原点2作と似て非なる点/『マグニフィセント・セブン』★★☆

 わが国が誇る黒澤明の大傑作『七人の侍』を下敷きにした1960年のウエスタン『荒野の七人』をリメイクした(この説明がややこしい)『マグニフィセント・セブン』を鑑賞。監督は『エンド・オブ・ホワイトハウス』『イコライザー』のアントン・フークア、脚本はTVシリーズ『TRUE DETECTIVE』のニック・ピゾラット。急逝したジェームズ・ホーナーの音楽をサイモン・フラングレンが引き継ぎ、新たな七人をデンゼル・ワシントンクリス・プラットイーサン・ホークヴィンセント・ドノフリオイ・ビョンホン、マヌエル・ガルシア=ルフロ、マーティン・センズマイヤーが演じる。

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  本作を観る前に予習として『荒野の七人』を観たのだが、まずその感想を述べると当然『七人の侍』と全く同じプロットでありながら、確かに違う味わいの作品には仕上がっている。その顕著な例がやはりエンディングで、『七人の侍』には時代に取り残された侍たちの侘しさを感じさせる一方で、『荒野の七人』では最も若いガンマンのチコと村の娘が結ばれて終わる、良くも悪くもアメリカらしいハッピーエンディングに翻案されていた。

 

 しかし元が4時間もあった『七人の侍』を僅か2時間にまとめあげた『荒野の七人』の脚本にはどこか歪さも感じられた。例えば『七人の侍』では大きな魅力の一つにもなっていた前半の仲間探しは『荒野の七人』ではあっさりとしたものになってしまい、またガンマンたちが集まって村人のために戦う理由も義侠心のあった『七人の侍』とは違い「契約」以上以下の何物でもなくて不明瞭でもあった。

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 さて、今回新たにリメイクされた『マグニフィセント・セブン』は基本プロットこそ原点2作と同じであるものの、随分と現代流の改変が見られる。まず七人のメンバー構成だが、黒人ガンマンのリーダーを筆頭として、メキシコ人、アジア人、ネイティブ・アメリカンと多様性に富んでいる。当時の時代背景を考えると彼らに対する差別描写がほとんどないのはいささか不自然ではあるが、「ポリティカリー・コレクトネス」を考えるとこれが正解なのだろう。更に、これまでの二作と違い女性キャラクターが大きく活躍しているのも時代を感じさせる。敵役も野党集団から腐敗した企業に変わっている。

 

 そしてオリジナルの『荒野の七人』で不明瞭だったガンマンたちが立ち上がる理由にも今回説明がついた。ただし、僕はここが一番の問題点だとも思っている。ネタバレになるので伏字で書くが、今回の『マグニフィセント・セブン』では[リーダーのサム(デンゼル・ワシントン)と敵のボス ボーグ(ピーター・サースガード)には因縁があったことが明らかになり、実はボーグによってサムの母親と姉がレイプされ殺されたこと]がクライマックスで発覚し、実は[サムは復讐のために戦いに参加することを決意したこと]が明らかになるのだが、それって思いっきり[私刑のために動いてん]じゃん!監督のアントン・フークアは『七人の侍』の大ファンらしいが、『荒野の七人』を補うための脚色が思いっきり『七人の侍』のオツな部分を殺してしまっている。

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 せっかくの楽しさをクライマックスで冷まされてしまったが、エンドロールでちゃんと『荒野の七人』のテーマ曲が流れたのは良かった。リメイクやリブートで大事なのはやはりこういった原点への些細なリスペクトだと思う。

 

 

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