「ゴースト」のない「殻」/『ゴースト・イン・ザ・シェル』★☆☆

 士郎正宗原作・押井守監督の1995年のアニメ映画『攻殻機動隊/GHOST IN THE SHELL』をハリウッドが実写化した『ゴースト・イン・ザ・シェル』を鑑賞。監督は『スノーホワイト』のルパート・サンダース、制作に『スパイダーマン』のアヴィ・アラッド。主演はスカーレット・ヨハンソンが務め、ピルー・アスベック、チン・ハン、福島リラ、ビートたけし桃井かおりらが出演。

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 このブログでも何度か紹介している*1が、「Weeaboo(ウィーアブー)」というスラングがある。「日本かぶれ」という意味であるが、基本的には日本オタクのアメリカ人を指す。ウィーアブーは日本のアニメやゲームが大好きなくせに、日本の文化への理解度は極めて表層的だ。アニメやネットで映される「日本像」を鵜のままに受け入れ、日本をある種ファンタジー化する。ウィーアブーはとにかく日本人の友達や恋人を持つことを一種のステータスとするので、僕も何回かウィーアーブーに絡まれたことはあるが、ハッキリ言って苦手だ。

 

 何故こんな話を切り出したかというと、ルパート・サンダース監督作品にもウィーアブーの香りを強く感じるからだ。サンダース監督は日本のカルチャーの大ファンであることを公言しており、前作の『スノーホワイト』でも『もののけ姫』の分かりやすいオマージュを見せた。ただ、全編『ロード・オブ・ザ・リング」の影響が強い作品の中でそのシーンは唐突でしかなく、日本のアニメや特撮を骨肉としてさらなる高みへと昇華させた『パシフィック・リム』や『キングコング 髑髏島の巨神』とは雲泥の差であった。スノーホワイト』になぜ大鹿が登場するのかは「監督が好きだから」以外に特に理由はないのだ。

 

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』は『スノーホワイト』の『もののけ姫』オマージュが全編続くような映画だ。予告編でも見られるとおり、最新のビジュアルを駆使して『攻殻機動隊』のシーンを可能な限り再現しようと試みている。確かに、近年漫画の実写化作品に対する風当たりは強く、名シーンを忠実に映像化するのは妥当な判断なのかもしれない。しかし、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の失敗は「殻」の再現に終始してしまい、肝心の「中身(ゴースト)」については作り手が表層的に理解してしまったことだ。

 

 例えば、制作ニュース発表の時点で叩かれていたスカーレト・ヨハンソンだが、彼女を起用したこと自体は間違っていなかったと思う。実際、本作における彼女の演技力は彼女の他作品同様素晴らしいし、実は彼女が白人であることでより『攻殻機動隊』の世界観がよく表現されている物語上の上手い仕掛けもあったりする。しかし、本作の草薙素子(いや、役名は『ミラ・キリアン』なんだけど)はやけに苦しみ、笑い、怒る。ルパート・サンダース草薙素子を「ハリウッド化」するにあたり人間味あふれるキャラクターとして描いてしまい、結果として草薙素子の魅力も彼女を演じるスカーレット・ヨンソンの魅力も殺してしまっている

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 ルパート・サンダースの薄っぺらな理解は主人公だけに伴わない。ビートたけしが荒巻大輔を演じる*2ことが話題となり、僕もアメリカの劇場でたけしを見るのは楽しみであった。しかし、荒巻はなんと日本語しか喋らない。なるほど、機械で脳が拡張された世界ならば通訳は必要あるまい。ただし、問題は逆に英語以外の言語を喋っているキャラクターが荒巻以外にほとんどいない点で、荒巻はそのために浮いてしまっている。

 

 都市描写は『攻殻機動隊』にさらに影響を与えた大本の『ブレードランナー』に倣って日本語・中国語・ハングルが飛び交い、実にポストモダン的だ。だからこそ、よりメインキャストが英語しか喋らない不自然さが際立ってしまう。個人的には草薙素子の白人化よりもこの無神経さの方が本作の問題を象徴していると思う。

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 では元の『攻殻機動隊』とは別作品として観ればいいじゃないか、という意見も出てくるかもしれないが、一つの娯楽作品としてもアクションシーンは(原作を再現しようとするが為に)時代遅れのようなスローモーションの多用でテンポが悪く、ことあるごとに少佐は爆発に吹っ飛ばされ、誘拐される。元々の85分の作品を107分に引き伸ばしているため、全体的にも間延びしているもネックだ。こういうことを言ってもあまりしょうがないが、一緒に行った友人の一人は途中から爆睡し始めたくらいだ…。

 

 辛口になってしまったが、原作を再現しようとする姿勢には好感は持てる。ただ、これだけ世の中が発展しようと未だに20年前の原作を超えることができないとは、改めて原作の偉大さを思い知ったのであった。

 

 

 

*1:

*2:たけしの演技が棒読みで気まずかったんだけど、でもたけしって役者もやってるから演技ができないわけないんだよね。これも監督の演出力の問題だと思う