろしく意識をハックされて全世界を危機に陥れるし、X-マンションが爆発したのもアレックス・サマーズの誤射のせい。つまり、全部味方のミスで悪い方向に進んでいて、正直間抜けに見える。マグニートーにより全世界の磁気が狂いだす中、X-MENが乗るジェットだけ動くのも都合がいい。何も重箱の隅まで突きたいのではなく、鑑賞中にこうしたツッコミどころに目がいってしまうことが問題なのだ。
 
 また、キャラがまたしても多くなってしまったせいか、ドラマの交通整理もできていない。X-MEN』シリーズで悲哀を背負うのはエリック/マグニートーであり、本作では隠遁してポーランドの工場で働き家族まで作っていた彼に悲劇が再び襲う。マイケル・ファスベンダーの演技力も相まってこのシーン自体はたいへん感傷的なものとなり、「家族」がマグニートーにとって本作では重要な動機となる。

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 そんな彼と対になるのはクイックシルバーで、遂に彼がマグニートーの息子だと明かされるのだが、その告白シーンの軽さときたら!ミスティークに「俺マグニートーの息子なんだよね〜」って、クイックシルバーマグニートーの残された家族、という重要な役目を負っているのに、こんなにあっけらかんとしてちゃ感情移入も出来ないよ!
 
 そしてマグニートーマグニートーで実は大した活躍はなく、本作では終始アポカリプスの手駒なので小物感が拭えない。主に残虐なシーンも全部アポカリプスが担当しちゃってるし。マグニートーがやってることといえば、宙に浮いてるくらいだろうか。

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 ところで、『X-MEN』シリーズの面白さと言えば、ミュータントを人種差別や同性愛のメタファーとして扱ったり*3、歴史的事実をさり気なく絡めたりする一面があった。しかし、『アポカリプス』にはブライアン・シンガーが監督しているのにも関わらず、フィクションと現実が交差する面白さがない。
 
 アウシュビッツ収容所は出てくるが、それもマグニートーの能力で破壊してしまうなど、謎の大胆さに驚いてしまう。新敵アポカリプスの目的も核の脅威があった80年代らしいものだが、正直大味で取って付けた感が否めず、これまでのマグニートーが人類と戦ってきた理由の方がずっと深く共感できた。

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 と、ここまで長々と問題点を述べてきたが、もっとシンプルに一番の問題を述べると尺が長くて飽きるに尽きる。正確に言うと、尺が長い割にドラマ運びの下手さなどをカバーするほどのテンションがないのだ。144分というシリーズ最長の尺をうまく扱えなかったという編集の問題があった。この点は『バットマンVスーパーマン』と同じだろう。
 
 そういえば、劇中で恵まれし子らの学園の生徒たちがジェダイの復讐』を観に行って「三作目って大抵駄作」なんて言うメタギャグが出てくるが、そんなシーン入れる暇があったら本作をブラッシュアップしろよ!さりげなく『ジェダイの復讐』もDisりやがって!

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 辛口で書いてきたが、ぶっちゃけるとRotten Tomatoesで低評価が下されるほど悪い作品だとも思わない。クイックシルバーの活躍するシーンは今作でも最高*4だし、なんだかんだアクションシーンは多いので娯楽として十分楽しめる。
 
 ただ、『X-MEN』シリーズは本数を重ねるごとに段々人にオススメしづらいシリーズになってきているのも事実だ。16年も続けてもやっていることも「ミュータントはつらいよ」の繰り返しになってきている。しかしエンドクレジット後を見る限りまだまだ止めそうにもない。永遠に続くフランチャイズ、というのが昨今の映画業界のトレンドかもしれないが、厳しく言うと『X-MEN』は早く綺麗な終わりを見せて欲しい。んでもって『デッドプール*5をずっとやってればいいんだよ!

 

 

 

*1:

*2:いくらなんでも国籍や生年月日が変わっているとビックリするよ!

*3:

*4:これ、発想が承太郎のスタープラチナ・ザ・ワールドと全く一緒だよね!

*5: