昨日2回目の『シン・ゴジラ』を観に行った。 Spotifyでサントラを見つけてヘビロテ再生状態で、寝ても覚めても『シン・ゴジラ』のことを考えているような日々である。
サントラといえば、『シン・ゴジラ』には往年の伊福部昭の名曲の他に『新世紀エヴァンゲリオン』の曲がかかる。*1最初音楽が鷺巣詩郎と聞き、更に予告編の曲がゴジラというよりはあまりにも『エヴァ』っぽくて難色を示してしまったが、いざ鑑賞してみると巨災対のメンバーが集まるたびに『エヴァ』でお馴染みのあの打楽器がリズムよく響くのは見事にマッチしていて唸られたのである。
この「♬ダーンダーンダーンダーンダンダン」が特徴的な曲は元々使用されていた『エヴァンゲリオン』のサントラでは「DECISIVE BATTLE」というが、更にこの曲は『007 ロシアより愛を込めて』でかかる「007 Takes the Lektor」が元ネタであることは広く知られている。実際に比べて聞くとよく似ている。
さてさて、しかしこの「♬ダーンダーンダーンダーンダンダン」を延々と聞いていると、どうしても思い出さずにはいられない作品がもう一つある。もちろん、90年代に人気を博したTVシリーズ『踊る大捜査線』である。これもまた有名な話だが、『踊る大捜査線』のサントラで使われている「危機一髪」は大のアニメファンであった本広克行監督が庵野秀明監督の許可を取って松本晃彦に作曲を依頼したそうだ。
※「危機一髪」は上記リンクの5:21〜から
『踊る大捜査線』の警視庁幹部の様子がまんま『エヴァ』の人類補完委員会であるように、『踊る大捜査線』は確かに随所に『新世紀エヴァンゲリオン』の強い影響が見られる。そして他のアニメや映画作品からのオマージュやパスティーシュに溢れているところも『踊る大捜査線』と『エヴァ』の共通点ではあるが、『エヴァ』が画期的なSFアニメであったように『踊る大捜査線』もまた(当時としては)画期的な刑事ドラマであった。
『踊る大捜査線』がそれまでの刑事ドラマと一線を画した理由は、『踊る〜』がそれまでの刑事ドラマの定石をとことん踏み外し、警察関係者への綿密な取材に則った徹底的にリアルな刑事ドラマを目指したからである。『太陽にほえろ!』と違い刑事同士はコードネームで呼ばず、実際に警察関係者が使う専門用語やスラングを多用し、銃弾1発撃ったりパトカーを出したりするのに必要な書類手続きの煩雑さを見せる。よくあるドラマと違い、決してカーアクションや銃撃戦などのない地味な警察の仕事に脱サラ熱血刑事の青島が幻滅する、というのがTVシリーズ第1話のあらすじであった。「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」とは有名なセリフだが、実際には『踊る〜』の魅力はアクションよりもこれまで刑事ドラマがあまり見せようとしてこなかった会議シーンにあった。
ところが、評価の高かった『踊る大捜査線』は劇場版シリーズ化されると、映画ファンの間でも悪名高い駄作映画シリーズへと転落してしまう。『踊る大捜査線』は映画化に際してスケールをあげるのと反比例してシリーズの売りであった「リアリティ」を失ってしまう、という矛盾に直面してしまった。話が大きくなればなるほどに脚本に穴が無数に生じ、次第には映画ファンならず『踊る』ファンからも失望されてしまう。遂に2012年の完結編『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』はシリーズ最低成績の興行収入を記録して幕を閉じた。
しかしここで話題を元に戻すと、この『踊る大捜査線』のリアリティ路線は、実は庵野秀明が見事に『シン・ゴジラ』で成功させているのではなかろうか。『シン・ゴジラ』はこれまでの怪獣映画の定石から外れ、実写ドラマに焦点を当て会議シーンが上映時間のほとんどを占める。「国連G対策センター」「スーパーX」などの特殊な組織や科学兵器は登場せず、あくまで現実世界の延長戦である日本国政府と自衛隊がゴジラを対処する。一々法整備を進めないと巨大不明生物を駆除できない手続きの煩雑さも見せる。そしてこういった地味だが徹底的にリアルに則った部分が『シン・ゴジラ』の高評価へと繋がっているのだろう。
思えば大元の『エヴァンゲリオン』にしても難解な専門用語が飛び交う会話劇がウケた部分もあるのだが、『エヴァ』に影響を受けた『踊る大捜査線』がそれを実写で試みたが失敗し、再び庵野秀明が『シン・ゴジラ』でリアルな「会議映画」として完成させた、興味深い円環構造がここに見える。
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